第14話「新しい旅立ち」

 晴天が砂漠を焦がす中、修理の終わったシルバークルーザーはその日差しを反射し、真っ白に輝いていた。

 

「そ、それじゃ、お別れだね……ライカ」

《さようなら、ライカ》

「うん……」


 ユーの手を握ったライカの手は、しばらく離さなかった。二人の間に気まずさが挟まる。

 しばらくするとライカの手の中を、ユーの手がするりと落ちた。二人は同時に一歩後ろに下がった。


《ユー、そろそろ行きましょう》

《エメラルドシティまではまだかかるんだぞ》

「あんたら、エメラルドシティに向かうのか?」

「は、はい……」


 オヤカタは黙り込むと、しばらくライカを見つめた。ライカはその視線の意味が分からないのか首を傾げた。

 ユー達はシルバークルーザーに乗り込む――アルブレヒがエンジンを始動すると、シルバークルーザーは発進し始めた。

 ユーは上部ハッチから甲板に身を乗り出すと、ライカに手を振った――するとライカも手を振り返した。

 ライカの瞳に映るシルバークルーザーは徐々に小さくなっていった。

 落ち込んだ様子のライカは下を見ながらとぼとぼ歩く……


「おい、ライカ……お前にプレゼントがある」

「プレゼント?お菓子?」

「見りゃ分かる」


 ジャンククルーザーの裏までオヤカタに案内されたライカは、そこにあるものに目を輝かせる。


「新しいバイク!これって――」

「ウェストセクターの最新鋭バイクだ」


 赤いつやつやのカウルを装着されたボディは滑らかな流線型で、流体力学にかなったものだった。

 ライカがバイクに見とれていると――ガシャン!ジャンククルーザーのハッチを閉める音が鳴り響き、ライカが後ろを振り向くとジャンククルーザーはすでに発進していた……


「オヤカタ?」

《お前はもう必要じゃない!役立たずはいいこちゃんと仲良くしてろ!》

「どういう意――」

《だからあいつらを追っかけろ、まだ間に合う!》

「それは、命令?」

《ああ、もう!そうだ!俺からの最後の命令だ!》


 それを聞いた途端、ライカはバイクにエンジンをかけて急発進した――一気に加速したそれは、瞬く間にシルバークルーザーの後方を捉えた。


《後方から熱源反応――》

《奇襲か?》


 何かを感じたユーは後方に目を凝らす――


「ライカ!?」

「ライ――も――緒に」


 ユーは遠くからかすかに聞こえる声に、耳を凝らす。それを見たライカはさらにバイクを加速させる。徐々に両者の距離は縮まる――


「ライカも一緒に行きたい!」


 やっとライカの声が聞き取れるようになったユーは、アルブレヒトにシルバークルーザーを減速させるように指示した――

 後部ハッチを空けたユーは、眼前に見えるライカに手を振った。

 ガラガラガラ!シルバークルーザーの内部に入ったライカはすぐさまバイクを降りると、ユーに抱き着いた。


「ユー大好き!」

「そ、そんなに!?」

《なぜ、ハグをするのですか?》

《そのうち分かるさ》



 少し狭くなった船内でライカの瞳は煌めいていた。


――

 

 イーストセクターの砂漠の中を、漆黒のランドクルーザー――ブラックルーザーが砂を散らしながら駆け抜けていた……

 頭を吹き飛ばされたサンドワームの死体を正面にとらえると機体は停止した。後部ハッチからマスター9とアンドロイドが4体出てきた。


《アルファ、スキャンしろ》

《了解》


 アルファはスキャンを開始するとホログラムの光が、サンドワームの傷口を照らした。その間もマスター9は腕を組んで地面の砂をぎりぎりと踏みつけていた。


《スキャン完了、ハイドロランドライバーによる殺傷と思われます》

《やはりか……そんなもの積んでいるのはアレぐらいしかない……》


 マスター9は遠くを見据えると、拳を握りしめた……


――

 

 シルバークルーザーの内部ではライカが最新の機器を目にして驚いていた。はしゃぐ彼女を三人は微笑ましく見ていた。

 

「二階、上がってもいいか?」

「も、もちろんだよ」


 ユーの声を聞くと、一目散にライカは二階に通ずる階段を駆け抜けた。二階からも歓声が沸くと、再びユー達の頬が緩んだ。

 

「こ、転ばないようにね」

「分かってる!」


 後部に置かれた水色の鉱石を見つめるとアルブレヒトは話を切り出した。


《目当てのハイドロラン結晶も回収したし一度ゴールドレーンに戻るぞ》

「また元のところに戻るの?」

《いや、ここからノースセクターに近いゴールドレーンに入る》


 セクター間をつなぐゴールドレーンは、様々な情報が共有されていた。依頼などの情報も共有されているため、元の掲示板まで戻る必要はなかった。


《あとはだな……》

《単純に燃料が足りませんね》

《それと町にも寄りたい》

「町?」


 ゴールドレーンの節々には町が立ち並び、ゴールドレーンからの利潤を受けていた。それぞれの街の特色を生かした商品も買うことができた。

 

――


《2500オズとなります》

《頼む》


 ノースセクターに近い町、N42の補給所についたユー達は、シルバークルーザーの補給ハッチを空けた。

 アンドロイドが手持ちの補給機から、シルバークルーザーの補給ハッチにハイドロランを注ぎ込む――ゲージが満タンになるとピピ!軽快な音が鳴り響いた。


(ここがノースセクターに近い町……)

《余談ですが、最近シーライオンと呼ばれる海賊が辺りで活動しています》

《わかった気を付けておく……》

「シーライオン……」


 その響きにユーは心が動かされた。


――END

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