第11話「旅立ちの日」

 ユーの目の前には多種多様なガンパーツが、宝石のように所狭しと並んでいた。ユーの瞳は七色に輝く。

 大柄の店主はそれに目をつけると、ここぞとばかりにユーに話しかけた。

 

「お客様お目が高い!うちの商品がお目当てで?」

「ノースセクター製第10世代型のジェネレーター、壁の中じゃ見たことない……」

「その通り!ここらじゃうちじゃないと――」

《待ってください、ユー》


 トロンがユーを制止すると、彼女はその商品に伸ばす手を止めた。

 するとトロンは商品にスキャンを開始した――彼女の金色の虹彩が回転する。

 スキャンを見た瞬間、店主はごくりと唾をのむ。アルブレヒトも腕を組んでその様子を見ていた……

 

《……これ、贋作ですね》

「そんなバカな……うちのは――」

《それに……向こうの店に本物がもっと安値でありました》


 トロンが指をさすと、店主は諦めたようにうなだれた。周りの目を気にしたのか、店主は店のシャッターを下ろす。

 ユー達はトロンが指さした店に足を運ぶ――先ほどの件で意気消沈したユーだったが、店に着くと目を輝かせた。


「ほ、ほんとだ、さっきのより安い!」

《オキャクサマ、オメアテの物が見つかって何よりデス》


 ユーは商品を買い終えると、離れたところで待っていたアルブレヒトとトロンに駆け寄った……


「ほ、ほんとにありがとう、トロン――」

《なぜ感謝をするのですか?》


 ユーはトロンの意外な質問に戸惑ったのか、目を丸くした。トロンも同じように呆然と立ち尽くすだけだった。

 見かねたアルブレヒトは二人の肩を抱きせた。


《いいことをしてもらったら感謝するんだよ!》

「あ、アルブレヒト、苦しいよ……」

《早急に拘束の解除を求めます……》


 アルブレヒトは二人の肩から手を離すとぱちんと手を叩いた。彼がホログラムを展開すると、ユーも察したかのようにデバイスを起動した。


「お、お金結構使っちゃった」

《となればだな……マーセナリーとして依頼を受けなきゃな》

「い、依頼?」


 アルブレヒトは《マーセナリー依頼受付所》というホログラムのバナーが輝く場所まで二人を案内した。そこある掲示板には所狭しとホログラムの依頼書が張り巡らされていた。

 アルブレヒトは少し迷った様子で、依頼書を腕を組んで見つめていた――依頼書は現れては消え、現れては消えることを繰り返していた。


《ユー、お前が選べ》

《私もユーの意見に従います》

「え!えっとじゃあ……」


 ユーはしばらく迷った後に《砂漠地帯でのハイドロラン結晶の入手》と書かれた看板を指さした――戦闘も想定されておらず、比較的難易度の低いミッションだった。


――


 ユー達はシルバークルーザーの中いた。それぞれが発進の準備をするため、デバイスとにらめっこしていた。ユーは動力系のチェックを、アルブレヒトは火器管制のデバイスをいじり、トロンは操艦席で発進の安全確認を行っていた。

 駐車場はエレベーター式になっていて壁の最下部まで繋がっており、マーセナリー達はそこから依頼の現場へと向かうことができた。

 エレベーターが下るたび、シルバークルーザーの船内がガタンと揺れる――その振動がユーの体を揺らすたび、ユーの緊張は高まった。

 ガタン!一番大きな音が鳴ると、格納庫の正面ゲートが開く――

 

「だ、大丈夫かな?もし――」

《大丈夫だ――依頼書の指定ポイントは比較的安全だ》

《もし、何かあれば私がユーを守ります》


 ユーの心配をよそにトロンは、シルバークルーザーを発進させた。


――


 ゴールドレーンの裏路地で、先ほどユー達に贋作を売ろうとした商人は宙に浮いていた――否、マスター9の腕によって浮かされていた。商人の喉は圧迫され、今にも失神しそうだった。

 

《答えろ、三人組はその後どこに行った?》

「た、たしか、ハイドロラン結晶を採取しに砂漠地帯に行くって」

《……そうか》


 マスター9が腕を下すと、商人の体は地面にうち捨てられた。マスター9は、せき込みながら逃げる商人に目もくれず4体のアンドロイドと共にその場を去った。


――


 シルバークルーザーは朝日に照らされ、ほんのりと黄色に輝きながら、煌めく砂を散らして航行していた。

 室内ではシルバークルーザーの上部カメラの映像と、にらめっこしていたユーが何かに気づくと、二階へ上がった。

 

「ひ、日の出だよ!トロン!」

《それがどうかしたのですか?》

《操縦は変わってやる、見てこい!》


 二人に促されたトロンは、ユーに追いつくと上部ハッチを空けた。船体上部に二人は上がる――

 そこには東の方から登ろうとする太陽と、薄黄色の雲、青い空が二人を祝福するかのように広がっていた。


「きれい……」

《きれいだと何かいいことがあるのですか?》


 ユーは少し戸惑ったが、微笑むと自分の胸に手を当て、瞳を瞑った。彼女の心には今広がっている空の情景が浮かんでいた。

 再び瞳を開いたユーは優しくトロンに答える。


「え、えーとこういう光景を見ると、心が安らぐっていうか――思い出になるって感じかな」

《それが心の在処に辿り着く手掛かりになるのでしょうか?》

「そうかもね……」 

《なら、この光景をスキャンして、録画すればいいのでしょうか?》

「ふふ……最初はそれでもいいかも」


 トロンの言葉にクスリと笑ってしまったユーは、彼女と共にしばらく朝日を楽しんでいた――


――END

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