第12話 久しぶりの蟒蛇亭

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今日も、今日とて虫狩りじゃぁぁぁぁぁ!



冬は半ばで、外の魔物が冬眠中らしく最近の仕事は地下道のスライム討伐か茶色いてんとう虫。

ササッと燃やして地上へ戻る。

慣れか、討伐時間が短くなって、テオが言うにはノーマルなザコばかり。


ある程度の数が集まらないとメイジ以上は生まれないんだって。まぁ、少額魔物らしいが塵積もれば、らしい。多分やる事なくて暇なんだろうな。時間があれば狩っている。



と、いうかテオ。



『新しい鞄出来たって、それ?』



目の錯覚かウォーリーを探せレベルで見ても、前と同じなんだが。クリソツだよ!分かんないよ。

買ったって言われなければ前の穴あき鞄じゃん。




結構な金額と魔石をかけて出来た鞄は茶色の先代と瓜二つの腰にある鞄になった。



なんであんなに工房探しに時間がかかったの?言っちゃぁなんが、普通の鞄に見えるよ。



というか、シルバーウルフの毛皮使うって聞いた気がするけど、銀色どこ行ったのよ? 剃った?

シルバーっぽい綺麗な毛の下に茶色の皮膚があったの?




『そうだ。良い造りだろう。』



珍しくテンション高く嬉しそうな気持ちが伝わる。



『これは、シルバーウルフの毛皮とレッドドラゴンの毛皮を元に作って貰ったから耐久性は前より強く破れる事は先ず無いと思う。拡張魔法も前より強く更にはー』



あんまり分かんなかったけど、破損しにくい鞄で、前よりも4次元空間が広がったんだね。



『さっき、血い垂れ流しの脚も入れたよね。』


前は狩ったら素材用の袋に入れて鞄に入れてたのに、今日の獲物はダラダラ何かが漏れ出てたのをそのまま入れてたけど。


『あぁ。固定魔法陣のおかげだ。入れても中で状態固定が効くんだ。だから液体も固定される。容量も格段に増えて、ほぼ時間経過が無い。良い鞄だろう。』



そうか、良かったね。



虫入れるのはどうかと思うけど。

今出したサンドイッチも同じ鞄に入ってたし。



新しい鞄の固定魔法陣は、入れた瞬間その状態で固まって、自動で区画違いの場所に種類毎に纏められるらしい。

頭いいなその鞄。魔法陣凄い。


お金を掛ければご都合主義が機能するらしい。まじで、まーじっく。


依頼を終えて、職人街の道を歩きながら蟒蛇亭を目指す。

真冬でもやっぱりこの通りは賑やかだ。

遠くの方で喧嘩している音がする。この場所で冬越えしてる冒険者が集まってどこも満員御礼だ。



何回か発育の良い、いい香りのお姉さんに絡まれながら、蛇が酒樽に巻き付いている看板に辿り着いた。


『あの店は!トーーーーチ!!!』


『今は無いぞ。』


無情に響くテオの声。


『だべだがったぁ。』

『確かにな。早く春になってほしい。』


トーチは冬は冬眠する魔物が元だったのか。

ここらの店は、今の時期は保存していた食材から料理を出すらしい。




「いらっしゃいっ、久しぶりだね!座んなっ」

えっとえっと、フィリアさんだ。元気だな。


オレンジのポニーテールが歩くたびに左右に大きく揺れるのを見ながらカウンターに座ると、マントを買った時の店主がカウンターの中に居てこっちに近づいてくる。


『あれ?あの人服屋の人だよね??』


『フィリアの旦那らしい。種族は違うらしいがな。』


オレンジのポニーテールの人はフィリアって名前なのか。

辺りを見回し、喧騒に身を委ねる。

真冬でも蟒蛇亭は満席に近くて騒がしい。


「とりあえず、エールをくれ。」


カウンターを挟んでマントの店主に言うテオ。


「はい。いつもありがとうございます。そういえばしばらく経ちましたが、マントどうですか?使い心地は?」


エールを綺麗な7:3で差し出しながら話し掛けて来た。


「とても良い。動く時も違和感無いし、汚れも気にならない。」


「良かったです。中々、冒険者の方の着心地を聞く事がないもので。合わない物を売ってしまったとしても分からないので。この国に滞在する人達はほとんど短期滞在ですからね。」


職人の国だからか、買いたい物を頼んで直ぐに出ていく冒険者が多いらしい。


『あっ!テオ!ドワーフ料理人だよ!』


奥からちらりと顔を出したドワーフはテオに気づくとこちらに近づいてきた。


「なんだ来てたんなら声かけろよ。」

「ああ、リード。今日のオススメを頼む」


テオが慣れたように話している蟒蛇亭の料理人ドワーフはリードと言うのか。

それにしても顔見知り増えたなぁ。


再度奥に引っ込んだリードは、またまた出てきてコトリッと、皿を置く。



「ビエーのカルトーネだ。」


早っ。カルッツォーネに似たこんがりとした焼き色のついた丸い物が差し出される。


それにテオが齧り付く。


ジュワッと、頭の中にトマトと熱々のチーズの旨味が広がる。アンチョビの様なコクのある塩味の効いた魚と、少し辛い素材が口の中を走り抜けていく。

ビエーってアンチョビか?


美味しい!


「旨いっ・・・おかわりっ」



テオが叫ぶと、一瞬静かになった店内から、俺にも!こっちが先だ!うるせぇ!こっちが先に頼んだんだっ!

そんな声が後ろから聞こえてくる。


カウンターからどや顔でこちらを見ているリードにテオが声を掛ける。


「相変わらず美味いな。」


「ありがとよ。これは西の魚人種の国の料理だ。今は食材が少ないから作れるもんは限られるがな。鞄は出来たか?」


「ああ、コレだ。流石と言う出来栄えだ。紹介してくれてありがとう。」



「『魔法陣大量追加で形は前のと一緒で。』なんて注文、ハンスが出された素材見て頭抱えてたぞ」

鞄をもとに戻しながら気まずそうなテオ。


「魔法陣に気をやって形は考えてなかったから咄嗟に出なかったんだ。」



確かに。聞いた話、前の鞄と魔法陣性能は段違いらしいね。

全く見分けがつかないけども。



「色と形が一緒なんて、思い出のあるもんだと思ったらしくてな、綺麗な皮なのにって泣きながら染めてたぞ。」


「それは済まない事をしたな。特に色は気にしなかったんだが。

今度また行ってみる。


冬越えをする事になったがここは宿もいいし、食事も美味い。最高の国だな。」



ワッと周りが湧く。そうだっ!最高だっ!と一層騒がしくなった。



『相変わらず騒がしいな。』

『そーだね!というかそに鞄はドワーフの紹介だったんだね。間違いないね。』


カウンターの端ですごい速さでエールを注いでいるマントの店主に目をやる。今日も少し髭の角度がおかしいような・・・気のせいかな。

人間種が住むには厳しい国らしいが、滞在するにはとても温かい美味しい国だ。




次々出る美味しい料理と後ろで騒ぐ楽しい声に浸る中、ふと視線を感じてそちらを向く。


『ぅヒッ!』

体温が一気に下がる感じがした。



「久しぶりだね。お姉さん。またそこに居るんだ。」




肩の上の綺麗な瞳がこちらを向いていた。

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