第6話「追跡者」
《やられたか……》
暗く、いくつものモニターが並ぶ部屋――セキュリティルームで、黒いバイザーをした女が、モニターの光に照らされていた……
呆れた様子の彼女は、腕を組んで足踏みをしていた。
モニターの一つにはユー達が映されていて、彼女の視線はそこに集中していた。
しばらく凝視していた彼女は、そのモニターに手をかざす――するとモニターはひしゃげていった……
――
ユー達はトロンを先頭に、緊急時コントロールルームに続く道を歩んでいた。ドアの前方には三体のスライムが、長い腕をだらんと引きずりながら徘徊していた。ユー達は足を止めるほかなかった……
正面のスライムは、座っていない首で天井を眺めていたからか、ユー達の存在には気づいていなかった。
《後ろにもいるってのに!》
《私が囮になります――》
「任せて大丈夫?」
トロンはうなづくと前方に歩み出でる――気づいたスライム達は、奇妙な絶叫をあげながらトロンに突撃した。
バシーン!スライムの長い腕は、鞭のようにトロンのシールドに当たるが、びくともしなかった。他のスライムの酸も、シールドの表面をなぞるだけだった。
炭素含有量を調節され、特殊コーティングを施された合金製のシールドの前には、スライムの攻撃は無力に等しかった。
トロンが合図を送るとユー達は、プラズマライフルを構えた。
(今――!)
ザァァン!二撃のプラズマの爆風が、二体のスライムをほぼ同時に葬り去った……残る一体にトロンは、エレクトロ弾を足元に撃ち込んだ。
最後の一体が動けなくなったのを見ると、三人はドアまで駆け出した。ユーが振り向くと、背後から何体ものスライムが、耳をつんざくような絶叫を上げながら近づいていた。
ユーの背筋は一気に凍えるような感触を覚える――振り向きそうになったユーの肩を、アルブレヒトの手が遮った。
《振り向くな!ユー!》
「わ、分かりました」
目の前のドアはかろうじて生きていたのか、正常に機能していた。ユー達がドアを潜り抜ける――ドン!ドン!ドン!アルブレヒトがロックをかけると、ドアがしまった瞬間に、何かがぶつかる音がいくつも響いた。
ユー達の目の前にはスライムの姿はなく、パイプや壊れた電子機器、コンクリートなどの瓦礫が覆いかぶさる広い空間が広がっていた。その中央に黒いバイザーの女が立っていた……
レーザーライフルを持って仁王立ちしていた彼女は、じっとユー達をその黒いバイザー越しに見つめていた……
《生存者か!よかった俺――》
ディーン!アルブレヒトの背後に居たユーの頬を、赤いレーザーが掠める――彼女の頬に軽い火傷ができる。
「な、なんで!?」
《対象を敵と認識、排除します》
トロンが前方に躍り出て、シールドを構えたのを見ると、バイザーの女はトロンを凝視し、拳を握りしめて激しい憤りのようなものを見せた。
しばらくすると、女はユー達を指さした。
《お前らにはここで消えてもらう……》
「どうして……?」
《どうしてもだ……》
バイザーの女が、両腕をパイプとコンクリートの破片に手をかざす――ガラガラと音を立てたそれは浮き、女が前方に腕を振りかざすと、ユー達目がけて飛んだ。
《ユー、私の後ろに隠れてください》
「お、お願い!」
ガァァァン!鋼鉄同士がぶつかり合う音が響く中、ユーは必死にトロンの背後に隠れた。
投げる物がなくなると、バイザーの女はバックパックのブースターをふかし、ユー達に接近してきた。アルブレヒトの制圧射撃もかいくぐり、ユー目掛けて突撃してきたのだ。
一瞬で距離をつめた彼女とユーは視線が通い合う――
「なんで私を……」
《お前だからだ――!》
怒りからか、一瞬の隙がバイザーの女にできた途端、トロンはエレクトロ弾を放った――彼女はそれを予測できなかったのかうろたえた。
《なに!》
バイザーの女はエレクトロ弾が直撃し、体がしびれると動きが鈍くなった。その隙をついて3人は、反対側のドア目がけて駆け出した――
しかし、バイザーの女はその場でゆっくりと立ち上がろうとしていた。
ユーを庇うようにトロン達は立ちふさがる。その様子にバイザーの女はわずかにいら立ちを見せた。
全速力で駆け抜けたユーは、ドアのロックを解除する――震える体を抑え、解除に集中した。
体の痺れが少し取れてきたのか、バイザーの女は肩に収納されていたグレネードキャノンを構える。
キャノンから伸びるレーザーサイトがユーに狙いを定める――一瞬恐怖がユーの精神を支配し、手が止まった。
しかし、トロンがシールドを構え、その間に立ちふさがると、その恐怖はユーから消え去った。
《ユー、速く》
ザァァン!アルブレヒトがバイザーの女を狙うが、ハイドロランのバリアによってそれは防がれる――てらてらと光るハイドロランの水色の輝きが一瞬あたりを照らす。
《終わりだ――》
バイザーの女のグレネードキャノンは、弾頭を射出する――ドア周辺は爆風に包まれ、煙が立ち込める。
だが、煙が引いてくるとそこには、枠ごと破壊されたドアしか残っていなかった……
《……逃したか》
今だに痺れて動けないことにいらだったのか、バイザーの女は瓦礫を浮かせると、壁にぶち当てた――
――END
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