第13話 名前記念日

■―――――

いきなり声を掛けられて、悲鳴を飲み込む。



あの半透明な綺麗な目をした虫人種がテオの肩に座っていた。

近い近い!

覗き込む様に顔を近付けてくる。


「へぇー。今日は見てないんだね。」


見てないって何を!?

と言うかテオは何で気づいてないの??


「彼の料理美味しいよね!」

『ぅっうん、特にトーチ!』



「僕は※/÷゚%。おねーさんは?」



多分名前であろう部分が、

全く聞き取れ無かったんだが。



この人の名前?え、流れ的に食べ物??

いやいや、さっきトーチって言ったじゃんね。

自分の名前言ったらいいのか?チラっと見てみるが、薄く微笑んで居るだけで何も分からない。


『えー、譛ェ螳� で、す。』


「違うよ。」


え?違った?名前じゃないの?

それとも言った事が間違ってるって事?

他に好きな料理言えって事だった?


・・・と言うか、え、さっきの聞こえたの?

カサカサ音がするって言われたことはあるけども。


違うと言われても・・・えぇ。

目力強いなぁ。


「名前はちゃんと言わないと。」


さっきより声のトーン下がったし。

・・・ちゃんと、名前?

えぇ。

なんだそりゃ。

ってか

まつ毛バッサバサだね。髪と同じ青緑かぁ。

・・・じゃなくて、名前、名前か。




『譛ェ螳�・アウラーアネモス・エーリノス』


春風園(アネモス・エーリノス)。施設の名前が本名に入ってるなんて最悪すぎる。


「?」


首をかしげて軽く眉間に皺寄ってるけど美人はどんな顔しても美人なんだね。羨ましい。

ってもしかして聞こえなかったのか?

カサカサ聞こえちゃった?



「名前はどこまでが名前?」

もうなんか謎々だな。



もう何でも良くなって来た。


『・・・施設の名前を抜いたら、譛ェ螳�・アウラー。』


申請時に洗礼名との間の・を忘れられ、繋がったままになったと聞いている。施設では皆同じ名前が最後に付いているのに、私1人だけ違う。部屋の奴等に何度もそれでイジメられ、イジられた。クソ。嫌なことまで思い出したじゃないか。あそこに関係する事って本当にいい思い出が少ない。



「ああ、アウラーね。アウラー。いい名前。」



ご機嫌になったのか脚をブラブラ揺すっている。

おおっ!伝わった!こっちの人にも聞こえたのか。前半どっか行ったがな。気持ち的に改宗してるからその名前も取りたいんだが・・・。



ふんふん頷いている、目の前の虫人族。性別は全く分からないが、青緑の髪はキュルキュルと動く度に所々ランプの光に溶けている。少し透けているから尚更そう見えるのか。




『オイ。どうしたんだ?大丈夫か?この料理美味いよな。お前が料理に反応しないから焦ったぞ。』

『あ。テオ』


今まで無音だった世界に音が再び鳴り出した。ザワザワとした店内に、頭にじわじわと広がる塩レモンが効いた肉とキッシュみたいな入れ物のサクサクとした食感。



『うますぎるっ!コレ好きなやつだ!キンキンに冷えた白いワイン飲みたい!

そうだ、今前に話た虫人族に話しかけられてたんだよ。』

『あー、 切り身肉のやつか。』

『おーぅん。ソレソレ』

切り身肉で覚えてたのか。



『どこに居るんだ?』

『肩の上だけど。』

『誰の?』

『テオのだけど。』



『・・・冗談か?』


冗談?

『冗談って何が?』



『・・・何にも居ないぞ?』

『え?ほら、足ゆさゆさしてて、時々テオの肩下に踵刺さってるけど・・・』



目の前でフンフン言っている半透明の虫人種見つめると、突然顔をクルッとこちらに向けて、

「所属はチキュウってところ?」




チキュウ?

ああ、アース=地球(チキュウ)だ。

他にもテラとかテルース、ガイアとか昔は色んな呼び方があったと聞いたことがある。


でも、

『・・・ なんで知ってんの?』



「聞いたの。」

・・・誰に?




