第8話 新たな街へ
若草色の髪を弾ませ、トキワは意気揚々と宿の方に手を振る。
「ばいばーい!」
「じゃぁねー! お兄ちゃん!」
そのトキワに手を振り返し、元気に別れを告げるのはトキワにとっての天使、宿屋の看板娘だ。
なんだかんだでこの駄エルフ、その幼女と仲良くなってしまったのだから笑えない。
いや、その幼女ばかりではない。
トキワから視点を周囲に移せば、武器屋のドワーフに魔法の発動媒体を買った店の婆さん、いつぞやの門番やその他町の住人たちが彼に手を振り、あるいは声をかける。
まあ、彼は元から人に好かれる人柄である。既にトキワがこの町に来てからひと月以上経っているのだから、この結果もおかしな話ではないだろう。
さて、その肝心のトキワが今何を思っているかというとだが……。
(何あの可愛いキュートガール! ツインテールがぴょこぴょこしてぴょんぴょんで天使可愛いすぎ!)
まともな言語を使え駄エルフ。
「おうトキワ、気を付けていけよー!」
「はーい!」
「トキワちゃん、元気でね」
「おばあちゃんもね!」
「考えてることあんまり口に出すんじゃねーぞー!」
「わ、わかってるって!」
道を行くほどに、彼は声をかけられる。
彼が
それらに別れを告げ、今日、彼は次の町へと旅立つ。
旅は、出会いと別れ。今も明るく振舞っているが、トキワだって悲しくないというわけではない。心を覗けば、きっと悲しみを堪えているはずだ。
(あぁさっきの看板娘ちゃんほんと可愛かったなぁお持ち帰りしたかったなぁ今から戻ってつr——)
……きっと悲しみを堪えているはずだ。
(でも……)
ほ、ほらな!
(受付のお姉さんとは結局キャッキャウフフできなかった! ガード堅すぎだよお姉さん!)
………………堪えているはずだ……!
◆◇◆
気を取り直して、数日後。
街道の左右から濃い影を落としていた深い森は姿を消し、木々が疎らにあるだけになってきた頃、トキワの目に、とうとう次の街が見えた。
「うわぁ~~‼」
まだまだ遠い位置にいるトキワからもわかるほど高い灰色の街壁に囲われ、門には検問のための長い列ができている。
彼がいる国で、最も外側にある都市、フミヅだ。
トキワは思わず走り出した。
彼の弾む心に引かれて辺りの小精霊たちが踊る。
彼がこうなるのも無理はない。旅人にとって新しい街というのは、それだけで心躍るものだ。
それに、この街には、きっとトキワにとって運命とも言える出会いがある。この私がそう言うのだから、間違いはない。
ただまぁ、――
(大きな街だし、キュートガールもお姉さまも選取り見取りだよね! ひゃっふ~~~~い!!!)
こんな事を思ってテンションを上げている駄エルフとあの子を出会わせて良いのかという懸念はあるのだが……今更だな、うん。
私にできることは、彼らの幸せを願うことくらいだ。
今回はこの辺りにしておこう。次回はきっと、彼の旅を彩る掛け替えのない出会いを語ることになるだろう。
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