第14話 2月某日の社会人と癒し
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年末年始は足早く駆けていった。遥か昔の東の日出ずる国と呼ばれた島国では師走と言う言葉があって、何か聞いてみたら
「神父が走る程忙しいと言う意味だ。」
と昔教えてもらった。
確かに忙しくて忙しなかった。
ー2月某日ー
何であの部長は考え無しなんだ。
今、後輩の一人が訴訟を起こす準備をしている。気持ちは痛いほどわかる。
部長が原因でリスクなんちゃら部署の人が聞き取りをしており、私も今日呼ばれた。
「勝手にやってくれ」
思わずトイレで呟く。今日は定時で上がろうと思ってたのに…
帰宅し、鍵を閉めたのを確認して速攻でシャワーを浴びてビールを取り出す。最近は飲んでいなかった為に口うるさい門番も今日は見逃してくれるらしい。
飲みながら今日のアレを思い出す。
問題は、コミュニケーション不足か許容量違いの問題。後私の記憶力。
確かに部長は軽口でボディタッチ多目だし、失言と謝罪も人一倍多い。
イライラするのも分かる。時々訴えたくなるのも分かる。だが巻き込まないでくれ!
「ふっざけんなよ。」
後輩に見られたのが問題だったのか。
会社でプロジェクトが上手く行かなかった時に部長が背中を撫でてきた。そこから何かあるたびに成功したときは、頭を撫でられた事とか尻叩かれたりとかはあったけど、私は20後半で、部長は48だしセクハラとか気にしてなかったんだよね。
思い返したら気持ち悪かったけど。
「こうやってコミュニケーション取らないとね」って肩に手をやることも多かったし、「女の子は早く子供産まないと」が口癖だったけど、それ以上なにもしてこなかったからへー、って思ってたのに。
「もう無理です先輩」
ランチ行きましょうって珍しく社食以外で食べてたら、途中で泣き出した後輩に、どうしたのか聞いたら、部長にセクハラじゃ収まらない事されてて...
「もう耐えられ無かったので、人事に報告しました。すみません。」って。
謝ること何にもないのに。
それから監査と法務部に呼び出しされてからの事実確認で私の事も聞かれたど。。。
生憎私は覚えて無いんだよね。
「覚えてねーよぉ。忙しかったし、神父が走り回る時期もいつの間にか過ぎてたし!」
ピーピーピーピー
冷蔵庫がいつの間にか唸っている。あちゃー。
「飲み過ぎか。」
手に持った缶を戻して歯磨きしに洗面台に向かう。
■ーーーーー
引き上げられる様に目を覚ます。
外が明るい。
ん?
今日は視界が安定しないな。
少しづつ音も聴こえて来る。ガラガラガラガラと一定のガラガラ音と人の話し声がする。
『テオ?ここ何処?』
『ああ来たか。今日は移動で終わりそうだな。リードに頼まれて、フェイリオンまで行く。』
『それって、ナントカカル!?』
『ヴィントカウな。』
あの食材の本体!
『トーーーーーーチ!!!!!』
『『ウルサイ!!』』
『スミマセン。』
2:1は分が悪いのよ。
テオともう1人。いや1匹。
モケモケだ。名前では無い。
彼?彼女?は、アレだ。テオの守護霊。初対面はもう1ヶ月程前になる。
埃の付いた黒い埃が良く横切るなと思っていたら、テオと一生を共にする相手だった。
しかしながら、翻訳機能さん。守護霊では、ないんじゃない?
