第25話「レイダー狩り」

 粉塵が舞い散り、弾丸が飛び交う中、トロン達は攻勢の機会をうかがっていた。遮蔽から顔を出そうとしたトロンの顔を弾丸が霞める――人口皮膚の下の銀色のフレームが顔を見せる。

 さび付いた鉄骨の格子が織りなすここは、レイダー達の居城だった……


「てめぇらナニモンだ!?俺達のシマにてぇだしやがって」

《あなた方にいう必要はありません》

《そういうことだトロン……レオ!》

「ユー!スモーク弾を……っていないのか」

《ユーは今はいないぞ、しっかりしろ!》


 レオはアルブレヒトから受け取ったスモーク弾をグレネードランチャーに装填し、発射した――発射地点が煙に包まれる。その中をレオ達は潜り抜けて次の遮蔽へと駆け出す。銃弾の雨が彼らを襲ったが、どれも煙を裂くだけだった。


「くそ、ちょこまかと……」

《ライカは――》

「分かってる――」


 煙が晴れる前にとライカはトロン達から離れ、姿をくらます――その動きを察知できていたレイダーは一人もいなかった。

 煙が晴れると同時にレオは、グレネードランチャーのトリガーを引いた。ドラァァァン!ハイドロランの輝きと同時に、レイダーの数人が鉄骨の上から地面へと叩き落された……

 

「よし!」

《――!敵地最上部に新たな敵正反応》


 レオが歓喜したのもつかの間、鉄骨の城の頂上に人影が顔を出す……

 

「奇遇だねぇ!アタシもグレネードが好きなんだよ!」

「ボス!?」


 どすの聞いた女性の声と共に1人のレイダーが現れる――頭のサイドにそり込みを入れ、歩くたびに揺れる大きなチェーンを腰に巻き、スプレーでカラフルに装飾されたグレネードランチャーをその手に握りしめていた。

 彼女はグレネードランチャーに、スプレーで《ハッピースコーチ》と書かれた弾頭を装填すると、トロン達の足元に向かって発射した――地面は燃え上がえり、彼らの進路をふさいだ。

 

《これでは満足に動けませんね、私にも遠距離で有効な武装があれば……》


――


 医療器具の音だけがユーの耳に届き、とうに慣れてしまったあるはずのない痛みが、彼女の左腕に響いていた……

 医療用ロボテックが近づいて薬を差し出すと、彼女はなくなってしまった左腕で、受け取ろうとして空を振りぬいてしまう……改めて彼女は右手で薬を受け取ると口に押し込んだ。

 

