第9話 消されるかもしれない
消されるかもしれない。
そんなことされてたまるものですか。
わたしは、何人もの婚約者が逃げ出して、結婚破棄になった真相を探らなければならない。
このままここに居たら、次の犠牲者はわたしかもしれないのだから。
だいたい、カンパニーレ侯爵の仕事が謎だわ。
今朝、それを聞いてもはぐらかされたし。
何の仕事をしているのか、その正体を暴かなくては。
わたしは執務室を探して、お屋敷の中を歩いていた。
「お嬢様、こんなところで何をなさっているのですか?」
ギクッ!
振り向くと、家政婦長のモンテローザが廊下に立っていた。
「あ、お屋敷にはどんなお部屋があるのか把握しようと。早く覚えて、少しでも役に立ちたいのです」
「まあ、素晴らしい心がけでございます。では、付いてきてください」
成り行きでモンテローザに屋敷内を案内してもらう形になった。
連れていかれたのは、リネン室。
「ここでは、屋敷内のシーツやその他洗濯物が集められ……」
丁寧にモンテローザは説明を始めた。
いや、リネン室は見ればわかるから、もっと重要なカギがありそうな部屋を知りたい。
次は、厨房。
「ここでは、毎日の食事と……」
いや、それも見ればわかるって。
ん?…でも、ちょっと待って。
このように普通の厨房に見えて、実は隠し部屋があるかもしれない。
わたしは、ある扉の存在に気が付いた。
「あの扉は何でしょう」
「あれは、パントリー。食品庫です」
「中を見てもよろしいですか?」
「はい、かしこまりました」
モンテローザは扉を開けて中を見せてくれたが、普通の食品庫だった。
中に貯蔵してある食品にも別に変なところは何も無い。
ふと、視線を厨房の床に落とすと、そこに扉を見つけた。
これこそ隠し部屋かもしれない。
「この扉は?」
「地下室になっております」
「地下室?」
これは匂うぞ、死体が転がっていたらどうしよう。
でも、ここで止めるわけにはいかない。
真相を探るため、勇気を振り絞って聞いてみる。
「中に入ってみてもよろしいでしょうか?」
「かしこまりました」
地下室へ続く扉は開けられた。
中は暗くひんやりとしている。
モンテローザはろうそくを持って、階段を踏み外さないように手を貸してくれた。
中は、ワインセラーだった。
ざっと見まわしたところ、死体が転がっているような様子は無い。
「ありがとう、モンテローザ。素晴らしい厨房とワインセラーです」
「どういたしまして、わからないことがございましたら、何でも聞いてください」
何でも聞いていいの?
チャンス到来。
厨房を出て廊下を歩きながら、執務室について、さぞ今思いつたように聞いてみた。
「あとは、結構ですわ。女性に必要な仕事場は一通り案内していただきました。
あ、ついでといってはなんですが、カンパニーレ侯爵はどのような部屋でお仕事されていつのかしら。
あ、無理には聞きませんよ。ちょっと、今疑問に思っただけですので」
「執務室の中にご案内は出来かねますが、
執務室の場所なら夫人になる方も知っておいた方がいいですね。ご案内します」
ラッキー♪ そうこなくっちゃ、モンテローザ。
「執務室は、こちらでございます。
旦那様の仕事の邪魔になりますから、もうこれ以上は……」
「もちろん、これでじゅうぶんです。ありがとう、モンテローザ。
働いている方たちは、皆とてもいい仕事ぶりでした。
では、わたしは読書の時間ですので、自分の部屋に戻りますね」
「お褒め頂いて光栄です。では、ここで失礼いたします」
わたしは、自分の部屋に戻った。
ドアを開けると、マリアがベッドメイキングしているところだった。
「あ、お嬢様、まだこちらは途中です。
どこかで読書でもして待っていただければ、あとでお迎えに上がりますので」
「いいの、大丈夫。
マリア、わたしは謎の核心に近づくかもしれないわ。じゃ」
「ん?」
わたしは、廊下に誰もいないか確認してから、再び部屋を出て執務室に向かった。
ここだ。
この扉の向こうに謎の核心が隠されているのだ。
わたしは深呼吸をしてから、扉をそっと開けて、わずかな隙間を作った。
その隙間から、中の様子を覗き込む。
いた! カンパニーレ侯爵とジョバンニだ。
カンパニーレ侯爵は、椅子に座りながら腕を組み、偉そうに何かをしゃべっている。
その横にジョバンニは立って、侯爵の話に首を傾げたり、頷いたりしている。
なんて、偉そうな態度なんでしょう。
実際、偉いんでしょうけど。
そのとき、カンパニーレ侯爵が扉の方に視線を向けてきて、わたしと目が合ってしまった。
やばっ!
「誰だ!」
ひっ! 見つかってしまった。
ヤバい、消されるかもしれない。
ジョバンニが、つかつかと扉に向かって歩いて来る。
もう、絶体絶命!
扉を開けて、ジョバンニはわたしを見下ろした。
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