第17話 謝罪と感謝の言葉を心の声で
「ふぅ……よしっ、んじゃ行こっか!」
勢いよく立ち上がる私。きちんと供養できてとても晴れやかな気持ち。
四種の丸い光改めヴァルガたち四人を見送った後、工房へと帰るために振り返る……とその矢先、イルズィオールに「ちょっと待て!」と何故か呼び止められた。
「ん? なに? なんかおかしかった?」
「いやいや、おかしすぎだろ。何故野郎どもの名前を知ってやがる。俺が口にしたのはヴァルガだけのはずだ……間違いなくな」
唐突に真顔で問うイルズィオール。額に汗を浮かばせつつ。
この真剣かつ困惑した表情は……本気だ。
そう強く感じ取った私は、先程の出来事を包み隠さず話した。特段、隠すようなことでもなかったし。
……
……
……うん、みんな無言。
話している途中からみんなの表情が驚きに変わっていくのは見ていて分かった。
私自身も話しているうちに、あれ? これ普通じゃないな? と思ったくらいなので当然と言えば当然だ。
でも、なんで私だけ……? そう不思議がっていたら、ティナちゃんが納得の回答を。
「……魂、ではないでしょうか……」
イルズィオールを除く全員がハッするなか、彼女は続けて話す。
「お姉様は魂に干渉できるスキルをお持ちです。なれば、魂を認識されてもなんらおかしくはないはず。それに、そう考えることであの不可解な事象にも合点がいきます」
「ふむふむ……なるほど、言われてみれば確かに……うんっ、ティナちゃん凄いし偉い!」
天使の推理に間違いなし! と頭を撫でてご褒美を。
素直に嬉しそうな表情を浮かべるこの
だがその最中にふと気づく。そういえば〝あの不可解な事象〟とはなんぞや……? と。
「ふふっ、もうお忘れですか? あの時、エタンの弓と会話をなされていたのでしょう?」
「あ……」
そういえばそうだった……で、ティナちゃんの推理によると、あの時点でエタンの弓には既に魂が宿っており、私はその魂と会話もとい念話していたと考えられる、とのこと。
彼女の知人に動物と念話できる人がいて、似たような光景を見たから間違いないらしい。あ〜、私もそのスキル欲しい〜!
「くっ、私もあのスキルが欲しかった……動物さんと意思疎通が取れるとはなんと羨ましい……ッ!!」
嘘でしょ!? まさかの同じ気持ち!? と思いきや、私以上に右拳を握り締めて悔しがるエタン……はさて置き、終始疑問符を浮かばせていたイルズィオールが最後の最後に口を開く。
「あぁ、あのマザロリコン王子のスキルか……ありゃ確かに便利だ。ソイツで情報収集してるようだしな」
「──!? 貴方、何故そのことを……いえっ、そもそも何故ジオスお兄様を知っているのですか!?」
「あん? 何故ってそりゃあ──」
「──あー、お腹空いたなー、早く帰ってご飯食べたいなー」
下手クソな演技で遮った。めっちゃ見られてるけど。
ヤっ、ヤバいっ、ヤバいヤバいヤバいっ! なんか線と線が繋がってきてる! いずれ分かることだけど今だけはダメっ! ティナちゃんの素性を知ってるのがバレちゃう! 知ってて隠してたのかって嫌われちゃう!
みんなから物凄く怪しまれているのも厭わず、「とっ、とにかく早く行こっ!」と強引に出発。早足で工房へと向いだした。
……道すがら、不意に気になったことを皆に聞いてみる。
「あのさ……みんなが強いのは見て分かるんだけど、ぶっちゃけどのくらい強いの?」
この質問に答えるのは難しい。例の鍛治力みたく数値化されているわけではないからだ。
けれど、どうしても今すぐ聞いておきたかった。もし次また似たような状況になっても焦らずに済むように。
「……ん? なんだ唐突に……まぁいい。筆頭従者であるこの私が直々に教えてやろう」
とても偉そうだけど、とても親切なエタン。だって、誰よりも先に教えてくれるんだもの。
それほど親切な筆頭従者様の話では、従者のみんなは〝冒険者ギルド〟に登録しており、フェルム・プラータ・エタンの三人は現在、FからSまである冒険者ランクの中でも上位戦力である〝Bランク〟なのだそう。
「なるへそ〜、どうりで強いわけだぁ……って、あれ? ゴルトだけBランクじゃない……? ってことはまさか……Aランクなの!?」
予想に驚きつつも、期待に胸を膨らませて聞いてみた……が、エタンの口から出たのは「違う」の一言。
そうなれば、ゴルトの冒険者ランクは必然的に中位戦力の〝Cランク〟となるため、盗賊らを一人で連行していることに強い不安が。あわわっ、大丈夫かなぁ!?