「皆、今も戦ってるんだよね……私は」


 ユーは右手の拳を握り締めると窓の外を眺めた。


――


 レオは拳を握りしめると、遮蔽から少し身を乗り出す――ドォォン!その脇をグレネードの爆風が掠めた。


「畜生、ユーが待ってるってのに!」

《落ち着いてください、レオ》


 レイダー達のボスは、鉄骨の城の一番高い高台から、トロン達にグレネードの雨を浴びせていた――通常弾、焼夷弾、煙幕弾……あらゆる爆発物が彼らを圧倒していた。

 痺れを切らせたレオが、遮蔽から身を乗り出そうとしたが、トロンが止めた。


《ライカが裏を取るまでまで耐えましょう》

「分かってる!」

《なら、冷静に自分の武器の装填数を確認しろ……》


 アルブレヒトの言葉に、レオははっとした表情になった。彼がグレネードランチャーのシリンダーを確認すると空になっていた。瞳を閉じた彼は深呼吸すると、再び瞳を開いた。

 落ち着いたレオの表情を見たトロンはわずかに微笑んだ。


「装填完了……バリアももうすぐでフルになる」

《大丈夫です、落ち着いていれば勝てる敵です》

《トロンの言う通りだ、落ち着いて乗り越えるぞ》



 レオが遮蔽から出てくると、レイダーのボスは口角をグイッと引き上げる――しかし、レオの表情が乱れることはなかった。

 ドーン!爆発がレオを包む……レイダーの喝采が辺りを包むが、煙が引いていくとその喝采は鳴りやんだ。ハイドロランのバリアがてらてらと光り、レオを包んでいたからだ。


「もう一発あるんだよ!」

《させない――》


 レオに迫るグレネードは、彼と入れ替わるように出てきたトロンのシールドによって防がれた。レイダー達は唖然とする……


「何やってんだい!もっと火力を集中させ――ろ?」


 レイダーのボスが辺りを見渡すと先ほどより、レイダーの数が減っていることに彼女は気づいた。それと共に小さな影が鉄骨の上を飛び回っていた。


《ライカがうまくやっているようですね、詰めましょう》

「そういうことかい!お前ら!あの嬢ちゃんを仕留めろ!」

「りょ、了解ボス!」


 レオ達に集中していた射撃はライカに分散し、その効力が散漫になっていった。自分の存在が気づかれたことに気づいたライカは、鉄骨の影に身を隠した。同時にトロン達は階段を駆け上がり、レイダーのボスに迫っていく……


「えらくませた戦い方だねガキども!」

《ガキってのに、俺も含まれてるのか?》


 アルブレヒトが狙いをつけると、すぐさまレーザーがレイダーの頭を1人、2人と撃ち抜いた。うろたえたレイダー達は逃走を図ろうとする……

 ドーン!逃げようとしたレイダーの足元を爆風が吹き飛ばした。途端にレイダー達は逃走をやめ、やけくそ気味にレオ達を狙い始めた。


「逃げたやつはあの世行きだよ!」

《ずいぶんと追い詰められているようですね?》

「ブリキ風情が、偉そうにするんじゃないよ!」


 トロンの挑発に乗ったレイダーのボスは、トロンに向かってグレネードランチャーのトリガーを引こうとした……しかし、背後の脅威を察知していた彼女は振り向く――

 そこにはライカがマチェットを振りかぶり、レイダーのボスに迫っていた――


「甘いんだよ!嬢ちゃん!」

《いいえ、甘いのはあなたです――》

「なっ!」


 ライカに対応しようとしたレイダーのボスは、無防備にトロン達に背を向けていた。その隙をトロンは逃がさなかった――

 トロンの正確な射撃がレイダーのボスに命中する――体がしびれた彼女はライカの攻撃をかわせなかった……

 

「こんなガキどもにやられるなんて、アタシも鈍ったね……」

「そんな……ボスが……」

「……勝った!勝ったぞ!」

 

 レイダー達はボスが討ち取られたことを察すると、一目散に逃げだした。それと共にトロン達は武装を解除し、鉄骨の城の頂点で手を振るライカを見上げた……


――


 治療室の向こうからカツカツと金属同士が当たる音ががユーの耳に届く。足音が止まるとユーはドアの方を振り向いた。


「入っていいよ、トロン」

《なんでわかったんですか?》

「ふふ、足音で」


 トロンは治療室のドアが開くと、ゆっくりと歩み寄り、椅子に腰かけた。


「どうだったの?」

《レイダーを倒して、とりあえず10万オズ稼ぎました》

「皆無事だった?」


 ユーの質問にトロンはわずかに微笑んだ――ユーの頬も緩む。


「私ね、自分だけここで待ってることに罪悪感を持ってたの」

《罪悪感、でしょうか?》

「あぁ、ここで私だけ待ってていいのかなって……」


 ユーの回答に、トロンは要領を得なかったのか光彩を回転させ、頭を傾げた。


《ユーは腕がなくなってるのですからしょうがないのですよ》

「そ、そうだよね……なんか焦っちゃって」

《……必ず次も成功させます》


 トロンの真摯な視線にユーは幾ばくかの安心感を得た。その顔を見たトロンはわずかに微笑み、ゆっくりと立ち上がると治療室を出ていった。

 残されたユーは微笑みながらそのあとを目で追っていた。


「そうか、待ってればいいのか……」


 病室の外を眺めるユーの表情は少し、晴れた様子だった――


――END

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