第12話 虫と蟒蛇亭

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今日も、今日とて虫狩りじゃぁぁぁぁぁ!



冬は半ばで、外の魔物が冬眠中らしく最近の仕事は地下道のスライム討伐か虫退治。

ササッと燃やして地上へ戻る。

テオが言うにはザコばかり。


ある程度の数が集まらないとボス格は生まれないんだって。まぁ、少額魔獣らしいが数集まれば、らしい。多分やる事なくて暇なんだろうな。時間があれば狩っている。



と、いうかテオよ、


『新しい鞄ってそれ?』


どう見ても前と同じなんだが。クリソツだよ!分かんないよ!


結構な金額と魔石をかけた鞄は赤茶色の先代と瓜二つの鞄になった。


なんであんなに工房探しに時間がかかったのか?言ってはなんだが、普通の鞄だ。

というか、元は狼っぽい犬の毛皮だろう!

毛はどうした? 皮は赤茶だったの?

シルバーっぽい綺麗な毛の下に赤茶?


いやいや見た目に騙されてはいけない。あんなに多くの金貨払ってたし。私の給与何ヶ月分も掛けてたんだし、何か特殊なギミックがあるはず。



『そうだ。良い造りだろう。』

『血い垂れ流しの奴も入れたよね。』


前は狩ったら素材用の袋に入れてたのに。

今日の獲物はダラダラ何かが漏れ出ていたのに。


『固定魔法陣のおかげだ。容量も格段に増えて、ほぼ時間経過が無い。良い鞄だろう。』



そうか、良かったね。テンション高めね。



虫入れるのはどうかと思うが。入れてすぐにサンドイッチ出してたよね!?



固定魔法陣があれば入れた瞬間その状態で固まって、区画違いの場所に種類毎に纏められるらしい。

頭いいなその鞄。魔法陣凄い。

お金を掛ければご都合主義が機能するらしい。まーじっく。



蟒蛇亭に向かいながら歩く。

やっぱりこの通りは賑やかだ。

遠くの方で喧嘩している音がする。この場所で冬越えしてる冒険者が集まってどこも満員御礼だ。


何回か発育の良い、いい香りのお姉さんに絡まれながら、蛇が酒樽に巻き付いている看板に辿り着いた。


『トーーーーチ!!!』


『今は無いぞ。』



ガーーーーーン!



外の魔物かっ!冬眠中かっ!


『だべだがったぁ。』

『確かにな。早く年が明けてほしい。』


年が明けた瞬間に春が来て、魔物共は動き出すらしい。時間に正確だな。本能か?


「いらっしゃいっ、久しぶりだね!座んなっ」

えっとえっと、フィリアさんだ。元気だな。


カウンターに座るとマントの店主がカウンターの中に居て片手を挙げる。


『何でここに店主が?服屋だったよね??』


『フィリアの旦那らしい。種族は違うらしいがな。』


「とりあえず、エールを。」

「はい。マントどうですか?使い心地は?」


エールを綺麗な7:3で差し出しながら話し掛けて来る。


「とても良い。寒さを感じ無いし、汚れもつかない。」


「良かったです。中々、冒険者の方の着心地を聞く事がないもので。合わない物を売ってしまっても分からないんです。この国に滞在する人達はほとんど短期滞在ですからね。」


職人の国だからか、買いたい物を頼んで直ぐに出ていく冒険者が多いらしい。


『あっ!テオ!ドワーフ料理人だよ!』


奥からちらりと顔を出す料理人。


「なんだ来てたんなら声かけろよ。」

「ああ、リード今日のオススメを頼む」


テオが慣れたように話している蟒蛇亭の料理人ドワーフの作るものはどれも美味しくて、テオは宿以外はほとんどここで食べているようだ。リードと言うのか。それにしても顔見知り増えたなぁ。


奥に引っ込んだリードは、再度出てきてコトリッと、皿を置く。



「ビエーのカルトーネだ。」


早っ。カルッツォーネに似たこんがりとした焼き色のついた丸い物が差し出される。


テオが齧り付く。


ジュワッと、頭の中にトマトと熱々のチーズの旨味が広がる。アンチョビの様なコクのある塩味の効いた魚と、少し辛い素材が口の中を走り抜けていく。

ビエーとはアンチョビっぽいやつか?


美味しい!


「旨いっ・・・おかわりっ」



俺にも!こっちが先だ!うるせぇ!こっちが先に頼んだんだっ!

そんな声をバックに、

カウンターからどや顔でこちらを見ているリードに声を掛ける。


「相変わらず美味いな。」


「ありがとよ。これは西の魚人種の国の料理だ。今は食材が少ないから作れるもんは限られるがな。鞄は出来たか?」


「ああ、コレだ。流石と言う出来栄えだ。紹介してくれてありがとう。」



「性能を良くして形は前のと一緒で。なんて注文、ハンスが出された素材見て頭抱えてたぞ」

前にずらして見せていた鞄をもとに戻しながら気まずそうなテオ。


「魔法陣に気をやって形は考えてなかったから咄嗟に出なかったんだ。」



確かに。聞いた話、前の鞄と性能は段違いらしいね。

全く見分けがつかないけども。



「思い出のあるもんだと思ったらしくてな、綺麗な皮なのにって泣きながら染めてたぞ。」


「それは済まない事をしたな。

今度また行ってみる。

冬越えをする事になったが、宿もいいし、食事も美味い。最高の国だな。」



ワッと周りが湧く。そうだっ!最高だっっ!と聴こえて来る。



『良い店だな。』

『そーだね!服屋さんに感謝だね。』


すごい速さでエールを注いでいるマントの店主に目をやる。今日も少し髭の角度がおかしいような・・・気のせいかな。

人間種が住むには厳しい国らしいが、滞在するにはとても美味しい国だ。




ふと視線を感じてそちらを向く。


『ぅヒッ!』

体温が一気に下がる感じがした。



「久しぶりだね。お姉さん。またそこに居るんだ。」

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