第1話 角野蓬という男

 科学の代わりに魔法が発展し、生活の一部となった世界『ファンタジア』。その理由の一つとなるのが、魔王率いる魔族軍の侵略である。その為、魔族VS人族の戦いが続いていた。


 ファンタジアの人族の中で、最も栄えた王国『サカエータ王国』は、長年の戦いに終止符を打つべく、勇者を召喚することにした。


 これに応えるように、ファンタジアの女神『アフシール』は、別の世界から勇者となるに相応しい人物を探していた。


「う〜ん…どうしよっかなぁ」


 そんな女神アフシールは天界から日本をじっと眺めていた。


「勇者でしょぉ。とりあえず、急に異世界転生です!って言っても飲み込みが早そうな日本で探してみたけど、勇者になれる逸材っているのかなぁ」


 アフシールは、純白の大きな羽をたたみ、地面にベタンと寝そべった。


「勇者って誰でも良いわけじゃないんだよなー。まず頭と運動神経良くないとこっちでの基礎ステータスに影響しちゃうし、顔も少しは良くないと交渉とか他のことでかなり苦労するからなぁ。けどそんな存在日本だとなかなかいないんだよねぇ」


 アフシールは寝返りをうち、数を数えるように指を折り曲げ始めた。


「この間見つけた俳優のあの子は良かったけど、ビビりだし自己中だしでとても勇者って器じゃないし、性格重視で選んだ大学生のあの子は頭あんまり良くなかったし(あと顔がイマイチ)。なかなかいないなぁ。あ〜あ。どっかに文武両道・眉目秀麗で性格がすこぶる良いThe.勇者って子いないかなぁ」


 数秒、そんなことを嘆きながら天を仰いでいた。その後、寝ていた体を起こし、もう一度、日本を眺めた。


「こんなことしててもそんな子いるわけないし、仕方ない。ここは妥協してあの俳優の子に…」


 そんなアフシールの目はある一点に釘付けになった。場所は都内の超名門高校。その生徒の一人だった。


「嘘!何あの子。一人だけオーラ別格じゃない!?ええっとあの子は…」


 アフシールは親指と人差し指で丸を作り、その穴から彼を覗いた。これは女神が持っている能力の一つ『観察眼』。対象のステータスを覗き見ることができる。


名前:角野蓬(カドノ ヨモギ)

年齢:17 性別:男

身長:185cm 体重:72kg

技能スキル:なし

概要:中学3年生時、バスケットボール全国大会で優勝。そのチームのCP兼エースとして活躍。その後、僅か三ヶ月で偏差値70オーバーの都内名門高校に進学。さらに現在に至るまで、学年で成績1位をキープしている。あと彼女持ち。


「……凄すぎる。日本にはまだこんな子がいたのね。文武両道でおまけに顔もいい。もうこの子が勇者で…いやダメよアフシール。そんな直ぐ決めちゃ。まだ性格がいいって決まったわけじゃない。もっと注意深く観察しないと!」


 しかし、そんなアフシールの懸念は即座に裏切られることになる。数時間後、放課後となり、皆下校したり部活に励んだりしていた頃、蓬は女子と二人で体育館裏に来ていた。その女子は蓬の彼女と言う訳ではない。


「蓬くん…ごめんね急に呼び出して。蓬くんに彼女がいるのはわかってるけど…好きです!付き合ってください」


 アフシールは両手で顔を押さえ、悶絶していた。


「キャーー!!今でも体育館裏で告白する子っているのね!凄くいいわ!それにこれで彼の内面を見定めることもできそうね。もし性格が悪かったら…」


〜〜女神の妄想タイム〜〜


「好きです!付き合ってください」

「え?無理ww だって彼女いんだよ? わかってんならなんで告るのww それに今時こんな場所で告白する?普通はL⚪︎NEとかで…」

「うぇ〜ん(泣)」


〜〜終了〜〜


「って感じになるはず(知らんけど)。さあ蓬くん。あなたならどう返す?」


〜〜実際のシーン〜〜


「好きです!付き合ってください」

「…風香さんだよね?」

「私の名前!覚えててくれたんですか!」


 風香の顔には緊張が少し混じった喜びの表情となる。


「もちろん。けどさっき風香さんが言ってた通り、僕にはもう彼女がいるんだ。だから…ごめん。気持ちには応えられない」

「そう…ですよね。はは…やっぱり私じゃ蓬さんの隣に立つことなんて…」

「そんなことないよ」

「え?」


 意表をつかれたからか、風香の顔は蓬に向き直る。


「確かに彼女としては無理だけど、としてなら隣に立てるよね?」

「友達…」

「ごめん、嫌かな?」

「そんなことないです!私、蓬さんの友達になりたいです!」

「うん!ならこれからよろしくね」

「はい!!」


〜〜終了〜〜

 アフシールの目からは拭い切れないほどの涙が溢れ出ていた。


「うわあああん!!蓬くんめっちゃいい子!紳士!よし決めた。この子にする。逆にこの子以外ありえん!早速準備しないと!」

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