第9話「壁を越えて」

 ディーン!レーザーの音が鳴り響く……アルフレートの庭のドアが、円を描くように赤熱していた。

 バタン!ドアだったものが倒れると、その先には、先ほどのバイザーの女が立っていた。その後ろには、数体の漆黒のボディを持つアンドロイドが、仁王立ちしていた。  

 いらだつ様子を見せるバイザーの女は、アンドロイドと共に、ずかずかとアルフレートの庭に押し入っていく……

 

《私の庭に何か用かな?》

《とぼけるな――三人組がここにきているはず……》

《それより、私の研究を――》


 バイザーの女が片腕を上げると、アンドロイド達はそれぞれに庭中を探索し始めた……


――


《いやぁ、あの教授も機転が利くな!》

「ですよね!」

 

 ユー達は、暗く長い緊急時の脱出路の中を突き進んでいた。いくつもの分かれ道を、先頭を行くトロンは迷うことなく進む――


《しかし油断は禁物です》

《いつバレるか分からんからなぁ……》

「だよね……」


 ユーの鼓動は高まっていた――走り続る、それ以上の焦燥感が彼女の心臓を支配していた。

それを見たアルブレヒトはうらやまし気に肩を叩いた。


《胸の鼓動が高鳴るのは、フレッシュに生きてる証拠だ》

「フレッシュに……」


 そう聞いた途端、ユーは冷静な表情に戻った。鼓動は何故か別の意味の高鳴りを覚えた……


――

 

アルフレートの庭を、アンドロイド達は遠慮もなく探し続けた。あらゆるものは、乱雑にひっくり返される。時間が立つほど、バイザーの女はいら立ちを隠せないのか、足踏みをすると近くのコンテナに手をかざし、ひしゃげさせた。


《マスター9、妙なハッチを確認しました》

《遅いぞ、アルファ》

《待ってほしい、そこには私の資材が――》


 そんなアルフレートを追い越して、マスター9と呼ばれたバイザーの女は、ハッチに手をかざすと一瞬で弾いた。弾かれたハッチは宙を飛び、アルフレートの足元で止まった。


《どこに資材があるって?》


 アルフレートが頭を抱えると、アンドロイド達は彼に銃を構えた。しかし、彼はその銃口におびえることはなかった……

 アルフレートは素直に手を挙げて、マスター9に服従する。


《降参だよ……》


――


 ユー達は、アルフレートが彼女らを逃がすため用意した、《銀の靴》と呼ばれるものを目がけて走っていた。しばらくすると、脱出路の先に光が見える……


「あれが銀の靴?」

《正式名称シルバークルーザーです》

《こりゃまたすごい代物だな》


 シルバークルーザーと呼ばれたものは、ホバー式の陸上人員輸送機――この世界でランドクルーザーと呼ばれる乗り物の一種だった。ボディ全体は銀色に輝き、流線型のフォルムは流体力学にかなったものだった。

 ユー達は危機的な状況にありながらもシルバークルーザーの美しさに見とれていた。

 しかし、悠長に構えていた彼女達に危機が迫る。


《後方から熱源反応――》

「だ、だれ?」

《あいつもう追いついたのか!?》


 ユー達の背後にはマスター9と、アンドロイド達が銃口を向けていた。トロンが素早くシルバークルーザーの後部ハッチを空けると、ユー達は一斉に中に乗り込む。乗り込んだ瞬間、ハッチのすれすれをレーザーが掠めた。

 内部では人が4、5人過ごせる二階建の環境になっており、階段で移動が可能になっていた。 

 リビングらしき空間、武器の貯蔵されたウェポンハンガー、治療室、シャワールームなどが設置されていてユーの目に留まった。

 操艦席にトロンは素早く座ると、自身のバックパックから伸びるコードを機体に差し込む――ホログラムのマップが彼女の前に投影され、彼女瞳は水色の光を反射した。


《目的地は――》

「「とりあえず出せ!」」

《了解》


 二人の怒気にトロンは涼しい顔で応える、するとシルバークルーザーを発進させた。

 シルバークルーザーにレーザーやプラズマ弾が当たるような音がするたび、ユーの胸は鼓動を高鳴らせる――

 前方に広がるトンネルを抜けると、ユーが見慣れた景色が広がっていた――違うことといえば、シルバークルーザーが進むたびに人々の視線が集まる事だった。

シルバークルーザーはホログラムのバナーを揺らめかせ、花屋の造花の花びらを吹き散らし、進み続けた。


「と、と、と、トロン、速すぎじゃ!」

《このままだと追いつかれます》


 ユー達の後ろにはブースターを使い、高速で移動するマスター9とその部下の姿があった――その必死の追跡にユーはたじろいだ。

 夜空の下に輝くシルバークルーザーの前に、イーストセクターの壁の検問が差し掛かると、警備員が銃口をユー達に向けた。


《そこの未確認ランドクルーザー、直ちに止まりなさい》


 警備員が忠告して、上がっていたセキュリテイバーを下したのにも関わらず、トロンはアクセルを踏んだ――


「と、と、トロン!?」

《おいおいまさか!?》


 ガーン!セキュリティバーをへし折りながらシルバークルーザーは検問を突破した。

 ユーがバックカメラの映像を見ると、数人のアンドロイドにマスター9が囲まれている。

 ユー達の眼前には大規模な壁上都市が広がる――そこはゴールドレーンと呼ばれ、東西南北のセクターをつなぐ大きな商業路となっていた。


――END

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