第7話 厨二病

ガイが魔法を習得してきた。氷を作れるようになったのだ。

何も無いところから氷が現れる。なんとも不思議な光景だ。


「これ結構大変なんだよ。小さい氷作るだけで結構魔素を集めないといけないんだ」


そう言いながらガイは作り出した氷をコップに入れて冷たい水を飲んでいる。


いやそれよりも


「で!魔素の集め方は!?」


私にとっちゃ氷が現れる不思議よりも、魔素を感知する方が大切なんだ。


「落ち着けって。まず、言葉で言っても分かんない。俺もわかんなかった。だから他の人が魔法を使うところを近くで見て、それでなんとなくこれかもって物を意識してたらできるようになったんだ。だからって何度も見せられないからな?疲れるし」


先手を打たれた。

何度も氷を作らせてしまえばいいやと思ったのに。


「じゃあもう1回見せてよ」


「あと1回で勘弁してくれ」


そういいながらガイは掌をコップに向ける。

「氷よ、氷よ、我が手によりて姿を顕せ」


キラキラと光る粒が集まり形を成し、氷が現れ、コップに落ちた。まだ中身の残っていたコップに氷が落とされ、中身が溢れた。


「あ」


コップを持ち上げテーブルを拭くガイ。

なんとも締まらない結果だけど、それでも分かったことがある。

あのキラキラした粒が魔素なのかもしれない。

空気中にあんなキラキラした粒が溢れてたら眩しくて仕方ないが、氷になる前、確かにキラキラの粒が集まってきたのだ。


ところであの厨二臭いセリフはなんだ。詠唱と言うやつか?魔法を使うために詠唱が必要ならちょっと…こう背中がゾワゾワするな。


「ふぅ……」


氷水を飲み干して、一息つくガイ。


「今日はこれで店じまいだな。もう疲れちゃったよ」


「ありがと、なんか分かった気がする。でも、あの『氷よ〜』ってやつは必要なの?」


「ん?そりゃいるよ。魔法だもん」


そうかぁ…。魔法だもんなぁ……。練習は人目がないところでやらなきゃな。



……3人家族なのに人目もくそもあったもんじゃないな。部屋でやろ。




「さて」


ベッドに座ってさっきのキラキラを思い出す。

とりあえずあのキラキラが魔素なのだとして、それを集めるところから始めないと魔法は使えない。


誰も見ていないのに、何となく周りを気にしてキョロキョロしてしまう。

厨二臭いセリフはやっぱり恥ずかしいんだよ、おっさんにはね。


魔素集めても何もしなければ霧散して消えるのなら、詠唱は要らないかもなぁと思い付き、黙って集中する。


(魔素……キラキラ……魔素……手に……キラキラ)


手の甲を膝に乗せ、掌を上に向け、意識を集中する。



キラッ



「光った!」


一瞬光ったけど、驚いたせいで消えてしまった。

もっと集中しなきゃ。


(ん〜〜〜〜〜)


キラッ

キラキラ


掌にキラキラとした粒が集まってきた。

これをもっと集めて、詠唱すればガイのように氷を作れるかもしれない。


これが魔素。綺麗だ。中身おっさんでもこのキラキラには心が踊る。もう少しで魔法が使えるという事実が更に心を踊らせた。


時間にして30秒くらい。ガイが集めた魔素より少し少ないくらいでどっと疲労感がきた。

キラキラした塊はふわっと消えた。


「はぁ……確かにこれは疲れる」


100m走を全力で走った後みたいだ。

なら、鍛えればもっと楽にできるかもしれない。

実際に魔法を使うのはもう少し後でいい。厨二病詠唱はまだ勇気が足りない。それまでは魔素集める訓練をしてみよう。


ワクワクしながらベッドに倒れ込む。

部屋の外で母が微笑みながらその様子を見ていたのだった。

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