第6話 魔素

魔法とは、空気中の魔素を集め、詠唱によって属性を付与したものを魔法と言うらしい。

魔素とは魔法の素であり、どこにでもあるらしく、それを意のままに操ることが魔法使いの素養となる。


ガイの話を要約するとそんな感じだった。


つまり、魔法を使おうと思ったら魔素を集めるところから始めないといけないし、その前に魔素を知覚しなければならないということ、かな?


「俺が教わったことをユーリにも教えるから、それで勘弁してくれな」


多分、外に出ても黒い姿に白い目で見られる私達に気を遣っているのだろう。


「……わかった」


ガイの気遣いに免じて納得してやろう。




納得するのと、理解するのは別なわけで。


「魔素……魔素……んー」


晩御飯の後に母に魔素について聞いたが、要領を得なかった。空気中にある、っていうのは分かった。つまり、この自室にも魔素はあるんだろう。


ベッドに座って魔素を感じようと試みるも、上手くいかなかった。

空気中にあるらしいが、


「そりゃ、酸素と二酸化炭素と窒素があると言われても……それを感じられるかと言われたら無理だよなぁ」


どさっと硬いベッドに倒れ込む。天井を眺めながら思う。

(空気中ってことは、吸ってるよなぁ)

魔素が体に入ってくるならそれを中に取り込んでいてもおかしくない。なら、体の中に意識を向けてみれば何かわかるかもしれない。


目を閉じて体の力を抜く。

人間は力を抜いているつもりでも、意外とどこかに力が入っていることが多い。表情筋なんて特にそう。目を閉じようとしてチカラが入っていたり、口を閉じようと力が入っていたり。

意識して脱力を心掛ける。まずはそのまま意識を指先に向ける。

指に触れる布団の感覚。心臓の鼓動に合わせてじわじわと掌が暖かくなるように感じる。

その後足先を意識する。掌と同じように暖かくなる。



……これ、寝れないときにするやつだ。



目が覚めたら朝だった。



「おはよー」

「おはよう、ご飯できてるわよ」


夜のあれで熟睡できたらしく、すっきり目が覚めて

いた。

ガイに魔素について聞こうとしていたが、既に漁に出ていたらしく、食べたあとの食器が残されていた。


「お母さん、魔素についてなんだけど」

「それより、ご飯を食べてしまって。あとはユーリだけよ」

「はーい」


片付けをする人からしたら、早く食べてもらう方がいいのだ。家事を手伝うようになって初めて知った感覚だった。前世では自分の食器は気が向いてから片付けてたし、シンクが大渋滞することもしばしばだった。


ガイが採ってきた魚と、相変わらず具の少ないスープを食べ、改めて質問した。


「で、魔素なんだけど」


桶に食器を浸けながら母に話を向ける。


「どうやったら魔素を集められるのかなぁ」


「さぁねぇ、母さん魔法は苦手だったからねぇ。ガイが魔法を使えるようになってから教えてもらう方がいいのかしらね」


「そっか、そうするね」


のほほんと答える母。諦める私。

目の前で魔法を使ってもらえれば何か掴めるかもしれない。

昨夜どれだけ自分の体にどれだけ意識を向けても見つけたのは眠気だけだったわけで、だとすると実演してもらう他ないのかもしれないな。


「早く帰ってこないかなぁ」


ガイが無事に帰ってくることを願うことは毎日のことだったが、早く帰ってきて欲しいと思うことは初めてだったかもしれない。


「ユーリは魔法を使いたいの?」


母は食器を洗いながら聞いてきた。


「うん、毎日退屈だからね〜」


退屈は敵なのだ。

ガイが帰ってくるのは昼過ぎだからそれまで魔素のことを考えながら待つことにしよう。




昼過ぎ、ガイはいつもどおり帰ってきた。

いつもどおり塩だらけ。

いつもどおりの脱ぎ散らかし。


「いいかげん脱ぎ散らかすのやめてよ」


いつもどおり小言を言う私。


「で?魔法は覚えてきたの?」


「さすがに昨日の今日で無理だって。できるようになったらすぐ言うから待っててよ」


「…そういうものなのか。じゃあ、どんな魔法を練習してるの?」


「今は氷を作る魔法だな。魚の鮮度を保つために使うんだ。獲ってすぐに氷水に入れるんだよ。その氷を魔法で作れれば、夏でも大丈夫ってわけ。まだ俺は魔素集められないし、氷ができる仕組みから勉強してるよ」


「魔素の集め方は?」


「いや、まだ早いってさ」


そうか。魔素集め方が分かれば、あとは氷のでき方を理解するだけなのか。

氷のでき方なんて、簡単なもんだけどなぁ。もしかしたら魔法を使うために科学の知識が必要なのかな。

だとしたら、魔素さえ集めてられるようになれば、私はどんな魔法でも使えるようになるのでは…?


「ま、もう少し待っててよ」

それからしばらく、ガイの魔法習得までもどかしい日々が続くのだった。







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