第11話 久しぶりの異世界



....


「412番の番号札をお持ちのお客様32番扉にお越しください。」


スマホにメッセージが表示され、アナウンスもされたので、ドアを探して中に入る。


何故こうも病院は先生と話す時間が一番短いのか。今日は5時間病院に居て、さっきの先生と話したのは5分未満。握手会みたいなもか。ファンじゃないけど。


もう一回診察室に入ると薬を渡された。ここで飲むの?と思ったが飲む。


私は何処か悪いんだろうか。なになに、新薬でレントゲンで体の悪い所が良く映るようになる薬?色分け?


「塗料飲んだんですか?私」

ふと思った言葉が声にでた。


ブンブン横に首を振る看護師。

いやいやそんな否定しなくても。結構良い例えだと思ったんだけど。

飲まない方がよかったかな。


待合席に戻された。


レントゲン迄また待たされるのかー。



また時間かかるのかと思いながらスマホを見ていると、


「こんにちは。今日も診察一瞬でしたね」



月1回ここでよく会う女性に声を掛けられた。茶色の髪をふんわり軽く巻いた可愛らしい THE、女性だ。結構小柄で床に足が付いていない。


「今日新薬飲んで、レントゲン待ちです。」

「私も先月飲みましたよ?蛍光塗料っぽいやつですよね」

「・・・それです。」

似たような事を考える人がいるんだな。


彼女も私と同じで何年か前に入院して検査で通院している。通院仲間だ。

もうかれこれ5年以上の付き合いだ。

他にも何人か毎回会う人が居るので、同じ健康状態の検査組は同じ日に纏められているのかな。と思っている。


その後レントゲンや2回目の採血をして結果はメールでとの事で帰宅した。最後に新開発のサプリなる物を渡された。今の病院はサプリまで作ってるのか。




電車に乗ってウトウトしながら小さい頃の夢を見る。



私の育った施設は、毎日の信仰の時間があったり月に一度、部屋から出ては行けない日がある変な習慣のある生活だった。駆け回った庭やベッドが5つ並ん部屋は埃っぽかったけどなんだか懐かしかった。




施設では「神はいつも貴方たちを見守っています。」と言われて育ったが、見守っているだけか。何かくれないのか?

サンタは物をくれるぞ?なんて生意気なことを思いながら過ごしていたと思う。


施設に寄付してくれる人からのプレゼントは確かに嬉しかった。




プレゼントを貰えるクリスマスは嬉しかったし、朝皆で騒いでいた。

けど、あの年、起きたのは私だけだった。




あの朝、私は改宗した。

神は救ってはくれなかった。



あの日、プレゼントを開ける朝はとても静かでひんやりしていた。








ーーーー


体がビクっと揺れ、起きた。

気分は最悪。変な夢まで見た。


駅名を見て慌てて電車を降りる。



改札を抜けると日常に帰って来たみたいに気が抜ける。


「帰って寝よう。」


休みの予定が病院だけで消えるのはなんとも虚しいが仕方ない。明日から仕事だし切り替えよう。




慌てて降りたから、病院で渡されたサプリを電車に忘れた事にも気づかなかった。






■ーーーーー


きたぁ!久しぶりの感覚だ!


あれから1ヶ月経っても私は寝てもテオに入らなかった。夢も見ずに起きて仕事に行く毎日。もう一生来れないかと思っていたがやっと来れた!!とっても嬉しい!


『テオーーーー!  ぅぎゃああ#<%ぁっ!!!!』


焦点が合って一番最初に目に入って来たものは、茶色のアレの集団だった。ココにも居るのか彼奴等は!


瞬間的に目を瞑ったが、ジジジッと羽を擦り合わせる音やザシュザシュッと連続的に斬りつける音が聞こえる。


腕がないことをここまで悔やんだことは無い。瞼はあるっぽいのに。目を瞑ると少し冷静になり耳が冴えてくる。


バシャバシャ。これは水の音

ジジジッ。虫の羽音

カサカサカサカサ。虫の走る音 オエッ。

ザシュッ。斬る音だ、頑張れ!

ギチチギチッ。 何の音だ?


『テオ大丈夫?なんか変な音がする。』


ギチチチギチッギチ


『変な音?』

『今また聞こえた!』


ザッザシュッ


ギチチッ

『また聞こえた!』

『どこから聞こえる!?』


分かるかっ!!

