第34話 愛は人を強くする
最初はただの小競り合いと見ていたルチアーノ伯爵の考えは甘かった。
敵国の軍は、日を追うごとに多くなり、ルチアーノ伯爵は国境を守るのだけで精一杯。
敵側に切り込んでいく余裕がなくなっていた。
そこへのカンパニーレ侯爵からの援軍である。
ルチアーノ伯爵とその騎士団は「助かった」と喜んでカンパニーレ侯爵を迎えた。
だが、ルチアーノ伯爵の子息で且つカンパニーレ侯爵の幼馴染であるカルロ・ルチアーノだけは違った。
「ロリー、君は何しに来たんだ! 大事な結婚式の日に、こんな所へ来るなんてどうかしている。
早く戻って、モニカを安心させてやれ!」
「もちろん、早く虫を一掃したら、モニカさんのところに戻ります」
「じゃなくてだな……」
カルロが声をかけた時には、すでにカンパニーレ侯爵は斜面を馬で駆け下りて行った。
襲い掛かって来る敵をばっさばっさと切り捨てて、どんどん進んで行く。
カンパニーレ侯爵を狙って襲い掛かって来る敵を防ぎながらも、攻撃の手を緩めない。
「ったく、どうしようもないバカだ。僕がロリーを守らなきゃいけないじゃないか!」
カルロも敵陣の中へ突っ込んで行き、カンパニーレ侯爵を守った。
「ロリー勘違いすんなよ。僕はモニカが泣く姿を見たくない。そのために、君を守ってやっているんだからな」
「心配ご無用です。ここに居る敵はわたしが全部倒します」
「冗談じゃないぜ。君一人に全部任せられるかよ」
敵が振り落とした剣を跳ね返す。
カキーン!
「うわぁあああ」
二人の青年による奮戦ぶりは、兵たちに勇気をもたらした。
もしかしたら、勝てるかもしれない。
その希望が、兵士たちを血気盛んにし、いっせいに敵陣へ切り込んでいった。
いきなり優勢になったルチアーノ軍の戦いぶりに、敵はうろたえて後退をはじめた。
ひとりの兵が戦っていた敵の足止めに失敗する。
まずい、その敵はカンパニーレ侯爵を狙って走っていた。
「すみませーん、一人そっちに行きましたぁー」
その声に反応して、カンパニーレ侯爵は素早く体を翻す。
「……、ふっ! 役立たずどもが」
カルロはすぐ側で、その言葉を聞きゾッとした。
カンパニーレ侯爵は、戦場では冷酷だった。
さらに、カンパニーレ侯爵は襲ってきた敵を難なく倒して、さらに前進を続ける。
「ロリー、あとは僕たちに任せて、君はもういいから」
「ここを突破しないで、なにが防衛だ。いいか、ここはカボチャ畑だと思え」
「おおおおお!!」
味方の軍が威勢よく雄たけびをあげた。
物凄いスピードで敵陣を切り崩していく。
その技とスピードは、とても人間技とは思えないほどだ。
カルロ・ルチアーノは思った。
(愛は人をこれほどまでに強くするのか。いつもの百倍、いや千倍は強いぜ、ロリー)
敵陣はほとんど壊滅状態になった。
カンパニーレ侯爵は肩で息をしながら、逃げていく敵の将軍に向かって叫んだ。
「おい、そっちの王に伝えろ! これ以上無益な戦いをしたくなければ、カンパニーレ邸に来いと。
よく聞け! お前らに火を付けられ襲われた、あのカンパニーレ邸だ。
まさか場所を忘れてはいないだろ。
そこで、和平について話し合う用意はある。そう伝えろ!!」
「ロリー?」
「では急いで戻ります。カルロ、悪いが、あとはよろしくお願いします」
「おい、待って!」
「何、邪魔する気ですか?」
「違う。返り血浴びたその格好で帰るつもりか?
シャツぐらい僕の新品を貸してやるから、着替えてから行け」
「いや、急ぐので」
「バーカ、野営地に持ってきているんだよ。
君の為じゃないよ。そんな恰好で現れたら花嫁がびっくりするだろが!
ここで着替えろっての」
カンパニーレ侯爵はカルロに礼を言って、シャツを借りた。
着替えた侯爵に向かって、カルロは言った。
「君が和平について話すなんて、意外過ぎてドン引きしたよ。
モニカからの影響なんだろうな。愛はここまで人を変えるのか。
さっさと、モニカのところへ行きやがれ!」
侯爵は軽く頷いてから、馬を走らせた。
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