第15話 森の中でのヴィントカウ

■ーーーーー

一瞬の風が通り抜け、何もいなくなった場所を唖然と見つめる。




『エッ?』



私の声かテオの声か。


ヴィントカウは弱いが速い。

あのまま走ってどこかにぶつかれば一瞬で死んでしまう生き物だ。


『あの速度でどうやって捕まえるの?』

無理ゲー。



『そうだな。あんなに速いのか。森に入ったみたいだな。』

テオに言われて見ると、

不自然に遠くの森の木々が揺れていた。


『森に巣があるの?』


『そうらしいな。森の浅い部分だろう。余り奥だと何かにぶつかるからな。』


『あの個体今頃どこかにぶつかって倒れてるんじゃない?』


『ギルドで読んだが、ヴィントカウは急発停止に注意とあったからあれは余波なんじゃないか?近くまで見に行ってみるか。』


バスかなんかかな。何倍も早いけど。

どうやって狩るのか森に向かいながら考える。


『寝込みを襲うとか、巣に睡眠スプレー入れて待つとか、後は魔法?』


『その案は野営になりそうだな。できないことはないが、食べ物が携帯食料とパンしかない。今度から食べ物ももっと入れておこう。

実は1つやってみたい事があるんだ。巣を探してみよう。』


森だ。脚力だけで、ヴィントカウには劣るも私的には一緒じゃない?と思うスピードで着いた。

途中で何か声が聞こえた気がしたが魔物でもでたのかな。



その森を迷う事なく進んでいく。魔力の残穢を辿っているそうだ。テオの中で魔力が巡り何か魔法を使っているのはわかるがイマイチ掴めない。


テオの脚力なので少しではないが、山に沿って少し入った所で湖に出た。手前で止まり様子を伺うと、静かな湖から小さな角が幾つか出ていた。


あー。やっぱりサイ寄りか。


テオはじっと時々動く角を観察して何か魔法陣が書いてある紙を開いて呟いた。

少しづつ湖の中が騒がしくなり、カウが暴れているのが分かる。波が荒々しく立つと3体のサイ、じゃなくて、ヴィントカウの体がプカっと水面に浮き上がった。ダラリとして背中から浮いているのが分かる。


いつの間にか水面に出ていた他の角は1つもなくなっており、暫く恐ろしい静けさが辺りを包む。


『ちょっとホラー映画でこんなシーンありそう・・・』

『なんだホラーって。』

テオのいつも通りの声にとても安心する。


『あー、ホラーってのは、不可解な事象を体感した結果ゾワっと怖ろしさで身震いする事だよ。多分。テオは何かした方だから怖くなかっただろうけど、見てるだけの人間には中々の衝撃よ。』

『そうか。まあ、とりあえず3体か。春先だから個体が増えるがまだ産まれて無いようだな。他の場所が無いか見回ろう。』


引き寄せた3体を鞄に入れ、食事中に遭遇した2体にも先程の魔法陣の紙と呪文でサクッと倒し、計5体で狩りを終えた。


開けた場所で血抜き作業を開始すると最初に狩った3体を木に括りつけて同時に首絵を刈る。したに開けた穴にあり得ない勢いで血溜まりが出来る。

魔力がグルングルン動いているので何かしてるのだろう。

1体目を先に血抜きして新にもう一体括る。血が抜け始めたら解体に進み丁寧に皮と肉を剥いでいく。

膜に包まれた内臓一式が出てきたらそれを違う袋を取り出してすぐさましまう。肉は二の次らしい。


その間1時間くらいだろうか。私はモケモケを観察する。モケモケはテオの周りをクルクル回っていて時々こちらをチラっと見る。


また暫くクルクル回って、テオが解体した破棄部分をポイっと投げた瞬間、その骨向かって駆け出して口に入れた。口あったんだ。見えなかったけど。


そしてペっとテオの足元に吐き出した。

見下ろすととても綺麗な赤い骨で、太い部分に魔石が付いていた。


また自由に散策するモケモケと

気づかず黙々と捌いているテオ。




捌き終わったテオにとりあえず足元の増えた骨を持って帰る様に伝えると、ビクッっとしてから綺麗な魔石の付いた骨を3本手に持って袋に入れた。



心なしかソワソワしている。

何故?骨か?


『今日はどうやって帰るの??』

『今日はこれを貰ったんだ。』

浮かれている。完全に浮かれたテオが巻物を取り出す。


『魔法陣だ!すごいだろう!ドワーフ達の粋を尽くした移転魔道具だ!』


過去様々な国が移転道具得を研究したが、技術と魔力吸収の問題で叶わなかった。しかし紙を漉く時に着目し独自で研究を重ねたドワーフ達がなんと遂に成功した。その研究期間は実に1000年に及び、国内でのみ使用可能。さらに資格を得た生粋のドワーフ国民かその了承を得た者の魔力を込めた魔法陣しか起動しないらしい。

詳しく説明してくれたがちんぷんかんぷんで、とりあえず使ってみよう?っとやんわり勧めた。


それ誰に貰ったの??


