第2話 長命種の少女

 サカエータ王国の近くに位置している森。そのくさむらを一人の少女がかき分けながら進んでいた。白髪に色白の肌に加え、尖った耳を持っていることから彼女の種族は長命種エルフと呼ばれている。


「もうすぐ着くはずだ。ユノ、耐えていてくれ…!!」


 その言葉を放った時、彼女は先の方に気配を感じ取った。彼女は叢の中に身を隠し、気配の正体を探る。すると、彼女の目の前にいたのは三メートルほど緑色の怪物、オークの姿があった。彼女はその姿を見るやいなや、顔に怒りを顕にする。


「あいつがユノを…みんなを!!!」


 腰に刺していた短剣を鞘から引き抜き、そのオークに向かって走りだす。


「ブオォォォォォォォォォォォ!!!!」


 オークも彼女に気づいたのか、物凄い雄叫びをあげる。そして同じように彼女に向かって走りだした。


バシン!!


 オークの棍棒と彼女の短剣が交差する。しかしその体格差故か、彼女は短剣と共に飛ばされてしまう。だが空中で一回転をした後、危なげなく着地した。


「オークめ!!妹達を返せ!!! 『アクセル』!!」


 その言葉を唱えた途端、彼女の体から白いモヤが出てくる。この世界には魔法が存在し、魔力を消費することで効果を得ることができる。彼女が唱えた『アクセル』は、自身のスピードを上げるものである。


「一対一なら負けない!」


 オークの前から彼女の姿が消える。オークが気づいたときにはすでに彼女はオークの目の前まで接近していた。次の瞬間、オークの腹がバツ印に引き裂かれる。


「グオァ…!!」


 オークは口から血を吐き出すが、彼女の攻撃は止まらなかった。オークの背後に移動し、背中を引き裂く。その攻撃でオークの体が前に倒れた時、すかさず後ろから頭に短剣を差し込む。短剣はオークの頭を貫いた。


ドサッ

「・・・・・・・・・・・・」


 オークは叫びもしなくなる。地面に倒れたまま微動だにしなくなった。恐らく力尽きたのだろう。だが、彼女の顔から怒りは消えていなかった。すると彼女は短剣を引き抜いたと思ったら、両手で短剣を持ち直しオークの頭に刺す。その行為を何度も繰り返した。


「クソ!クソ!!クソがああ!!」

グサッ グサッ グチョッ


 オークの頭はすでに原型を留めていなかった。だが彼女は構うこと無く短剣を何度も頭に突き刺す。何度も、何度も。だがその行為に意識を向けていたためか、後ろからの気配に気づくことはなかった。


ドゴッ!!


 背中を思い切り殴られ、彼女の体は勢いよく近くの木に激突した。


「カハッ…!!」


 朦朧とする意識の中、彼女の目の前にいたのは、三体のオークだった。


(なぜここにこんなにオークが…まさか最初の咆哮で仲間を引き付けてしまったのか!)


 そんな事を考えているが、すでに三体のオークは接近しつつある。短剣は先程のオークの頭に突き刺さったままだった。


(取り敢えず剣を…)


 先程のように『アクセル』を唱え、短剣に向かって走り出そうとした時、彼女は地面に倒れた。先程の衝撃で頭を強く打ったのだろう。彼女は走るどころか満足に歩くことさえできない状態だった。


(まずい!オークが…)


 焦って顔を上げると、周りにはオークが取り囲んでいた。仲間を殺されたからか、オークの目は充血し、さながら鬼の形相であった。しかしその形相とは裏腹に、下腹部が盛り上がっている。その様子を見た彼女の表情はみるみる絶望の表情へ変わっていった。


「嫌だ…嫌だ…いやああああああ!!!!!」


 逃げようと体を動かすが、一体のオークによって蹴り飛ばされ、再度木に叩きつけられた。木を背にした状態で周りには三体のオーク。おまけに瀕死の状態。もはや逃げることなど不可能だった。


(間違っていた…一人でオークの討伐に来るなんて。一人でもみんなを連れて帰れるって思い上がっていた…ごめんね、ユノ。不甲斐ないお姉ちゃんでごめんね)


 目から涙が一筋こぼれ落ちる。そんなことお構いなしに、オークは息を荒くしながら彼女に近づく。服を掴み、そのまま引きちぎり、彼女の裸体が顕になる。一体のオークの下腹部もまた、気休め程度の藁の腰巻きを貫通し、顕になった。小柄な彼女の三分の二ほどの大きさのが、彼女に近づく。しかし、


ズバン!!


 彼女に近づいていた一体のは、すでにあるべき場所に存在せず、それと思わしきものは、オーク達の横の木に叩きつけられる。あまりの勢いからか、それは木にめり込んでいた。


・・・グオオアアアアアアアアアア!!!!


 遅れて痛覚がオークの下腹部から伝わったためか、先程と比にならない悲鳴混じりの雄叫びを上げる。があった場所を両手で抑え、膝から崩れ落ちた。


(なんだ・・・?何が起こって・・・)


「おい」


 彼女とオーク達はその声がする方へ視線を向けた。そこにはオークと同じ位の大きさのを携えた青年がオーク顔負けの鬼の形相で佇んでいた。


「このクソッッタレどもがああああ!!!!!!」





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