「まだ探してるんだね。無理なのに。壊したのは自分たちなのにね。」



綺麗な薄ら寒い笑顔で笑う虫人種。




「また送り込んでくるなんて。今は大丈夫だけど、また覗けるようになっちゃうのかな?」



私の目を覗きながらコテンと首をかかげる。


メチャクチャ怖い。

『テ、テオ。この人テオの守護霊かもしれない。は、半透明だし。』



『オレの?何か言ってるのか?』

『なんかちょっと怒ってるかも。』



「ねぇ。なにしてるの?うまく意識が繋がら無いんだけど。」



意識を繋げるって何だ?なんか不穏だぞ。

『テ、テオ君と話をさせてもらってまして。』

「え?誰と?」

『アナタのテオ君と。・・・この体の持ち主と言いますか。』


「テオ君? え!? 話してるの!?えー!なんでっ凄いね!」


わー。下がったり上がったりテンションの振り幅すごいなー。



『大丈夫か?』

『うん。聞こえてた?』

『なんか急にお前の声だけ聞こえてきた。』

『そっか。今守護霊のテンション振り切ってて、良く分かんないけどはしゃいでる。』


『よく分からんがそんなに興奮してるのか?オレの守護霊が?前に見た時と性格変わったのか?』


守護霊見たことあるのか。守護霊って普通に存在するんだね。霊感強い人が多いのかな?魔力感じる人とか多いし、守護霊って魔力の塊みたいな感じなのかも。


流石、異世界。




どうやら、成人する年に大きな行事があって、そこで自分の守護霊?に会えた人は、一生を共に生きるらしい。守護霊は相棒みたいなモノで、魔法のお手伝いもしてくれるらしい。


会えた人って何なんだろう。そしてそれって守護霊で合ってるの?翻訳機能よ。本当に合ってますか?〝魔法のお手伝い〟ってらしくない言い方だったんだけど。

・・・ちょっと鳥肌立ったのは内緒だ。肌ないはずなのにな。



白い果実をお酒にしたものを冷やしてもらって、キッシュを食べる。美味しい。



『容量も結構増えたことだし、酒買い集めていくのもいいな。』


『それ最高!テオがお酒飲めてよかったよ。私寝ながらお酒飲めてるし! あ。そういえば私の名前ってカサカサ聞こえるんでしょ?』


『ああ。前に聞いたことあったな。真似しても意味なかったな。』


『ああ。なんか急に変な声出してたのソレか!アハハっ!カサカサ言ってたわ!』


ボトルを開けて2本目もあと少し。このワイン?飲みやすーい!


あの青緑の守護霊?は元気にぐるぐる周りを回っていたが、急に何処かへ飛んで行ってしまった。テオの守護霊じゃない説濃厚になってきたな。



『譛ェ螳�・アウラーだよ。』

ビクッとテオの肩が揺れた。



『お前の名か。』

『うん。』

『前半は分からんが、後半は聞こえた。アウラーか。』

やっぱりそこが聞こえるのか。どうしたもんかな



『テオバルド・℉:¢‰:'・3{>#¢¡だ。』

『おおっ。聞こえた!テオバルドって言うのか。後半カサカサだけど。テオって呼んだままでいい?』


ってか、今まで後半出てこなかったよね?ファミリーネームかな。


『じゃあアウと呼ぼう。』


『いやいや、アウラかそのまんまアウラーでお願い。』

アウって・・・ネーミングセンス私より無いな。



『そうか。じゃあそうしよう。』






結構飲んでいたようで、宿に帰ってテオは速攻で寝た。

私もそろそろかな。

白い靄が目の前に掛かる瞬間、黒いマリモがコロコロ端で転がっている夢を一瞬見た気がした。




「っあーーーっ!」

布団の中で海老反りする。


肩がポキッと鳴る。気持ちがいい。


片手でカーテンを片方明けていそいそカーディガンを着る。


ケトルのボタンを押して、歯磨きする。



ピピッピピッピ。


「やばっ」走ってスライディングして目覚ましを切る。今日は早く起きたんだった。


コーヒーを飲みながら、

「鞄済/青緑守護霊/テオバルド」と書いて冷蔵庫の上の方に貼る。空いてる所が少なくなって来たな。また整理しよう。


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明日更新

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