第8話 科学的根拠

あれから何日も魔素集める訓練を続け、集められる魔素が増えたし、ほんの少し疲れにくくなった気がする。

やはり訓練によって上達していくらしい。

生まれつき決まったていたりしなくてよかった。


ベッドに座り、魔素を集める。あの日ガイが集めていた魔素より多めに集め、さてどうしようかと首を捻る。自然と

「氷よ、我が手によりて姿を顕せ」

そう口にしていた。

コロンと氷が床に落ちる。慌てて拾い上げ、周囲を見渡す。


(はっず…)


顔が赤くなるのが分かる。

んー、詠唱なしでできないのかなぁ。例えば氷をイメージしながら、


キラキラ…コトン


「……できた」


再度床に落ちた氷を拾い、無詠唱でもできるんじゃんとほくそ笑む。


詠唱で作った氷は左手で握りっぱなしだったので少し溶けていた。


「冷た……あれ?」


左手の氷の方が今作ったものより少し大きかったのだ。

詠唱すると大きくなるのかな。


検証しようと思ったけど、疲れたのでやめた。時間はたっぷりあるのだ。とりあえずガイにでも自慢してやろう。



「じゃーん!」


リビングで話していたガイと母に自慢げに郡を見せつける。


「は?」

「あらあらユーリ、濡れちゃうわよ」


驚愕の表情のガイとのほほんとした母。

ガイは毎日漁に出ながら師匠のおっちゃん達に教えて貰ってるらしいが、そんなガイからちょろっと教えてもらっただけの私が魔法を使えるようになったのだから気持ちは分かる。

母はもう少し驚いてもいいと思うけどね。


「いやいや、え?もう使えるようになったの?」


「ガイが漁に出てる間も練習してたからね。魔素を集める感覚が分かったら割とすぐだったよ」


でもね、と続ける。


「私が練習に集中できるのも、ガイが働きに出てくれているからだよ。ありがとね」


「お、おう」


照れたのか頭をかきながらそんな返事をしたガイ。


ちゃんとフォローも忘れない。年長者は伊達じゃないのだ。コップに作った氷を入れて冷たい水を飲む。


それからというもの、ガイは私が魔法をすぐに覚えたのが面白かったのか、漁で使う魔法についてあれこれと教えてくれたのだ。


水を作ったり、水流を操作したり、風を起こしたり。

加工する人は乾燥させるために温度を上げたり火を起こしたり。

どうやらこの世界の生活は魔法をかなり駆使しているということが分かった。

もしかしたら汲み取りのおじさんは臭いを消したり浄化したり、ガイに言い訳する為に言った「燃やす」ってのもほんとうに火を起こして燃やしているのかもしれない。


ガイの魔法講義を受けていてふと気づいた。

さっき私が作った氷はまだ残っていたのだ。

一度作った氷が長く残るためには、多分温度が関係しているのではないか。

何も考えずに作った氷と、「しっかり冷たい氷」をイメージして作った氷では温度が違うのかもしれない。


水は0℃で凍る。その後絶対零度と言われる……200えっと……とにかく、200℃以下にまでなる。

どの温度の氷を作るか、これによって溶けにくさが変わるのかもしれない。そうすると、作る氷の温度もイメージ次第で変わるし、大きさも変わるのかもしれないし、不純物の入り具合によって透明度も変わるかもしれない。


前世の現代人が大して勉強しなくても知っている程度の科学知識でこの世界の魔法が大きく変わるかもしれない。そんな予感にゾッとしつつも、魔法の発展に寄与できるワクワク感も感じていた。



……この世界の魔法の程度なんて、ガイから聞いたことから推察することしかできないんだけどね。

とりあえず、ガイが漁で使っている魔法をそれとなくアドバイスしつつアップデートしてやって、少しでも楽にしてあげようと決意した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る