妬み
第9話 魔法による漁業革命
家族に魔法を披露してから、ガイの魔法のアップデートをする日々だった。
それとなく前世の科学知識を伝えて、自分で思いついたと思わせるように誘導していた。
例えば氷の温度。ただ「冷たい」ではなく具体的に、絶対零度を100%として、何%で作るのか。
逆に炎ならどれくらいの温度なのか。
そういった今まで曖昧になっていた要素を確かにしてやる。
とは言え、見た感じ科学が発展していないこの村において、突出し過ぎた知識や技術は受け入れられないかもしれないから線引きに苦労したが。
何より苦労したのは、前世の知識を『世界』がこの家だけの私が違和感なく伝えるというところだ。
『なんでそんなこと知ってるんだ』と思わせないように、普段の生活の中から母やガイに疑問に思わせ気づかせる、これのなんと大変なことか。
学校の先生って凄かったんだなぁ。
私の苦労の甲斐もあって、ガイは漁に出る度に漁の方法、保存や加工の方法に革新を起こしていく。
村の人に感謝されても、『ユーリのおかげだ』と言っているらしく、最初は怪訝な顔をする村人だったが、便利な魔法を更にどんどん便利にしていく『ユーリ式魔法』によって少しずつ考えが変わっていっているようだ。
「今日も微妙な顔してユーリに感謝してたよ」
苦笑しながらガイが教えてくれた。
差別していてもそいつによって生活が便利になるなら感謝する、現金な人達だ。もしかしたら差別と言うより忌避感があるくらいなのかもしれない。それでも見た目で判断するような人とは関わりたくはないが。
漁が効率的になったとしても、漁獲量は増やさないらしい。乱獲すれば将来漁獲量が減り生活できなくなる人が出てくるから、らしい。
文明的な発達は遅くても、そういった先のことを考えることができるってのは前世のときとは違うなぁ。
まぁ加工技術が発達したことにより村の経済が潤ったってのも、先のことを考える余裕を作る要因なのかもしれない。
便利な魔法を開発してガイを通じて村人に伝えていけば、もしかしたら差別されなくなるのかもしれないと希望を抱く。
今はそれとなくガイに気づかせる方法をとってるけど、今後はそれも難しくなるかもしれない。あくまでガイの教養が基準になるからだ。それなら、
「ねぇ、私勉強したい。もっと色んなこと知りたい。」
「勉強かぁ、この村には学校もないし、先生みたいな人もいないぞ」
「じゃあ、せめて文字だけでも覚えたい」
「覚えてどうするの…あ、いやごめん。その……」
どうせ外には出られないのに、そう言いたかったのかもしれない。
「家にいても知識は得られないし、いつか2人の代わりに買い物に出ることになっても文字が分からなかったらぼったくられるかもしれないし。それに、本が読みたいの」
学校もない、外に出て教えを乞うこともできない。ならせめて本から学びたい。でもそのためには文字を覚えないといけない。
「んー…まぁなんかあったら借りてくるよ。俺が勉強したいって言えば村の人も貸してくれると思うし」
「それでいい。よろしくね」
学校がないのだから、文字を覚えるための本だってあるかもしれない。
今話している言葉が前世の日本語と同じなのだから文字だって同じであって欲しい。そうすれば今後読み書きで苦労することは無いだろう。
───結局、この村に文字を覚えるための本は無く、その上、たまたま目にした文字が日本語とは全く違うものだったことが分かり、読み書きの勉強が必要になっただけでなくこの村では文字を覚えることができないことが分かったのだ。
闇と私の物語 怠惰 @huyu0728
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