第22話「喪失」
雲一つない青い空の下、ユー達は依頼にあった旧市街地で探索をしていた。依頼によれば、このあたりに近隣の住民に被害を及ぼすモンスターがいるとのことだった。
しかし、 廃墟と化したこの地で目標のモンスターは一向に現れず、ユー達は途方に暮れていた。あまりの静けさに不気味すら感じるほどの空間がそこには広がっていた……
「しっかし、本当に要るのかよ、そのモンスターってのは」
「わ、わからないけど依頼は受けちゃったし……」
《トロン、スキャンは?》
《今やってみましたが……!》
「――!危ない!」
ディーン!ライカがユーを突き飛ばすと、彼女が元居た位置に、緑の閃光が通り過ぎていった――ユーの心臓の鼓動は一気に高鳴る。
倒れたユーをライカが起すと、ユー達は武器を構え、物陰に体を隠した。
トロンは遮蔽物から鏡を出す――ディーン!鏡は一瞬で緑の閃光に溶かしつくされた。すると、彼女はこの旧市街地で一番高いビルを指さす。そこには全身黒塗りのアンドロイドがレーザーライフルを構えているのがユー達に見て取れた。
「あ、あれは!」
「なんなんだよあいつ!?」
《イーストセクターで我々を追跡してきた連中です》
「なら、ライカ達の敵だな!」
――
暗いビルの物陰でマスター9はレーザーライフルにマガジンを装填した。
《マスター9、初弾を外しました》
《そんなことどうでもいい、アルファは次弾の準備をしろ、ベータとガンマは私に続け》
《オーダー》
マスター9を先頭に、ベータとガンマはスラスターを噴射して、建物から一気に降下する……そして、物陰に隠れながら前進する――その動作は草木を這いずり回る蛇の如く、全く無駄がなかった。
――
ディーン!ユー達を赤い閃光が襲う、今回は正面からだった。レオは真っ先にグレネードランチャーにスモーク弾を装填すると、正面に撃ち放った。煙幕でユー達の姿が隠される。
その間にユー達は、別の物陰へと身を移した。
《レオ、ライカ、特に中央に居たバイザーの女に気を付けろ》
「そんなにヤバいのか?」
「ライカ、そいつから一番殺気を感じた」
「たぶん、私を狙ってる……」
ユーは胸に手を当てると、過去の戦闘を思い出した。執拗に自分を狙ってきた、バイザーの女の攻撃に彼女はぞっとした。
《おそらく依頼というのも罠だったのでしょう》
《俺達をおびき出すためか……ぞっとしないね》
「とにかく、シルバークルーザーに戻るまで耐えるぞ!」
「わ、分かった」
レオとトロンは先頭に立ち、ユー達はその背後を伝って動き始めた。ディーン!再び、赤い閃光がユー達を襲ったが、レオのバリアが揺らめくだけだった。
トロンがその弾道から位置を割り出し、ユー達に伝える――そこから彼女達は弾幕を張り続けた。
《ベータ、ガンマ、一気に押し進めるぞ》
《オーダー》
マスター9達はバリアを張ると、遮蔽から飛び出し、一気に距離を詰めるため前進する――ユー達の弾はバリアによって吸収されるだけだった。
「まずい、詰めてきやがるぞ!」
《ユーはライカと一緒に早くシルバークルーザーに戻ってください》
ユー達が駆け出したとき、ビルの上から赤い閃光がユーの足元を掠める、その時ユーの背筋に凍り付くような悪寒が走る――
《ユー、遮蔽を使ってうまく逃げろ!》
「アルブレヒトは!?」
《上のやつは俺が何とかする!一番倍率の高いスコープをくれ!》
ユーがスコープを投げると、アルブレヒトはレーザーライフルに装着し、瓦礫の後ろに隠れる。
彼はビルの上に居るアルファに照準を定めた――ディーン!黄色の閃光がアルファの右肩を溶かしつくす――断面は赤熱し、彼の腕は床へと落ちた。
《マスター9、狙撃に失敗しました》
《もう十分だ……デルタ!》
ユー達の逃走経路の先に、もう一体の一回り大きなアンドロイドが現れ、ガトリングガンを構えていた――ユーは顔が真っ青になり、足を止めてしまった……
「ユー、動け!」
ライカがユーの肩を揺らすと、ようやく彼女の体は動き出す――しかし、同時に何かが彼女のそばに通り抜ける音が鳴り響く。
「ユー!そっちに1人――!」
「ユーかわせ――!」
「え――」
ユーはライカにその場から押し出される――ディーン……ぼた。レーザーブレードが空を裂く音と共に、何かが落ちる奇妙な音がユーの耳に届く。
ユーの目の前には、赤い閃光のレーザーブレードを起動したマスター9と、デルタが立っていた。
《外したか……》
ユーは自分に何が起こったか分からなかった。しかし、次第に彼女の左腕に、焼けるような熱さと痛みがじわりと腕から肩にかけて伝わる。彼女が左腕を見ると、肘から先がレーザーライフルと共に地面に転がっていた。
「う、うわあぁぁぁぁぁぁ!」
事態を理解したユーは、叫ぶことしかできなかった。彼女の硬直した体を、ライカが半ば強引に壁際まで運ぶ。
《ガンマはやられたか……引くぞアルファ、べータ、デルタ》
「てめぇ!待ちやがれ!」
顔が真っ赤になったレオは、マスター9達を照準に据えると、グレネードランチャーのトリガーを引いた。
スモークグレネードの煙幕が彼女らを包む――そのままレオは、ハイドロランアックスを起動し、バイオスーツのブースターをふかして彼女達に接近した――
デルタが射撃を行ったが、煙幕の影響ででレオにはほぼ命中しなかった。
ザァァァァン!鉄を溶かし切る音が周囲に響く……しばらくして煙幕が消え去るとそこには真っ二つに両断されたデルタが転がっていた。
レオは周囲を警戒したがそこには誰も残っていなかった。
戦闘が終了したことを全員が理解すると皆、ユーもとに駆け寄る。
「う、ぅぅぅ……」
壁に寄りかかったユーの意識は混濁して、まぶたが重くなったように落ちていた。傷跡はまだ一部が赤熱していて、肉が焦げるようなにおいが辺りに立ち込めていた。
「アルブレヒト、ライカどうすればいい!?」
《幸い、レーザーブレードで切られたおかげか出血は少ない》
「俺とおっさんで運ぶ、トロンは――」
《私はシルバークルーザーの治療室で応急処置の準備をします》
ユーはレオとアルブレヒトに担がれると、シルバークルーザーまで運ばれていった……
――END
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