どっちかって言ったら魔獣りよ?あの子。
ある日宿屋に大きめの埃があって何気なく追いかけてたら、その埃が風に乗って跳ね始めて、サイズが急に大きくなったりするからテオにあれは何か聞いてみたら、
それを見たテオはそれを見てビクッっとして、1分程固まってた。
6年ぶりの守護霊との対面だったらしい。
笑った。それは笑って引いた。
一生を共にする心の友が高レベレアモンスター並の遭遇率って。
顔を見せずとも魔力は(時々)貸してくれていたようで、モケモケも姿を隠していた訳では無いが出なくても良かったから適当に過ごしていたらしい。
15で出逢い、12年連れ添って、会うの3回目。それは笑った。引きつけを起こすくらい笑った。
この埃前もといモケモケは青緑の虫人種とも私の話をしたらしい。
小さい声で『ごめんね。』と言われた。初対面で黒い埃に謝られる私。
何にごめんねかも分からないし。
私の事は認識していたが、適当に過ごしていたらしい。
この子の可愛い所は、知らないうちに視界に入っていて、近くに居ることだ。
テオはあれ以来良くこのモケモケを見かけるようになったらしい。
真冬になって宿の1階部分はすっぽり雪で覆われたが、道には雪解け用の魔道具がレンガに埋め込まれているようで少しの雪かきであっと言う間に町から雪は無くなっていた。
何処かに移動させる魔法陣が書いてあったが転送先が分からない。とテオは暫く道に貼り付いていた。魔法陣ヲタクめ。
余り流通しなという魔法陣の本を手に入れてからは、毎日のちょっとした雪かきと地下道の掃除の依頼以外はずっと本を読んでいた。
蟒蛇亭のカウンターで本を読み、魔法陣の話を他の客とする。部屋でも本を読んで、辞書並みに分厚い本も読み終えた。
私はその時動けなかったがこの何とも可愛いモケモケ観察に勤しんだ。
そのおかげで冷蔵庫には私のモケモケ観察日記の成果が下段にびっしり貼ってある。
観察のおかげか、最終的にモケモケがチラチラこちらを見るようになり時々話すようになった。ここ最近の馬車馬の様に働いて訴訟問題に巻き込まれた私の癒し代表だ!
少し外が明るいなと思ったらそこから後3日で冬は終わった。
ニグルスの時期から考えたらまあまあ長いが冬が終わるとなると一気に気候が変わる。
そこで遂にトーチの本体。ヴィンドカウを狩りに行くらしい。ガタガタ揺れる馬車には満席で、守護霊のモケモケはテオの膝の上にだらりと丸みを失い、わらび餅の様に崩れている。
ドギーという馬みたいな家畜の魔獣を借りれば早いようだが、今の時期は需要が高く出払っていた。皆春になって活動的になっているのだ。
『この速度、テオが走った方が速いんじゃない?』
『これを読見ながらは無理だな。下巻だ。』
下巻。あの辞書の下巻。そうか上下巻か。こちとら居候の身。私も、面白い本は読み耽るタイプだからな。動かない無らしかたがない。
モケモケ観察メモで冷蔵庫をカラーチェンジしよう。
すっと目を開ける。
え?何?真っ暗なんだけど。
何で?巻き戻り?冬プレイバック!?目をパチパチしてみる。
ゆっくりと左の方から光が入って来た。眩しい!
『ごめんね。乗っちゃってた。』
モケモケかーい。
ってか私に乗れるのね、何?精神生命体なの?
後から聞いたら出入り自由らしい。
ドコに?ドウイウコト?謎だらけだ。
『おはよう。』
『来たのか。フェイリオンのヴィントカウの狩り場だ。』
目の前には草、草、草。草の隙間から覗くと、所々に背の高い草が点在しており、奥には国境の森が広がっている。
草むらの一つにテオは身を隠しているようだ。草の青い匂いがする。
暫く身を潜めて数刻。
ガササっと音がしてそちらに目を向ける。
白い小さな角が草むらから見えた。ノソリ、ノソリと全貌が見えてくる。
でかい。でかい割に角が小さい。
カウ。牛よりはサイに近いフォルムをしているが、模様はジャージー牛。こちらに気づかず草に鼻を埋めて一心不乱に食んでいる。
「あっ。」
誰かの小さい声が聞こえた。他にも何組か商売敵がいるようだ。
声のした方を見たその瞬間、ビュンッと風が吹いて草原には何もいなくなった。
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次回は明日
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