第14話 1月某日の社会人と癒し

12月は駆け足で過ぎていく。遥か昔の東の日出ずる国と呼ばれた島国では師走と言う言葉があって、「神父が走る程忙しいと言う意味だ。」と昔教えてもらった。

確かに忙しい。クリスマスまでの忙しさを休暇を取ってない少ない人数で乗り越えて、さらっと1月に入った。





ー1月某日ー


何であの部長は考え無しなんだ。


今、後輩の一人が訴訟を起こす準備をしている。


部長の軽口が原因でリスクなんちゃら部署の人が聞き取りをしており、私も今日呼ばれた。


「勝手にやってくれ」


思わずトイレで呟く。もう今日は早く帰ろう。疲れた。





帰宅し、鍵を閉めたのを確認して速攻でシャワーを浴びてビールを取り出す。最近は飲んでいなかった為に口うるさい門番も今日は見逃してくれるらしい。


バゲットにクリスマスパーティーで余ったクリームチーズとオリーブパテを載せて軽く焼く。最後に生ハムを載せて齧り付くのが最高に美味しい。


食べながら今日のアレを思い出す。

コミュニケーション不足か許容量違いの問題?後私の記憶力。

確かに部長は軽口でボディタッチ多目だし、失言と謝罪も人一倍多い。


イライラするのも分かる。時々訴えたくなるのも分かる。だが巻き込まないでくれ!



[後輩の場合]

部長→ハラスメント?→私。

後輩→見ていた→ハラスメント?される私

後輩ロックオンされる。

部長→ハラスメント→後輩→訴訟→部長

の流れで、

弁護士→事実確認→私

これが今日だった。


後輩が弁護士にセクハラされる私の話をしていたようで、色々聞かれたが、生憎私は覚えていない。



「覚えてねーよぉ。神父がクリスマスに走る時期だよ?」


ピーピーピーピー


冷蔵庫がいつの間にか唸っている。あちゃー。


手に持った缶を戻した。






■ーーーーー


引き上げられる様に目を覚ます。

外が明るい。


ん?

今日は視界が安定しないな。

少しづつ音も聴こえて来る。ガラガラガラガラと一定のガラガラ音と人の話し声がする。


『テオ?ここ何処?』

『ああ来たか。今日は移動で終わりそうだな。リードに頼まれて、フェイリオンまで行く。』


『それって、ナントカカル!?』

『ヴィントカウな。』



あの食材の本体!


『トーーーーーーチ!!!!!』

『『ウルサイ!!』』



『スミマセン。』

2:1は分が悪いのよ。



テオともう1人。いや1匹。

モケモケだ。名前では無い。


彼?彼女?は、アレだ。テオの守護霊。初対面はもう1ヶ月程前になる。

埃の付いた黒いマリモが良く横切るなと思っていたら、テオと一生を共にする相手だったと言うことだ。



しかしながら、翻訳機能さん。守護霊では、ないんじゃない?

どっちかって言ったら獣寄りよ?あの子。



テオにアレは何か聞いた時、そっちを見てビクッっとしたら、1分程固まっていた。6年ぶりの対面だったらしい。

笑った。それは笑って引いた。

一生を共にする心の友が高レベルレアリティって。



顔を見せずとも手は(時々)貸してくれていたようで、モケモケも姿を隠していた訳では無いが出なくても良かったから適当に過ごしていたらしい。

15で出逢い、12年連れ添って、会うの3回目。それは笑った。引きつけを起こすくらい笑った。



ちょっと前に青緑の守護霊と話をしていたのもこの子らしい。いたか?

小さい声で『ごめんね。』と言われた。初対面で黒い埃の付いたマリモに謝られる私。



私の事は認識していたが、適当に自由にしていたらしい。

この子の可愛い所は、知らないうちに視界に入っていて、近くに居ることだ。

テオはアレ以来良くこのモケモケを見かけるようになったらしい。




真冬になると宿の1階部分はすっぽり雪で覆われていたが、道には雪解け用の魔道具がレンガに埋め込まれているようで少しの雪かきであっと言う間に町から雪は無くなっていた。

何処かに移動させる魔法陣が書いてあったが転送先が分からない。とテオは暫く道に貼り付いていた。雪が見たいのか?



テオは、余り流通しなという魔法陣の本を手に入れたようで、毎日のちょっとした雪かきと地下道の掃除の他はずっと本を読んで冬を楽しんでいた。

蟒蛇亭のカウンターで本を読み、魔法陣の話を他の客とする。部屋でも本を読んで、3ヶ月未満で辞書並みに分厚い本を読み終わったのだった。

私はその分動けずに暇だったがな。

その間、モケモケ観察に勤しんだ。



そのおかげで冷蔵庫には私のモケモケ観察日記の成果が下段にびっしり貼ってある。箇条書きで。


最終的にモケモケがチラチラこちらを見るようになり時々話すようになった。毎日馬車馬の様に働いて訴訟問題に巻き込まれた私の癒し代表だ!


少し外が明るいなと思ったらそこから3日で冬はあっと言う間に終わった。

ニグルスの時期から考えたらまあまあ長いが終わるとなると一気に気候が変わる。



そこで遂にトーチの本体。ヴィンドカウを狩りに行くらしい。ガタガタ揺れる馬車には満席で、テオの守護霊のモケモケは膝の上にだらりと丸みを失い、わらび餅の様に崩れている。

ドギーという馬みたいな家畜の魔獣を借りれば早いようだが、今の時期は需要が高く出払っていたようだ。皆春になって活動的になっているのだ。



『この速度、テオが走った方が速いんじゃない?』

『これを読見ながらは無理だな。下巻だ。』


下巻。辞書の下巻。そうか上下巻か。こちとら居候の身。私も、面白い本は読み耽るタイプだからな。


モケモケ観察メモで冷蔵庫をカラーチェンジしよう。


あっと言う間に乗り換える町について宿に入る。明後日早朝に乗り換えたら狩り場に着くらしい。




■ーーーーー


すっと目を開ける。

え?何?真っ暗なんだけど。


何で?巻き戻り?冬プレイバック!?目をパチパチしてみる。

ゆっくりと左の方から光が入って来た。眩しい!


『ごめんね。乗っちゃってた。』



モケモケかーい。

ってか私に乗れるのね、何?精神生命体なの?


後から聞いたら出入り自由らしい。

ドコに?ドウイウコト?謎だらけだ。


『おはよう。』

『来たのか。フェイリオンのヴィントカウの狩り場だ。』



目の前には草、草、草。草の隙間から覗くと、所々に背の高い草が点在しており、奥には国境の森が広がっている。

草むらの一つにテオは身を隠しているようだ。草の青い匂いがする。

暫く身を潜めて数刻。



ガササっと音がしてそちらに目を向ける。



白い小さな角が草むらから見えた。ノソリ、ノソリと全貌が見えてくる。

でかい。でかい割に角が小さい。

カウ。牛よりはサイに近いフォルムをしているが、模様はジャージー牛。こちらに気づかず草に鼻を埋めて一心不乱に食んでいる。


「あっ。」


誰かの小さい声が聞こえた。他にも何組か商売敵がいるようだ。

声のした方を見たその瞬間、ビュンッと風が吹いて草原には何もいなくなった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー

次回は明日

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