第12話「砂漠のならず者」

 晴天の元、しばらく航行を続けたユー達は、あと少しで依頼書にあったポイントに到着する予定だった。


《ほら、言っただろ?行ってみれば――》


 そうアルブレヒトが言いかけた瞬間だった。ゴーン!船体の側面から大きな音が響いた。


「ふぇぇ!?」

《船体右舷側にダメージ発生、敵襲でしょうか?》

「て、敵襲?」


 船体外部のカメラの映像を見たアルブレヒトは、モノアイをキュルキュルさせながら、その光景に唖然とした。


《おいおい、よりにもよってデザートレイダーかよ!》

「で、デザートレイダー?」


 ゴールドレーンの外には、ユー達のようなマーセナリーもいれば、商船などを襲うレイダーと呼ばれる盗賊集団も同じようにいた。

 中でもこの砂漠地帯いる彼らはデザートレイダーと呼ばれていた。


「ひゃっほーい!おそらく相手はずぶの素人だ!」


 ユーが船外カメラをチェックすると、ガラクタを寄せ集めて作ったようなジャンク品のランドクルーザー――ジャンククルーザーが、ユー達と並走していた。

 その上部ハッチから身を乗り出していた男がいた――モヒカンをなびかせ、赤いレンズのゴーグルをつけた半裸の男だった。

 大声の主はその男だった…… 


「ライカ!アンカーワイヤーを打ち込め!」

「了解オヤカタ!」


 オヤカタにライカと呼ばれた少女は、アンカーワイヤー――ワイヤーの先に錨がついたものを射出する装置で照準を定めた――風で彼女の側頭部のピンク色のチューブがひらひら揺れる……

 ガーン!アンカーは見事シルバークルーザーに命中し、その側面に大穴を空けると、内部で展開した――


《畜生……なんて命中精度だ》

「ど、ど、どうするの!?」

《おそらく相手は乗り込んできます――交戦の準備を》


 トロンは操縦を継続し、アルブレヒトはプラズマライフルをウェポンハンガーから取り出し、すぐさま上部ハッチまで駆け抜けた。


(私も何かやらなきゃ……)


 この状況にユーの心臓はバクバクと鼓動を高鳴らせていた。ウェポンハンガーから、慌ててレーザーライフルを取り出し、上部ハッチへと向かった。


「敵船を引き寄せろ!ライカ!」


 オヤカタの一声でライカはワイヤーを巻き上げる――シルバークルーザーは大きくジャンククルーザーの方に引き寄せられ、甲板に居たアルブレヒトは危うく落ちそうになった――

 ガシッ!落ちそうになったアルブレヒトの体を引き上げたのはユーだった。


《助かった――が、まだ仕事は残ってるぞ》

「は、はい!」


 そうユーが言う間にも、デザートレイダーの攻撃は続いていた。彼らの撃つアサルトライフルの弾が、ユー達のバリアと船体上部のバリケードを掠めていった。

 お互いが射撃を続けながら、互いの距離が近づいていく――その時だった……

 ザバァァァン!両者の間の砂の下から、巨大な蛇のような物体が、ワイヤーを食い破りながら出現した。


「な、な、な、なんなのあれ!?」

《クソ!サンドワームとはな》


 サンドワームは布を縫う糸のようにうねりながら砂の下と地表を行き来し、しばらくするとジャンククルーザーの方に視線を向け、そちらに向かった。


「おいおいこっちかよ!」

《都合がいい、トロン逃げてくれ》

《了解――》

「ま、待って!」

《どうした、ユー?》


 サンドワームに体当たりを喰らい、大きく船体を揺らしたジャンククルーザーを見て、ユーの思考回路は一つの答えを導いた。


「そ、そちらの船長さん!!」

「な、なんだよ!早く言え!」

「サンドワームを倒すまで共闘しませんか!?」


 ユーの意見にその場に居た全員が驚愕した。アルブレヒトは頭を抱え、トロンは首を傾げた。オヤカタもしばらく頭を抱えたが、両手を振った。


「わ、分かった!一時休戦といこう!」

《意味が分かっているのか?相手はレイダーだぞ!?》

「む、向こうには子供もいるし」

《居たとしても――》

《了解、デザートレイダーの援護に向かいます》

《おいおい……》


 アルブレヒトの心配をよそに、トロンは素早く舵を切り、ジャンククルーザーの方へと向かった。

 ジャンククルーザーの砲撃で、多少はひるんだサンドワームだったが、まだその威勢を保っていた。

 トロンは素早くデバイスを起動し、船体の武装をチェックする――その中で一番火力を保持していたのは《ハイドロランドライバー》だった。


《ハイドロランドライバーならサンドワームに有効打を与えられます、ただ――》

「ど、ドライバーのチャージに時間がかかるんだよね?」

《……俺達が時間を稼げばいいんだな?》

《あとは甲板で手動照準となります……》

《ユー、お前がやるんだ……》

「わ、分かった!」


 アルブレヒトの切り替えの早さと、勇壮な佇まいに、ユーの心に何か熱い火のようなものが灯った。


「こっちのハイドロランドライバーがチャージできるまで交互に牽制を!」

「わかった!野郎ども!牽制しろ!」

「「了解!オヤカタ!」」

「ライカは近接戦闘を仕掛けろ!」 


 ユー達とオヤカタ達は、サンドワームに交互に牽制射撃を繰り返す――どちらを狙ったらいいか迷ったサンドワームは、動きに切れがなくなっていった……

 ライカは飛び上がると、ベルトに仕込んでおいた小型のアンカーワイヤーをサンドワームに打ち込んだ。彼女はすぐにそれを巻き上げると、サンドワームの背中に飛び移り、切り刻みながら駆け抜けた――

 

(す、すごいあの子……)

《ユー!ぼうっとしてないで集中しろ!》

「わ、分かってる!」

 

 ユーの集中力はサンドワームの頭へと注がれ、次第に周りの音が聞こえなくなっていった――ハイドロランドライバーのチャンバー内に水色に輝くハイドロランが充填されていく――

 

《3、2、1――ドライバー準備完了》

「――!」


 ドゥラァァァァァン!輝く水色の奔流は、見事サンドワームの頭をに命中し、跡形もなく消し去った……放たれたハイドロランはきらきらと輝いて大気へと還っていった。

 サンドワームの体は、途切れた糸のようにゆっくりと砂の上に倒れていった……


《対象の死亡を確認……》

「か、勝っちゃった……」

《結果はオーライだな、ユー》

「そこの銀のランドクルーザー、助かった……」


 ジャンククルーザーが、シルバークルーザーに近づくと、両船は停止した。デザートレイダー達は手を振ってユー達に近づいてくる。

 その中でライカと呼ばれていた少女が、ユーの目に映った……


――END

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