第6話 タッチ決済


■―――――


前に見えてるのに一向に近づかない門を睨みながら歩く。


ニルがこの男、テオに声をかける。


「僕たち5人ともスラム出身なんです。人間種です。」


この国のスラム民は小さいころから色々な日雇いの仕事をしてある程度大きくなると冒険者になるらしい。職を得る者もいるが、宿屋や商店ならまだしも、この物作りの国では、工房に入ってもドワーフ程仕事は巧くならず後から入ったドワーフ達に追い抜かれて辞めていく人間種が多いらしい。


昔は結構大変だったんです。なんて笑いながらニルは「ドワーフに生まれたかった。」とつぶやいた。



『工房経験者なのかな?』


『かもな』

テオにも彼のつぶやきが聞こえたらしい。



制度がしっかりしているのか、スラム民にも差別はなく接してくれ、家も仕事もご飯にも困る事はないという。

しかし、やはり工房系の仕事が多いからか土地に馴染めていないと卑屈になる者はこの国を去って行くしかないようだ。


彼らは10歳で冒険者登録し、Cランクに上がった。

Dランクまではある程度の戦闘の技量があれば上がれるが、共和国でCランク以上に上がるにはその土地にどれだけ貢献しているのかも加味されるらしい。


「さっきのフィルは他国の親に捨てられたんです。スラムに来たのは7歳頃だったかな。最初は泣いてばっかりだったけど、周りの人に面倒見てもらってランクが上がった時は皆で本当に喜んだんです。」


「ランクが上がると請け負う仕事も多くなって来て、町中の依頼だけでなく、外から来る冒険者と門の外の仕事をするようになって。そこで気づいたんです。僕たちは弱い。」


テオは何も言わないし、私ははっきり言って小説で読んだ主人公たちは楽にAランクに上がったり無双したりしていたので、小説は小説なんだなと思った。



Cランクがどれほどの物なのか私の中の基準がグラグラしている。

この男に入るようになった序盤で、戦っている雰囲気で高ランクの冒険者だと思っていた位だ。

小説は小説。


あれ?前に聞いたらテオはDランクだと聞いたような気がするんだが。

いつの間にCランクになってたんだ?


あれ?


「この国は冒険が使う色々な物を作っているので、年中外の冒険者が滞在しています。だから冒険者不足にはならないんです。高ランクの魔獣は高ランクの冒険者が対応してくれるから。」


なるほど。


「フィルはまだ若いところがあって、小さいころからの町の人たちへの恩とかもあると思うんですけど、同じランクなのに技量が足りてないと思う事があると、周りに当たり散らすんです。

反抗期が遅くに来ているようなもので...俺もそうだったので。

分かるんです。

パーティーメンバーとして謝ります。手伝って頂いたのに、申し訳けありません。最初から態度も良くなかったと思うので。」


立ち止まって頭を下げるニル


あんたが悪さした訳じゃないのに。そう思った途端テオがニルの頭に手を置いた。

二回軽く跳ねた手を戻して門に向かって歩いていく。


『びっくりしたー。

私がテオに憑依して腕を動かしたのかと思った。』


『何言ってるんだ。』


『あはは。この国のスラムってちゃんとしてるんだね。不法地帯かと思ってた。』


『そういう国がほとんどだ。だが、種族的な無意識な職差別は置いておいても良い国なんだろうな。』


やっと目の前まで来た多分国名の書いてある大きな石造りの門を見上げ、並ぶ。


冒険者カードを出し、門から入る。

「お疲れ様です。」と言ってくれる門の役人の人に片手で合図をして門をくぐり、右手の四角い建物に入っていく。


このリイヤックは元は一つの独立国家なだけあって、まあ広い国土がある。門から中央区のギルドまで歩いたら何か月かかる事か。


そこで活躍するのがこのポータル!初めて見たときから今までずっと感動している。私の生活圏にもこれがあったなら!


『ふふふっ』

『怖いぞ。』


漏れ出た私のポータル愛に恐れ慄け!


移転小屋に入ってギルドカードをかざす。

すると何ということでしょう!目を開けたら壁一面石の部屋に!


扉を開けて出るとガヤガヤと騒がしい吹き抜けの空間に出た。

『ギルド?』

『リイヤックの中央区ギルドだ。』

一回来たはずなのに、全く記憶にない場所だ。


コンサートホール並みの広い空間に上に行くための階段やほかの移転の為の壁一面にあるたくさんの扉。奥には喫茶店?いや食堂か。依頼を終えた人々が乾杯をしている。

建築素材が全体的に石だからか、音が響いて何とも賑やかな雰囲気だ。


少し待つとニルが他の扉から出てきたのが見えた。


「お待たせしました。」と受付へ先導してくれる。


受付に行くと、

「ニルさんお疲れ様です。」顔見知りなのか丸眼鏡のお姉さんに声を掛けられていた。

この人も人間種だ。受付に座っている人のドワーフ率は低い。カウンターが10箇所あって内2箇所でドワーフが対応している。


「お疲れ様。今日はこちらのテオ;@*さんをパーティーに加えて依頼処理したから、お願いね。」


「まぁ、リイヤックの仕事を受けて頂いてありがとうございます。報酬は別ですか?合算ですか?」


「別で頼む。俺たちのパーティーのはこっち。」


ニルが袋を差し出して、テオも耳の入った袋をテーブルに乗せる。


「承りました。確認しますのでギルドカードをこちらに。」


差し出された水晶みたいなものにニルとテオが順番にギルドカードをかざす。


『何してるの?』

『ここで討伐したものを提出して別のカウンターで清算するんだ。』

『そうなんだ。それは?』

水晶が気になって聞いてみる。


『水晶にかざすと討伐の際に合意した条件が表示されるからそれを読んで合意するならカードを水晶に当てるんだ。』

カードを持った対象者のみに条件は見えるらしい。何ともハイテクな。


カードを水晶に当てて、少し待っているとニルのカードが光った。


「お先に失礼します。」


頭を小さく上げてランプの灯ったドワーフの居るカウンターに向かっていった。


『っ、あのカウンターはドワーフの人なんだね。』


ニルの向かった先に目を向けると他のカウンターより背の低い人が座っていた。


『換金で貨幣の配合率を見るからだろう。鑑定持ちのドワーフが清算カウンターに居ることが多い』


確かに前の国でもドワーフの人がカウンターに座っていた事があったけど、精算担当か。


時間が空いて、その間食堂でもめている人たちがいて思わず見入っているとテオのカードも光った。


受付に向かうと、

「テオ;@*さんですね。カードをこちらへ。」と言われ水晶にかざす。


「討伐数23体うちメイジが2体。金額はこちらです。」


121000メダ

メイジ2体  :100000メダ

ゴブリン21体: 21000メダ


「確認した。通常のゴブリン分のみカードで他は銀行に入れてくれ。」

「かしこまりました。」


+21000

と表記された水晶にカードを当てる。


え?タッチ?

現ナマは?

そんなことを考えているうちに、受付を離れたテオはニルと合流した。


「今日はありがとうございました。」

「ああ。またな。いい風を。」

「はい。いい風を。」

所謂冒険者の挨拶みたいなもんらしい。



ニルが振り返ってニコッと笑いギルドを出ていく。

残りのメンバーと集合するのかな。


私、現金持つ派なのにこっちの世界はタッチ決済が主流で、思ったよりもびっくりした1日だった。


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