反響してて難しい。




ギチチチッギチチチッ

カサカサカサカサッ


『え、近い。動いてんの!?』

『お前かっ!」〈水よ 行け 穿て〉


体が一瞬熱くなり消えた。シュンシュンっと何かを切る音がして、何かが途轍もない速さで遠くに向った音がする。そして、その先でバチャっバチャっと何かが水に落ちる音がした。


少し経って、羽音も足音も何も聞こえなくなった。


目を薄く開いて見渡すと、辺り一面を茶色の虫っぽい物が埋め尽くしていた。


うわー。



嫌なものって二度目に見ると変に冷静になる時あるよね。

でもなんかよく見たら彼奴よりもてんとう虫みたいなフォルムだな。まだマシだ。


「テオバルドさん!よくわかりましたね!」

大声で足元をバシャバシャ言わせながら駆け寄って来るのは尻尾は生えていないがブンブン振っているニルとその仲間だ。


「止まれ!!!」

「ハイッ!」


少し遠くで一時停止した小童たち。


「素材を取りながら来い。他の魔獣が集まるかもしれないから静かに行動する事。変な水音を聞いたら背中合わせで集まれ。」


黙って頷いて散開する。


『助かった。』


さっき魔法を放った方に歩き出すテオ。


『イヤイヤ。役に立たずごめんね。目つぶっててさ。音だけじゃ分かんなくて。』


『十分だ。こっちに向かってくるヤツの中で強い魔力があるはアイツだけだった。』


他のよりも一回りほど大きく、茶色というよりはブロンズ色をした虫と対面する。

ひっくり返っており、頭と腹に穴が空いていて青緑の液体が少し流れている。


ムリーーーー!



腰の鞄を外して魔物に近づけると人よりも大きいそれがスルッと消える。もうなんか気持ちがいっぱいいっぱいだ。


『ソレ。持って帰るんだね。』


『これはメイジだ。他のヤツは脚だけ切り取って残りは焼く。共食いするから放って置くと他の魔獣が寄って来て繁殖するから厄介なんだ。  ...それはそうと久々だな。』

最後は少しぶっきらぼうに言う。



まあ、来たくても来れなかっただけなんだけどね。



『...今まではいなくても居る気配があったのに、あの店でそれが途切れた感じがした。うまく言えないが、切られてもう戻らない肉みたいな感じがした。』



テオ、なんて表現なんだ。



『うん。例えが微妙だけど、わかる。

なんか話し掛けられたられて、あの人めっちゃ怒ってて、その後ベリッと剥がされたのよ。なんだったのかな。あの人。

虫人種だったのかな?羽生えてたし。』


『あそこに虫人種がいたのか?気づかなかった。』


そう言いながら黙々と脚を切る取るテオと天井を見つめる私。

ぶちっぶちっという音がしたが気にしない、ゼッタイキニシナイ。


暫くしたらバシャバシャ音が近づいて来た。ニル達だ。


「結構な数でしたね。メイジがいるとやっぱり連携して来るんですね。」


「アレは洗脳に近い。自分の手足の様に操って隙をついて襲って来る。操作してる分動きは遅いし飛ばないから冷静になれば潰せる魔物だ。ザコが多すぎるから面倒だかな。魔法使えるやつが死ねば他は動けなくなる。」


「今まではノーマルばっかりだったのでレオナルドさんが来てくれてホッとしました。ありがとう御座いました。」


ペコリと頭を下げる5人。あぁ赤髪の少年も居る。何があったか、すっかり大人しいじゃないか。


『一緒に討伐来てたんだね。』


『ああ。地下道を見てみたくてな。』


そうか、ここは地下道か。

改めて見ると所々に電灯らしい物があり、暗くはないが、湿度たかいな。


炎魔法が出来る面々で奴らを焼いて地上に戻る。


寒いし暗い。真っ暗だ。夜??



『寒いし腹が減ったな。もう昼過ぎか。』


何て言った?確かにお腹減ってるけど、今が昼時??真っ暗だけど。


こんがらがりながらギルドへ行って箱の中に討伐した物を出して精算して貰う。


「こちらがこの1体の報酬です。」

メイジ格だけで50万メダ。


おおぅ。私が知ってる中で、個体最高金額だ。


虫で?虫なのに??


特殊討伐依頼が出てたのか。国が懸賞金を掛けていたらしい。


5人とギルドの食堂で食事をして宿に戻った。食事の感想は聞かないでほしいが、皆ピーチクパーチク話してたな。

可愛らしかった。皆大人なのに。


久々に誰かと食事をする感覚に懐かしさを感じながら、なんだかとても嬉しかった。


あのあと、テオが宿に向かう途中色々話してる間に意識が遠のいた。




ピッ


フフッ鳴った瞬間に押してやった。

久しぶりに体が軽く感じて、スッキリと目が覚めた。



跳ね起きてケトルをつけて、

書きなぐる。


「茶色てんとう虫高額/五人ボーイ/ギルド飯マズ、ビール旨し」




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