アルバイトのあるお話
若狭兎
募集要項を読んでて
これは、実際にあったお話なんですが……。
私、フリーターをやってましてね。いわゆるフリーアルバイターってやつなんですけど……ただ、今って物価高じゃないですか。アルバイトだけだと、どうにも生活が苦しい。
「まいったなぁ、どうしたもんかな~」
なんて悩んでた。
シフト制でね、バイトの時間以外は特にやることもない。んでもって、半日くらいは取ろうと思えば時間もとれる。こんな毎日なもんだから、どこかもったいないような、そんな気持ちもあったんでしょうね。
「そうだなぁ、ダブルワークでもやってみようかな~?」
ふーっと、思いついた。
だったら、やってみようじゃないかと思い立って、ネットであれこれ調べてみることにしたんですね。今の時代は良い時代でね、インターネットで調べると、あれこれ求人が出てくるんですよ。
「お、これいいな。これも悪くないな」
いろんなアルバイトを調べていく中、一つ、気になるものを見つけた。
「エキストラ募集?」
というのも、とあるテレビドラマのロケで、出演してくれるエキストラを募集してたんですね。応募総数は大体25名くらい。夏の思い出に、仲間を誘って出演してみませんか? そんな文言につられ、どんどんと募集ページを読み進めていくことにした。
どうやら、ロケは8月の間に4回ほどを予定しているらしい。1960年代のドラマらしくて、それに合った時代背景の服装準備が募集要項に書かれている。しかも、日程によってはスラックスや開襟シャツ、ワンピースなど、男女ともに細かく指定もある。
「ほんのちょっと映るだけなのに、事前準備に労力を割かれるなぁ」
ちょっと面倒だなぁ、嫌だなぁ。
少し疎ましく思う気持ちがありつつも、ドラマはリアリティが大切ですからね。仕方ないかぁと納得して、また読み進めていった。
集合場所は現地集合。私の住んでいるところなら車で1時間ほどで、仮にもし、バス等の公共交通機関を使うならもうちょっと時間に余裕を持たねばならない。
ロケは10時から18時までとの記載があった。演者が行うロケなので、おそらくエキストラはほとんどが待機時間。ずいぶんとまぁ、長く拘束されるなぁ。
猛暑の時期ということもあって、熱中症対策なんかもしなくてはならないですからね。飲み物なんか、塩タブレットもこっちで準備しなくちゃ。嫌だなぁ、嫌だなぁ。
ここまで厳しい箇所ばかり目についてきたんですが……それでもまぁ、一日の報酬に見合うものであれば、こっちも別に文句はないですからね。
私、一番重要な項目を探しみたんですよ。
ところが……。
ない! ないんだ! いくら探しても、どこを探しても報酬のページが見当たらない!
いわゆる記載漏れってやつかなぁ? これじゃあ参考にできないなぁと困り果てていた。そんな中、最後にある注意事項を見つけました。
「この募集に謝礼金・交通費などはいっさいありません。なお、募集定員が応募総数を超えた場合、こちらで選定をさせていただく可能性があります」
背筋がゾゾゾッと凍り付きましたね。
夏の炎天下に、ほぼ一日拘束されるんですよ? かなり上から目線ですよ? 果たして、応募なんてあるのでしょうか。ホラーですよねぇ。
怖いなぁ、怖いなぁ~。
アルバイトのあるお話 若狭兎 @usawaka
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