第20話「間を取って」
カチャカチャカチャ……シルバークルーザーのウェポンハンガーでユーがレオのハイドロランアックスをカスタムする音が鳴り響いていた。
隣ではレオが壁にもたれかかり、ユーの様子をうかがっていた……
「そろそろできそうか?」
「も、もうちょっと……できた!」
「ようし、貸してみろ」
レオはユーからハイドロランアックスを受け取ると、後部ハッチまで駆け出した。ユーもその後に続いた。
真上からの日差しがユー達を照らしていた。
外に出たレオは、ハイドロランアックスのロッド部分のスイッチを起動する――瞬く間に水色に輝くハイドロランが斧の刃となって出力された。
レオはその刃をじっくりと見た後、水平に薙ぎ払った――水色に輝く軌跡が空を裂いた。
しばらく素振りをした彼だが、ハイドロランの刃の部分が揺らいだのを見て、顔をしかめた。
「おい、これ出力が高すぎねぇか、こんなんじゃすぐオーバーヒートするぞ」
「で、でも高出力な分威力が……」
「俺はタンクなんだぞ、相手注意を引ければいい……それに」
「それに?」
「継戦能力が低くなる……変えてくれ」
ユーはしぶしぶレオからハイドロランアックスを受け取ると、バッグに入っているクラフトキットを取り出し、調整を始めた。
その様子を腕を組みながらレオは見ていた。ユーからすると少し睨んでいるようにも見えた。
調整が終わったのか、ユーはハイドロランアックスをレオに手渡す――するとレオは再び素振りを始めた。
素振りを続けたレオだが、しばらくするとユーを睨んだ。
「……おい、ほとんど変わってねぇじゃねか」
「だって、これ以上出力を落としたら……」
《おいおい、2人とも喧嘩か?》
「おっさん……」
「アルブレヒト……」
険悪な2人のムードをまったく気にしないかのようにアルブレヒトは、その間に入っていくと2人の肩を叩いた。
レオはそんなアルブレヒトにハイドロランアックスを渡す……
《ほう、少し出力が高めだな》
「だろぅ!おっさんからも――」
「でも、私の作品だから!」
「はぁ!?」
レオが怒りを露わにすると、アルブレヒトは彼の前に手をかざした。その後ユーの元に歩むと片膝を立てて、彼女の肩に手を当てて目線を合わせた。
《確かにお前のクラフターとしての意地があるのは分かる……でもな》
「……なに?」
《レオはお前に命を預けてカスタムを任せたんだ、これがどういう意味か分かるか?》
「文字通り生死がかかってるんでしょ……だから」
《お前なりに良かれと思ってやったんだな?》
ユーは下を向きながらもうなづいた。それを見たアルブレヒトは、今度はレオの方に向かっていった。
アルブレヒトが近づいてもレオは、腕を組んだ姿勢を崩さなかった。
「今度は俺に説教か?」
《分かってるんなら話は早い》
「俺は何も――」
《俺達はチームワークでお互いの生死が成り立ってる》
「――俺の態度に問題があるってのかよ」
《それだけじゃなく、メンバーの性格も分かってやれ》
アルブレヒトのモノアイを直視できないのか、レオは視線を逸らした。そらした先でユーと目線があった……
「……」
「……」
2人の間にわずかに風が吹き抜けていった。
――
リビングでトロンとアルブレヒトは、バッテリーのチャージを行っていた。遠巻きに見えるユーとレオを見たトロンは、首を傾げた。
《あの二人、何かあったのでしょうか?》
《ちょっとな……》
リビングで向かい合ったユーとレオは、一言も話さずに食事にありついてた。そのピリピリした雰囲気を察したライカは、居心地悪そうに食事のトレーをテーブルに置いて席に着いた。
「今日の料理もうまいな!ユー」
「……そうだね」
「れ、レオのもおいしそうだな!」
「……ああ、うめぇよ」
ユー達の威圧感に気おされてしまったライカは、そのまま黙り込んでしまった。あまりの気まずさに、呆れたようにアルブレヒトは立ち上がった。
《2人とも機嫌は次の依頼までに直しておけよ、エメラルドシティでは金がかかるんだからな?》
「「分かってる……」」
――
シルバークルーザーの操縦席でアルブレヒトとトロンは、目の前のデバイスを操作しながら、現れては消えるホログラムとにらめっこしていた。
《これはどうでしょう……私達の実力と照らし合わせても……》
《悪くないな……受けてみるか》
アルブレヒトが賛成すると、トロンはデバイスを操作し《依頼承諾》と表示されたホログラムをタップした。
《しかし、2人の機嫌が――》
《関係ない、仕事が出来なきゃ食いっぱぐれる》
アルブレヒトは冷静に言い放つと、踵を返してリビングに居るユー達の元へと向かっていった。
その先では、ユーとレオのに挟まれたライカが、居心地悪そうに座っていた。
アルブレヒトは3人の前に近づくと仁王立ちになった。
《お前らの機嫌は知らんが依頼を持ってきた》
「……どんな依頼?」
《近辺の森林地帯に出没するチャージボアを討伐する》
「イノシシ退治かよ」
《まぁそういうな……これも大事な仕事だ……》
「……」
アルブレヒトが視線をユーに向けると、彼女は頬を膨らませて視線を逸らした……
――
「おい!どうしてこうなってるんだ!」
《こんなに生息しているとは、聞いてなかったんだ!》
ユー達は森林の中を、チャージボアの群れから全速力で逃げていた――その数は10頭に及んだ。
「逃げ続けてもしょうがねぇ!トロン!」
《はい――》
レオとトロンは踵を返すと、それぞれの武器を構えた――レオはハイドロランアックスを起動し、トロンはシールドとエレクトロハンドガンを構えた。
レオは起動したハイドロランアックスの刃を見て眉を動かした。
ザァァン!レオに突撃してきたチャージボアは、ハイドロランアックスで、頭を叩き切られるとその場で倒れた。
(負荷と火力のバランスがいい!)
「れ、レオ!どう?」
「最高のチューニングだ!」
レオの言葉にほっとしたのか、暗かったユーの表情が明るくなる――その様子を見た3人の表情も変わる。
《ようし!反撃に出るぞ!》
チャージボアの突進は、レオとトロンによって食い止められる――その間にユーとアルブレヒトの射撃がチャージボア達に降り注いだ。ライカは跳躍するとチャージボアの真上から攻撃を仕掛けた。
ユー達の連携の前にチャージボアはその頭数を減らしていった。長時間の戦闘に、レオのハイドロランアックスは耐え抜いていた。
「これで最後か……」
最後のチャージボアが倒れるとユー達は胸をなでおろした。レオは恥ずかしそうに振り返るとユーを見据えた。
「その……悪かったな、この前は……」
「ううん……私の方こそ……」
久しぶりに目線を合わせた2人の目は明るく輝いていた。
――END
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