「……ふむ、その不安そうな顔……お前、何か勘違いしているようだな」
「え……? 勘違い? それって……どゆこと?」
ちんぷんかんぷんの私に対し、エタンは少しだけ口角を上げてから答え合わせを。
「奴は、ゴルトはSランクだ。この世に十二人しか存在しない、な」
「え゙ぇ〜っ!? エエエエSランクぅぅぅ〜っ!?」
衝撃の事実に思わず立ち止まって叫んだ私。プラータが「はぁ……煩い」とぼやくほどの声量で。
特位戦力〝Sランク〟……それは、国を跨ぐ者。国内のみならず国外からの依頼をも請け負うことのできる、特殊にして特別なランクであり冒険者の頂点。
最上位戦力〝Aランク〟を【自国の守護者】とするならば、こちらは【世界の守護者】と云えるだろう……と、エタンがドヤ顔で教えてくれた。
てか、なんでドヤ顔? なんで自分のことみたく自慢げに話した? って感じの顔を見せるみんな。
私も同意見だが教えてもらった手前、顔には出さぬよう努めて「あはは……」と苦笑いで誤魔化す。
そんな折、イルズィオールだけは驚愕の表情を見せ、声を震わせながら大きな独り言を。
「ゴ、ゴルトだと……まさか【破界】の──ッ!? な、何故それほどの男がこんな田舎街に……」
んなっ!? いっ、田舎街で悪かったな! と腹を立てるも、気になるワードが出たのでつい口に。
「はかいの……?」
「あぁ、アイツの二つ名だ。世界を破壊できるほどの膂力を持つってんで付けられたっぽいぞ? 大袈裟だよなぁ……まっ、実際凄ぇ馬鹿力だけどよ」
フェルムの説明を聞くも、いまいちピンとこない私は「ふーん、よく分かんないや」と興味なさげに返しては再び歩を進め、程なくして工房の裏庭に到着。
そういえば裏庭見るの初めてだぁ〜ワクワクっ! と興味津々で辺りを見渡した……が、この場にあるのは手付かずとなったものばかり。
例えば……あの砂埃に塗れた物置や井戸、無造作に生い茂った雑草群、あと枯れ果てた小さな薬草畑。
しかし、それだけでも分かる。充分すぎるほど伝わってきた。いかにこの小さな薬草畑を大事にしていたのかが。
物置の中に積まれた数多の肥料袋、井戸の軒先に吊るされたお洒落な如雨露、無造作といえど大事な所には草一本生えぬよう敷かれた厚めの防草布。どれもこれも見れば一目瞭然だ。そう、だから……
だからこそ悲しい。
大事にされていたはずなのに、理不尽にも枯れる運命を辿らされた薬草たちを想うと。
だからこそ苦しい。
生き甲斐ともいえる薬草たちが日に日に枯れていくさまを見て、その度に悲しみ嘆いたであろうあの人を想うと。
だからこそ憎い。
それほどまでに優しく慈愛に満ちた人を裏切り陥れた挙句、生き甲斐までをも奪った奴らの存在を想うと。
だからっ、だからこそっ、大変だろうけどっ、全部私がなんとかしなきゃ!! って、そう思ったんだ。
「……あれ? おかしいな……私、なんで泣いて……」
己の意思とは関係なく、自然と流れる涙。
突然泣き出した私を見て、唖然とするみんな。
ただ一人、この
きっと、私が抱いた負の感情を察して引き摺られてしまったからだ。
悲哀・苦悶・憎悪。それらが混ざり合うことで生まれたなんとも形容し難いこの感情と、そこから見出した勝手な使命感によって。だけど、それでも……
ごめんね、一緒に泣かせちゃって……
ありがとね、一緒に泣いてくれて……
謝罪と感謝の言葉を心の声で伝え、私は泣き笑った。
一緒に泣いてくれる人がいる。それがこんなにも幸せなことだって、知ってしまったから……──
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