第4話「秘密兵器」
研究所には阿鼻叫喚が響いていた。ユーはそれにうろたえることしかできなかった。
銃撃音と、何かを引き裂くような音が響き、ユーは心臓に氷を突っ込まれたかのような感覚を覚えた。
ユーはすかさず、ガンハンガーへのアクセスをした――すると奥の扉が開き、銃の宝物庫が彼女を迎えた――その時だった。
《だれか!開けてくれないか?》
ユーの背筋がビクッとなったが、彼女は深呼吸をした。ドアのアクセスにゆっくりと歩みよる……
「誰ですか?」
《警備部主任のアルブレヒトだ!》
それを聞いた途端、ユーの肩の力が抜け、彼女はドアのアクセスを解除した。
半ば転げ込むようにサイボーグの男が入ってきた――紺をベースに赤い塗装がされたボディは、だが表面が溶けかかっていた。
「大丈夫ですか!?」
《ちょっとミスっちまってな……》
彼のボディは大きく酸のようなもので溶かされており、侵食はさらに広まろうとしていた。
ユーはたじろぎながらもバッグからレーザーカッターと、合金版、そしてハイドロランと、バイザーを取り出すと彼の治療を開始しようとし始めた――
《治療できるのか?》
「わ、わからないけどやってみる」
《……まかせる》
アルブレヒトのモノアイはたじろぎながらも、ユーの治療に身を預けた。ディーン!レーザーカッターで成形された合金版は形を変え、火の粉がユーのバイザーを掠めた。
彼のボディに、ほぼぴったりになった合金版は、水色に光るハイドロランで溶接された。
《驚いたな……ここまで正確に》
「わ、私はできることをやっただけだから」
《ついでで悪いんだが向こうからプラズマライフルを取ってきてくれないか?》
ユーは駆け出すと、プラズマライフルを二丁取り出す――イーストセクター製のそれは、直線的で黒地に黄色のライトラインが走り、スマートな印象だった。
アルブレヒトはユーから、一丁を受ける取ると、不思議そうにモノアイを動かした。
《君も戦うつもりか?》
「で、できるかわからないけど……やります!」
ユーの姿勢が気に入ったのか、アルブレヒトは立ち上がると、彼女と握手をした。しかし、彼は首に手を当てると困ったようなしぐさをした。
アルブレヒトは腕の端末を操作すると、研究所のマップとにらめっこしている。ユーはプラズマライフルの点検を行っていた。
《外では研究中のハイドロランの塊である人型スライムが暴走している》
「そんなものどこから?」
《さぁ、研究所の連中に聞いてみてくれ……生きてるか分からんがな》
ユーはアルブレヒトの傷口をもう一度見ると、また鞄から道具を取り出した。
「さ、さっきの傷って酸か何かで溶かされたんですか?」
《ああ、そうだが――って何を?》
ユーはハイドロランと合金版、電子部品を取り出すと、レーザーカッターで何かを作り始めた――水色のホログラムの設計図を彼女は真剣に見つめていた。
アルブレヒトは声をかけようとしたが、あまりの彼女の熱中具合に思いとどまった。
小さな装置が2個完成すると、ユーはアルブレヒトにそれを1個渡した。彼はその装置をモノアイをキュルキュルとさせながら見つめた。
《これは?》
「即席のハイドロラン製のバリアです……これなら酸を避けられるはず」
《なかなかやるじゃないか……》
受け取ったアルブレヒトは、装置を作動する――すると水色に輝き、表面が水面のように波打つ球状のバリアが彼を包み、周囲を照らした。
《まずは研究所の特殊兵器製造所を目指す》
「特殊兵器?」
《それがどうやらこの事態の収拾に役立つらしい》
――
ユー達は駆け抜けていた――否逃げていた。大量のスライムに追い掛け回されていたのだ――水色のそれはかろうじて人の形を保っていた……
ドアは大抵が破壊され、ところどころ破壊された天井からは何かのコードがぶら下がっていた。ドアの奥には融解した研究者やアンドロイドがちらほら見えた。
「あれってどこから来たんですか!」
《詳細は俺も知らない――!》
T字路に差し掛かった時、角からスライムが現れる――ザァァン!プラズマの爆風が一瞬でスライムの上半身を吹き飛ばす――プラズマの熱気が彼女達を包み、その軌跡はわずかに空気を電離させる。ユーの肺に熱い空気がぶわっと入り込んだ。
「す、すごい」
《油断するな!角を左に曲がるぞ!》
「は、はい!」
ユー達が曲がり角を曲がるとその先には、スライムが三体おり、その先にドアがあった。アルブレヒトとユーは目配せすると突撃した。
ザァァン!二体のスライムは上半身を打ち抜かれ、なおその場でうごめいていた――熱気を上げながら上半身は徐々に再生しつつあった。
「残る一体は!?」
《俺が――》
前方のスライムはアルブレヒトに急接近して酸を浴びせる――諦めかけた彼だったが……そのボディは健在だった。
酸はバリアに吸収されて揺らめかせるだけだった……
《助かったぞ!》
「まだです!」
残った一体にプラズマライフルの一撃が炸裂する――スライムの体は、内部がブクブクと泡を立て、その場で溶けていった……
「ド、ドアのアクセスを解除し――」
《そこまで時間を稼げばいいんだな!》
「はい、5秒あれば」
《5秒でいいのか!?》
ユーが首のデバイスからコードを引き抜くと、ドアのアクセスプラグに差し込んだ。
緊張で手が震えていたユーだが、アルブレヒトのプラズマライフルの炸裂音を聞くたび、彼女の鼓動は静かになっていった。
次第にプラズマライフルの音さえ聞こえてこなくなった――
《思ったより多い、もう抑えきれん!》
アルブレヒトの一声で、やっと警戒心を取り戻したユー。しかし、その時にはすべてのセキュリティを解除していた……
「お、終わりました!」
ドアが開いた瞬間、ユー達はなだれ込むように室内へ入った――ドアは即座に占められ、スライムの手が切断されて室内に飛び込んだ。
まだ動いているそれを見たユーは、ぎょっとした表情でそれを見つめた。アルブレヒトは立ち上がるとそれを踏みつぶした……
《お見事だったぞ、ユー!》
「た、大したことじゃないです……」
《いやぁ、普通のテッククローンではここまで速くできん》
ユーは首をかしげると、アルブレヒトは笑い出した。
《まぁいい、お目当ての秘密兵器を見に行こうじゃないか》
「そ、そうですね」
予備電源に切り替わったせいか部屋は薄暗く、赤いランプがチカチカ光っていた。
ユー達の目の前には、大きなポッドが一つ、研究室の奥に鎮座している――幾つものケーブルが木の根のように繋がれていた。
「あの中に秘密兵器が?」
《おそらく……ロックを解除できるか?》
ユーは端末まで行くと、首からコードを引き抜きアクセスした。電子の奔流の中、ユーはさまよい続けた――
(試作型人型兵器?これって……)
ユーはさらに電子の海をさまよい続ける。その先にポッドのロックの解除コードをつかみ取った。
登録者名の入力をデバイスが要求していたので、ユーは自分の製造番号と名前を入力した。
《認証コードの再登録を確認……データを初期化します》……無機質なアナウンスが室内に広がった。
ゴゴゴ……鈍い音と共にポッドの中身はその全貌を露わにした……
《なんだこりゃ……ただのRP2000じゃないか》
「ほんとだ……」
――END
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