第14話 二人は食事の後の散歩に出かけた
食事の後のコーヒーを飲み終えると、いつものように散歩に誘い合った。二人は食堂の人混みと食べ物の匂いを逃れて、大学のすぐ南に在る市営の大きな公園に出かけた。其処では厚く茂る緑の枝葉が晴れた八月の暑熱を遮ってはいたものの、然し、決して涼しくはなかった。
樹々に囲まれた遊歩道を歩きながら、美穂が淳一に単純な質問をした。
「あなた、夏休みなのに何故京都に居るの?」
「今年は修士論文を纏めなければならないから、田舎へのんびり帰れないんだよ」
「来年は卒業だから?」
「うん、そうだな・・・田舎は正月と八月が良いんだよ。正月は雪がしんしんと綺麗だし、八月は空気が澄んで街は閑散としている、丘へ登れば海が見渡せるし・・・」
「海が好きなの?」
「うん。京都には、丹後まで行かないと、海は無いからな」
二人は遊歩道を抜けて小さな広場の木陰に在る木製のベンチに腰掛けた。石のベンチは暑さで火照っていたし、凹んだ処に埃が白く溜まっていたので、二人はそれは避けた。
並んで腰かけると、淳一が出し抜けに提案した。
「どうだ?これから僕の部屋へ行かないか?君の気に入りそうなCDも在るし、いつか見たいと言っていたDVDも在るし、ね」
そのDVDの話の途中で美穂が片手を挙げて遮った。
「ハイ、ハイ、ハイ・・・あのう・・・危険はないかしら?」
淳一は苦笑してはにかみ乍ら答えた。
「それは、やはり、在る」
「正直ね」
「困るかな?」
「危険は危ないもの」
「それは言えている」
「でしょう」
淳一は美穂が怒っているのではないことに気を良くして、更に愚痴を溢した。
「昨日、折角、掃除をしたのに・・・シーツまで取り替えたのに・・・」
「ほら、やっぱり危険な証拠」
「うん。じゃあ、こういうのはどうだ?危険なことは無い、と僕が約束する。それを君が信用する・・・」
「そういう約束って、全然信用出来ないんですってよ」
「それは、まあ、そうだな」
「ほら、ご覧なさい」
「うん」
「若い女の娘が男の部屋へ行くのは危ないのよ、本質的に」
「然し、例外はある」
「例外じゃないってこと、自分で今、認めた癖に」
「うん」
淳一はそこで溜息を吐いたが、美穂は取り合わなかった。
暫く、会話が途切れた。
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