テオが魔力を込めると、フォンっと魔法陣が広がる。あのダンジョンの物と似ているがもっと複雑な文様が描かれている。テオは一言も話さずに必死に魔法陣を見つめていた。



『ポータルバンザイ!』

『バンザイ。』


モケモケが小さく唱和してくれる。


フォーンフォーンと音が重なっていき、光が溢れ眩しくて目を閉じる。


『っうぅ。』

『っ』


薄く目を開けると、樽に絡みついた蛇の看板が目に入った。えっ門番審査越してこっち来ちゃったの?えっ?

1人慌てている私は目を見開いて固まっている目の前の男性と目があった。



えーっと。



ポク

ポク

ポク


『 テオ?』

『なに?』

モケモケの声がした。


『テッ、テオ!』

『今ちょっと、うごかないよ?』

モケモケがいつの間にかテオの頭の上でダラリと溶けている。


一足先に動いたのは目の前の男前だった。


「っあぁ、テオさんでしたか。急に目の前にいらっしゃったので、失礼致しました。ーあの、テオさん?あの。」


この声と丁寧語・・・ふくやさん?

え?

髭は?

髭はどこに行っちゃったの??


目の前の優男風イケメンは、テオがマントを買った服屋の店主兼蟒蛇亭オーナーだった。

いつもと違い過ぎない?

20歳は若く見えるんだけど。


っていうか、『テオ!起きろ、テオ!』

『服屋さん男前なんだけど!いつもと違うよね?』『でも髭ないとなんか物足りないよねー。』『ねー。』『いや、起きろし。服屋困ってるよ』

ーーーー



服屋さんが慌てだして店の中に駆けて行ってから、


「凄い魔法陣だった。」


わー。そっちかー。

越に入っているテオに声を掛ける。



『おはようテオ。移転したら服屋さんが居て、テオ固まってたからすごい勢いで中に入って行ってたよ。』


『そうか、すまない。入ろう。謝らなければ。』


「ぐっ!」

一歩踏み出した瞬間、テオの鳩尾に何かが入った。



ふと下を見ると、リードがニヤニヤとこちらを見上げながら

「店の前で固まってんなよ。邪魔だ。」


「すまない」ハハっと笑いながらテオが答える。


「狩りはどうだった?」

「上々だ!」

テオが得意げに答えると、リードはニカっと笑う。そして、


「馬鹿野郎 ! 何ちんたらしてんだ! 刻々と鮮度は落ちてんだっ! そのでっかい図体さっさとこっちに持って来い!!」


その声量で人が気絶するんじゃないかと思うくらい怒鳴られた。



テオは慌てて中に入り、内臓を入れた袋を取り出し手渡した。少し迷った後に、


「これはどうだろう。」捌いた肉の部位を取り出す。


手に取ったリードは、

「すげえ!未だ血が固まってない!これならいける!!行けるぞ!!」


目の色を変えてテオが出すもの出すものひったくって厨房へ駆けていった。




「ごめんね。リードったらはしゃいじゃって。」

フィリアさんが2階から降りてくる。

あれ?フィリアさん?



「・・・テオ君大丈夫かい?」

服屋さんがフィリアさんの後から声をかけてくれた。


「申し訳ない。転送陣に魅入ってしまった。」


「ああ、そうだったんだね。渡したアレはボクが描いたんだ。」


「っえ?店主は魔陣技師だったのかっ・・!」


「いや。本業は服屋なんだけどね。」

「飲み屋もだろぅ? 何いってんだい。」

「ははっそうだね、フィー。」



・・・二人共、顔ちがくない?

・・・若くない?


『ーテオ。なんか二人共違うよね?』


『ぁぁ、若いな。』



「あの、

失礼は承知で聞くが、  フィリアと服屋だよな?」


「そうだ、ああ! 忘れてた!! フィリア顔がっ」

「ふふっ 忘れてたわ。ごめんなさいね。私達エルフなのよ。何時もはちゃんとしてるんだけど、血相変えて呼ばれちゃったから、忘れちゃった。」


てへっと笑うフィリアさんは何時もの皺とそばかすと贅肉を何処かに置いてきてしまったようだ。


ちゃんとって一体?異種間結婚じゃなかったっけ??


ちょっと準備してくるからと言って二人は上へ戻っていった。





ーーーーーーーーーーーーーーーー

次回は明日



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