第16話 髭、光ってますよ


■―――――

誰もいなくなった店内で、ヴィントカウの討伐について聞く。


『今日試してみたかった事って?』


『ああ。闇魔法で動きを止めようとしたんだが。まさか水の中で生活しているとはな。


結局空間魔法と風魔法でグラビティを使って沈まないように動きを止めた上で体に薄く空間魔法の結界を張り空気と魔力の供給を止めたんだ。』




とりあえず、沈まないように重力魔法掛けたって事だよね?ムズいな。



『へぇ。 空間魔法っていいよね。欲しい魔法ランキング上位でしょ。』

『ラン・・・?』

『異空間収納とか移転とか空閑縮めて攻撃とか色々欲しいよね。』

『そうだな。冒険者になるまで少し座学で学んだ位だからな。まだまだだ。


他のヴィントカウはどうして逃げなかったのか。』



『ぐらびてぃのまほうのくうかんまほう、ぜんぶにかかってた』

モケモケ?


『そうか。道理で最初に一気に魔力が持っていかれた訳か。

まだまだ練習しないとだな。』


テオから解説してもらった。

グラビティを掛けた時に、空間魔法に魔力配分が多く行き、湖表面に固定魔法が掛かったそうだ。ヴィントカウの角は魔力供給や気配察知する場所の為とても繊細で、急所を固定されたために無理に動かずにいたらしい。対象の3体以外は逃げるよりも私たちが居なくなるまで湖の中に隠れていたようだ。




モケモケ凄いな。理解できるテオも凄いな。



『そういえばモケモケの名前って何?』

『モケモケ・・・。実は、契約した時に名前を聞いたんだが聞き取れなくてな。』



『えー・・・ カサカサ的な?』

『いや。緊張していて聞き取れなかったんだ。』

『緊張』

テオが?

そんなこともあるのか。


『モケモケ。あんた名前は?』


テーブルの上でコロコロこちらに来る。チラッとこちらを向いて


『なんでもいい。』

そう言ってまた転がっていく。


『いやなんでもいいって。』



「いいんじゃない?契約の時くらいにしか使わない名前だしね。

他の人に知られたら厄介だから。」



『っ。居たんだ。』


びっくりした。びっくりした。びっくりした。


モケモケにもたれかかってきゅるんっとこちらを見ている虫人種?守護霊?

今日もキレッキレに綺麗だ。心なしか少し発光してない?

モケモケの弾力ボディに立ったまま背中を少し跳ねさせている。


少し見入っていると、テオに話しかけられる。

『アウラー?』

『青緑の子が居てさ。モケモケの名づけなんでもいいって。今モケモケの所にいるよ。』


『脇腹が少し凹んでるな。光ってるな。』

『そうそう、なんか今日キラキラしてるんだよね。』


キラキラした青緑とモケモケのじゃれ合いを見ながらテオは名前を考えている。

口から洩れているその名前たちの感想は聞かないでほしい。


「おや。何かの名前ですか?」

テオのつぶやきに2階から降りて来た服屋が反応した。


ああ。いつも通りのメガネに髭姿だ。


「ああ。そこにオレの守護霊が居るんだが、契約の時に名前を聞き逃してな。呼名を探している所だ。」


「名前ですか。そういえば、このタイミングで失礼しますが、

私エリックと申します。以降そうお呼び下さい。」

「テオバルトだ。よろしく頼む。」


挨拶をしている二人。しかし私は見逃してはいなかった。青緑のキラキラの部分だけが服屋もとい、エリックの髭にボスッと埋もれに飛んで行ったのを。


『テオ。エリックの髭なんかキラキラしてない?』

『そうか?』


『っほら!今!ファサってエリックしたじゃん。キラキラッってなんかエフェクト出てるじゃん!』

『・・・出てるな。あれか?青緑のやつか?』

『・・・多分違う。いや、違うよ。今モケモケの所に居る』

青緑はモケモケの上に乗ってうつ伏せで顔を埋めている。何してるんだろう。


「テオバルトさん?どうされましたか?」

「いや、なんかその、ひげがキラキラしたように見えたんだ。」

「ああ。ふふっ 僕の守護霊です。この格好するといつもイタズラするんですよ。100年前まで若く見られたくなくてこの格好してたんです。

その時に契約したんですけど気に入ったようで、それ以降仕事ではこの格好なんです。耳は種族分かるように変えてないんですよ。」



ほら。とエルフ特有の少しとがった耳を見せてくれる。

「妻も併せて見た目変えてくれたんですけど、耳まで変えてしまったもので。」


それで異種間結婚か。



「何してるんだい?さっさと準備しないと開店間に合わないよ?」


ああいつものフィリアさんだ。

カウンターに移動して、テキパキと準備を始める様子を見ていると奥からリードが出て来た。


「開店前だが、食いな。トーチのカルパッチョだ。後でヴィントカウのステーキも持ってきてやる。」


おお!おお!久しぶりだねえ。会いたかった・・・


テオはしばらく皿を見つめてから口に入れる。

ぅわぁっ!これだよ!

久しぶりのディルと柑橘系の爽やかな香りが鼻を抜けていく感じがする。

弾力あるトーチと上に乗っている細かく刻まれた香味野菜の食感のコントラストが最高だ。ある程度噛むとほろほろ崩れ居てくトーチ。


冷やした果実酒と共にゆっくり味わっていただく。

『『最高』』


堪能しているとモケモケが近寄ってきた。

『ちょうだい。』

『お前食べるのか?』

『おいしいんでしょ?』


一切れ口に含むとモケモケは目をつむってフルフルと震える。

少しして目を開ける。クルッとこちらを向いて、


『なまえ。とーちにする。』

『   いやそれはちょっと。内臓だし。』


『じゃあ、かるぱっちょ。』

モケモケが言うと可愛いな。だけど、


『いいけど、もっと美味しいもの食べたらまた名前変えたくなるんじゃない?私、覚えきれるかな』


『それもそうだな。名前はせめて片手に納めてほしいな。』


「いやいや。名前は普通一つでしょ。いや、神名と呼び名で2つか。」

カウンター内でエールを注いでいるエリックの肩の上からこちらを見ている青緑に言われた。


『『確かに。』』


・・・え?テオにも聞こえたの??




――――――――――――――――――――――

次回は明日?か明後日で。

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