どうやら俺は、ヒロイン達に嫌われている様なので傍観位置を貫きたいと思います。【フォロワー1000人感謝!!】
蜂乃巣
第1話 ヒロインは振られる
時々考える。
もしもこの世界の主人公が自分だったら、と。
大抵の人間は、ハーレムだったり異世界転生だったり、スーパーヒーローになったり...と日常とは逸脱した非日常を夢見て望むものだろう。
だが、俺の場合は、自分がこの世界の主人公だったら何をしたいか、と問われたら食い気味にこう返すだろう。
「ラブコメ主人公とヒロイン達とのラブコメを見ていたい。てか、幼馴染とかクラスメイトがお互いに競い合って主人公を取り合うのを身近で見てみたいし、なんなら、ヒロインレースの行く末を間近で見てみたい。」と、早口で問答しまう程に、俺はラブコメを程良い立場から見ていたいのだ。
ーーーーーーーーーーー
「私と...付き合ってください。」
「...。」
キープか、本妻か。
まぁ、この俺様の彼女になるというならそれ相応の...。
「ごめん、俺好きな人がいるんだ」
ジュルッ。
オレンジジュースが妙に口に残る。
ハァ。
どこもかしこも恋愛シーズンなのだろうか。
そんな恋の獣となってしまった男女を片目に俺は人気の少ない旧校舎の廊下を歩く。
「...。」
その目つきをやめて下さい。
振られた側の女子が、恥ずかしさからか、はたまた怒りからか、俺をサッと冷たい眼差しで見つめてくる。
あれは、完全に怒りだろう。
俺は急いで視線を下に向ける。
ん?待てよ?
あの振られた方の女子、、、。
「ごめんな。杏里。」
「いや、、、私の方こそ。ごめんね。」
「はっ??」と思わず叫んでしまいそうだった。
その彼女が!
なんとそんな彼女が振られてしまったのだ!
何というか、高嶺の花と謳われている彼女が振られている姿を見て、同じ人間なんだと実感した。
ん?そう考えると、なんかあれだな。
これ、あれじゃないか。
学校一の美少女を助けたら、何故か好意を持たれている様です、的な。
もしかして、この高嶺の花の告白相手って、ラブコメ主人公だったりするのだろうか?
「雄介...じゃ、私達はいつも通り...ね。」
「あぁ。」
雄介って、、、都治巳杏里の幼馴染、
顔を見てなくて良かった。
一応、俺と辻雄介はクラスメイトなのだが、話した事はない。
というか、俺のお気に入り(ぼっち飯)スポットで告白する方が悪いのに何で、俺の方が下を向いているのだろうか。
トボトボと下を向いているうちに二人の声は段々遠ざかっていく。
「はぁ。」
あの辻雄介という男は元からパラメーターがラノベ主人公を超越しているため、あれはラブコメでも何でもないな。などとヒソヒソと独り言を呟き歩いていると...。
ドンドンドンドンッ
何者かが、廊下を蹴る音が段々と後方から聞こえてきた。
やばい。ただ俺の第六感がそう告げていた。
「ねぇ...!」
声の主が女の子だという事に気づいた瞬間、一気に俺の頭の中がフル回転し、後ろの人物が誰なのかという結論を導き出した。
ー都治巳杏里だー
それが分かった瞬間に俺は、まるで死が後ろから追いかけてくる感覚に陥る。
そしてその感覚に応じて俺の足が通常の2倍の運動を発揮した、つもりだった。
「ちょっと...何で逃げんのよ!」
この時ばかりは俺の足の遅さを憎んだ。
「はぁ。はぁ。」
多分さっきの一瞬目が合った程度では、俺の顔をハッキリと覚える事はできなかっただろう。てか、覚えられたら学校生活を送る上で確実にマイナス要素になるのだ。
何故なら一連の俺の行動で、「あっ、私の告白現場を見て走って逃げた奴、キモいわーマジで。」とか、「あいつ私から逃げる為に全力で走ってたくせに、女の私から逃げられないなんてダサくね?」などと吹聴される危険性があるからだ。
ん?いや待てよ。
カースト上位の都治巳杏里の事だ。
幼馴染から振られたという事を他者に言うだろうか?
ラノベ知識だが、カースト上位の女子は振られた事を周りには言わない。
何故なら、カースト上位の誇りとプライドがあるから。
「むふっ。」
「え?なに...怖いんだけど。」
勝った。
俺が弱みを握られているのではない、俺が弱みを握っているのだ。
「いや、で...どうしたんすか?」
「...いや、アンタ。見たでしょ?」
「え?何をすか?」
まぁ、彼女もこれ以上、あの件に関して詮索してくる事はないだろう。
見てないフリでもしておけば適当に逃してくれるはずだ。
「アンタ、目の前通ったじゃない!」
豊満な身体を揺らしながら、怒りを露わにする彼女だが、さっきの後ろから漂っていた殺気とは裏腹に今は謎の可愛さを醸し出していた。
何だこの生物は。
身長は150センチ位だろうか。
サラサラの黒髪をポニーテール型にしているため後ろにある纏めた髪がピョンピョンと後ろで揺れている。
顔を見なくても、動作だけで男を虜にしそうな、そんな雰囲気を漂わせる彼女は、俺の反応をみて怒りを露わにしていた。
「何、無視してんのよ!」
「あぁ、ごめん。えーと...誰にも言わないから。」
「やっぱり見てたんじゃない!」
「え?ちょっ!」
俺の下から上目遣いで睨んでくる彼女だが、何だ可愛いぞ。
やばい、こんな至近距離で女子と話した事のない俺からしたら、とてつもなく今の状況はマズイのだ。
「絶対ッ!言わないから!」
そう言い、俺は後ろに後ずさる。
「絶対よ?!言ったら絶対に許さないんだから!」
「あぁ。フッ。」
やってしまった、、、。
一生懸命に俺を威嚇する彼女の姿が少し、小動物の様に見えて、笑いが溢れてしまった。
「...!」
「ご、ごめん!それじゃッ!」
そう濁して、直様この場から逃げ出そうとする俺を彼女は真っ直ぐ見つめながら
「私、君のこと嫌いだわ。頼水君。」
「はっ?!」
俺は悟った。
学校生活の終焉というものを。
「それじゃ。」
あぁ、完全に終わってしまった。
その場から、動けずにいた俺は、他人から見たら地面に張り付いた蝉にでも見えるだろうか。
そんな意味不明な事をフリーズした脳内で語りながらトボトボと教室に戻る。
旧校舎から出ると、空はまるで俺を笑うかの様に光り輝いていた。
「あー、帰りたい。」
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