第5話 いらない手紙と二足歩行の緑のヤツ


ん・・・


「あれ・・・?」


家だ。

まだ夜中か?


手探りでつかんだパーカーを着て冷蔵庫へ。



「トーチの燻製/鞄 未/どわーふ 80」と起きてない頭で書き加える。


ケトルがパチンと音を立てて沸騰を知らせるまでボーっとしながらさっきまで居た場所を思い出す。


今日は急に途切れたな。白くならなかった。


冒険者ギルドねえ。男はギルドに入ると受付へ行って所在地変更をすると言っていた。

あれ移動したら毎回やるんだろうか。


ポットから湯を出してあの貴族街の壁を思い出す。

ここ何年も海外旅行に行っていないからか、見たことのない景色ばかりで少し子供っぽかったかな。


机の上に置きっぱなしになった手紙をチラッと見て、メモに書いた「屑鉄少年」を思い出した。あの子はドワーフではなかったように見えた。


眠い。

もう一回寝よう。

流しにコップを置いて布団にもぐる。



春風園 園長より。そう書かれた手紙はまだ開けていない。





■―――――


ギャアッー

ギャッギャギャ


目の前に緑の二足歩行の魔物が目をひん剥いて飛び上がってくる。

迫ってくる魔物から目を離せずに、やられる!と思った瞬間、

男の左手が顔の前に現れた。一瞬だった。

ブシャッと何かが噴出した音がして目の前には何もいなくなった。


戦闘中じゃん。

森の中じゃん。

ここどこよ。

『ひっ』


「また来たのか。今日は2度目だな。」

『ここっここどこ』

少しどもってしまった。


『オクトクバルツ共和国リイヤックだ。』

『ドワーフの国だよね? あれっ?壁見たの今日?』

『そうだが?』


『あの後どうしたの?』

『ああ。ギルドに行って所在地変更してから適当に依頼書見てたら声を掛けられて、魔獣狩りをしている。』

『そっ、うなんだ。・・・あれ何?』


森に散らばる緑の魔物だったものたち。

10匹以上転がっている。


『ゴブリンだ。』

『ゴブリン・・・』


二足歩行の動物なんて猿かカンガルー位しか見たことない。

こん棒見たいなものを持って襲ってくるなんて猿はするかもしれないが、なんてったって初めての経験だ。


『害獣駆除の常設依頼だ。』

『ここドワーフの国の外だよね?』

『ああ。リイヤックは向こうの山だ。』

遠くにえぐられたような岩山と門らしきものが見えた。


『ゴブリンは巣を作る。数匹程度なら初心者冒険者でも町の大人でも対処できるし問題ないが、何百匹も集まると何故か統率する物が生まれる。そうなると軍隊規模の害獣となる。そして急に巣から溢れ出して獣や人間を襲うようになる。その前に駆除する。』


しゃべりながらもさっきからこの男の手は動いている。

緑のやつの耳を切って袋に入れるのを繰り返している。


今までダンジョン内での戦闘は見たが、ゲームみたいに死体が土に消えていった。今は消えない死体を見ながらのさらに耳を切り取る作業だ。


これがこの男の仕事。そうだ。仕事だ。今まで食べてきた肉だって、誰かが精肉してくれていたのだ。それと同じ。分かってる。理解はしているはずなのに。

こちらの肉は魔物の物も多くある。誰かが狩って捌いてるんだ。まだ見ぬ誰かさんありがとう。


なるべく見ないように匂いを感じないように意識を遠くに向ける。


吐くものも無いのに吐きそうになるくらいの異臭がするのは気のせいではないだろう。

私だけか?


『臭くないの?』

『臭いに決まってるだろう。ゴブリンだぞ。数が多いわりに1体あたりの討伐金額は安いし―』

そのあとこの男はゴブリン討伐がどれだけ不人気かを延々と語った。



『じゃあなんで―』

「テオ;@*さん!」


遠くからこの男を呼ぶ声が聞こえた。

男がたちあがる。


名前か!この男の名前はテオ;@*か。まだ発声できない文字があるが。


この男の名前。最初聞いた時何故か1文字も聞き取れなかったのだが、今日久しぶりに聞いて最初の方の呼び方が分かった。


そうか、そういう名前だったのか。半年以上もお邪魔しておきながら‘この男’と呼ぶのは失礼極まりないと思いながらも聞き取れないのだからしょうがないと思っていた。


そしてこの男の名前を呼ぶ者が少なすぎた。


こちらに向かって来たのは、茶髪のまだ若い青年だった。

「テオ;@*さん。どうですか?」

「23体だ。そっちは?」

「!! 14体です。」

「まだ巣があるか分からないな。ここらで引き上げるか。埋めるから少し離れてろ。」


青年が離れると地面に手をついて≪穴よ≫とつぶやいた。

土がボコボコ鳴り動き彼の両脇に除けられ積みあがっていく。目の前の穴にゴブリンの死体を入れ≪青の炎よ≫と言うと、ゴブリンの表面を青い炎が覆っていく。


『テオ;@*すごいよ!』

私のテンションは爆上がりである。


男は少しビクッとしてから小さく息をつく

『もう何回も見てるだろう?』


何回見てもテンションは上がる。魔法とはとても不思議だ。魔法を使っている時、体のない私の体が熱くなる気がする。これはおそらく彼の体の中で何かが血液のように何かが巡っているのだ。


「すごいですね。発動時間がはやい!」

何故か青年が興奮気味に言う。


炎が収まると除けてあった土を元に戻す。


青いのは浄化の炎と言い、アンデッド化しないようにするための処置魔法らしい。他の色もあるのか。気にしたことなかったな。


耳の入った袋を持って青年と歩いていく。

「そっちの処理はどうしたんだ?」

「炎魔法使えるやつ3人で処理しました。」

「そうか。」


少し開けた場所に出ると、4人の青年たちがいた。


「テオ;@*さん。どうでした?」

こげ茶色の青年が聞いてくる。


「さっきニルに言ったが、23体だ。」


「1人で?」4人のうちの赤髪の青年がつぶやいた。

「ああ。」

「っどうやって倒したんだよ。」

詰め寄るように近づいてくる。


「剣とナイフだが。」


「やめろよフィル。どうしたんだよ急に。」

男を呼びに来た青年ニルが間に入る。


「だってこいつCランクだろ!?おかしいじゃないか。」


『なんでこの子イライラしてるの?』

『さあな。』


「テオ;@*さんにはこっちからお願いして入って貰ったんだ。落ち着けよ。」

こげ茶色の少年も口を出す。



「テオ;@*さん。すみません。戻って一緒にギルド行って貰えますか?」

ニルにそう聞かれ、男はうなずく。


「ルーク先に戻るよ。」

こげ茶色の青年にそう言って、私たちは門に向かう。門が遠いな。ダンジョンだったら、

『出でよポータル!』


『なんだ急に。』


『ポータルを携帯したい』


『ゲートか。移転魔法はオレも欲しい』


少し遠くで言い争う声が聞こえる。


「すみません。」

ニルが申し訳けなさそうに言う。


「謝るな。お前は何もしてないだろう?」

「はい。」

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