第17話 なまえをきめる。

■―――――

いつの間にか開店していた店内はトーチ!トーチ!とトーチが飛び交っている。


『テオ、聞こえたの?』

『ああ。聞こえた。』



「じゃあ姿も見せてあげよっかな。」


カウンターに降り立った。

青緑の髪と白い肌。琥珀の瞳の中心は深緑で時折キラキラと光っている。半透明じゃない青緑は初めて見た。


『っ確かに青緑だな。』

突然現れた姿にテオは少しびっくりしたようだ。



「アタウィルって呼んでいいよ。」


『・・・テオバルトだ。守護霊か?』


「僕?僕は違うよ。昔は精霊って言われたこともあるけどね。ちょっと違うしね。あっちこっち行ってるんだ。」


『でもここでしか見ないよね?』


「ここのドワーフは美味しい物を作るから。時々つまみ食いするの。見られると食べづらいでしょ?」

なるほど。確かに。


「名前はどうするの?」


『『・・・名前。』』

モケモケの名前なぁ。





『 かるぱっちょ。 』

心なしかキラキラした目を向けてくる。

あー。カルパッチョになってしまう。どうしよう。



「あっ。カルはどう?アウラーの世界にそんな名前の神様が登場する本あったよね。縁起良さそうじゃない?狼の見た目なんてピッタリじゃない。」


『そうなのか?』

『ごめん、知らない。』

そんな神様居ただろうか?



何回か転がって、こちらを向くと

『カルにする。そうよんで。』


モケモケもといカル。

ちょっとだけ流暢になってない?



「今まで会話する事がなかったみたいだし、名づけって結構大事だからね。しかも本人の気に入っている名前みたいだからもっと成長するよ。」


そーなのか。カルパッチョにならなくてよかった。


話しているアタウィルの真横にゴトンッとジューッと油の跳ねる音のする大きな鉄皿が置かれた。

「ステーキ出来たぞ。」


あっぶな。

二人共お皿に潰されたかと思った。


カルもアタウィルも一瞬で少し離れた場所に移動しており少し皿を睨んで居るように見える。

うちらにしか見えてなかったんだ。


「ほれ。熱いうちに食いな。」

「  いただこう。」


分厚い赤身肉のステーキはナイフを入れると繊維に沿ってスッと切れる。抵抗無しだ。

テオが口に含むとハンバーグ並みの肉汁が噛ごとに、どわっとあふれ出る。掛かっているベリーのソースがまた濃厚で肉に負けないと主張をしてくるが個性を殺さずに調和している。


「美味いだろう。新鮮な肉じゃなきゃこうはいかない。テオ、お前どうやって血抜きした?」


カウンターに三角錐の何かを置いてリードが問う。魔道具?

テオと私はそれをちらりと見て、先程から皿の真横からステーキを凝視しているアタウィルに視線を移した。


『テオ。見てるよ。』

『ああ。口に入れた時にがっつり視線を感じた。カルも心なしかこっちを見てる気がするんだ。』


『そうだね。もう一枚ステーキ貰って、二人にあげない?』

『そうだな。』


「リード。話す前にステーキを二皿くれ」

『2?』

『オレの分だ。』

成程。


ステーキを新たに貰ってアタウィルとカルの方に差し出すと二人は勢いよく食べ始めた。


「『おいしい!!!』」

クルッとこっちを向いたカルは

『名前・・・』とつぶやいた


『『ステーキはダメ』』


『・・・ヴィントカウは?』


『『却下で。』』


これを許すと私名前覚えられなくなります。

『さっき名前決まったばっかりじゃん。カルの方が格好いいし可愛いよ。』


なんとか説得を試みよう。

クルッとステーキに向き直って食べ始めるカル。


『照れたな。』

『あれ照れなの?可愛いいな』


「お前自分の守護霊にステーキ食わせてんのか。守護霊って飯食うんだな。」


「ああ。旨いらしい。」


また机に魔道具を置いて話し出すリードに向かってテオが、


「血抜きの方法だったか? 今回は鮮度が大事だと言われたからな。

首を切った時に空間魔法で下半身の血を上半身に移したんだ。

外に移動させるのは俺にはまだ無理だからな。ほら、ここでエリックに譲ってもらった本があっただろう?あれに似た魔法陣があったから真似たんだよ。捌くのは慣れているからな。食えそうな肉はなるべく早く切り分けて鞄に入れた。」


「魔法陣を見て真似るなんて中々しねぇぞ。陣を買えばいいしな。空間魔法か。持ってるやつが少ねえな。あんまりおおっぴらに言うんじゃねえぞ。

商人に目ぇつけられたら面倒だ。」

リードが神妙中ををして言う。



「この国でもそうなのか。」


「人間種の国よりはマシだ。鳥人種も虫人種も多いからな。まあ殆どが冒険者だがな。ここらの職人工房街からも常設依頼が出ているぞ。」


「そうか気をつけよう。」


「まあ、今回は肉ありがとな。ギルドで金を受け取ってくれ。」


「ああ。もうそろそろこの国を出ようと思う。居心地が良すぎて居着いてしまいそうだ。」

「そうか。」


「明日明後日と言う訳じゃない。後何回かは狩りに行くからまたトーチとステーキを食わせてくれ。」


「おう。守護霊も食い終わったみたいだな。大型か?食いっぷりが気持ちいいやっ」


「守護霊ともう一人だ。」


「もう一人?・・・それは青緑の方か?」


「ああ。見えるのか??」


「いや。昔から時々厨房で作業してると料理が少し消えるんだ。」


食べてるな。つまみ食いのレベルじゃなく食べてそうだ。


「まあ、それが続いたから多めに作るようにしてるんだがな。ある時夢を見たんだ。内容は忘れたがあの髪と目が印象的でな。アレは神霊の類いだと思う。起きたらスキルが増えてたし、見たことない希少食材が置かれている時もあるしな。そうかここに居るのか。」



「・・・まあ、そうだな。」



そんな徳の高い存在は膨れた腹をさすりながらカルに凭れている。




もう少しカルはここに居るとのことなので、先に宿に帰ってきたテオは地図を取り出して見ている。


『移動するの?』

『夏に海のある国に行きたいんだ。リードに聞いたんだが、魚を生きたまま食す場所があるらしい。鳥人種が多いそうだ。』


地図を見て思ったが、この共和国はBを横にした形に見える。丸みがある方が下を向いている感じだ。丸というよりは三角形だが。


南部分は大半が海に面しているようだ。

右上から入ってすぐの山脈地帯がドワーフの国。そこから南下する予定らしい。ドワーフの国も広いな。






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次回は明日  行けるかな...

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