第10話 時間が溶けるように

 由宇は時間が溶けるように感じていた。

 隼の他に拓也と玲央も加わって、四人で向き合ってバンドをする。


『君はこの街に来た以上、バンドをするんだ。ルーパーだけがバンドじゃない』


 隼の言葉はどんなリフよりも由宇の胸の中で繰り返し再生された。

 玲央が楽しそうに、歌い出しそうな顔でベースを弾く。あまりに動いてシールドに躓きかけた。


「なにやってんだよ!」


 拓也が玲央を笑うようにパーン! とシンバルを鳴らした。玲央は機材に支障が出なかったか真剣な顔で確認したが、異常なしと分かり、すぐ笑顔に戻った。

 不思議だった。

 玲央は光月より劣っている。父なら間違いなくそう言うだろう。だけど由宇にはどうしてもそう思えなかった。

 彼の笑顔が、楽しそうな動きが、快活な笑い方が、玲央という一人のベーシストになっている。


「さあ! もう一回!」


 拓也の掛け声で練習場のリラックスして緩んでいた空気が引き締まり、演奏前の緊張感が漂う。クラシックコンサートの前にも指揮者が構える一瞬の無音の緊張があるが、バンドにも似たようなものがあるらしい。

 シャープに叩く拓也。弾むような低音を奏でる玲央。では、隼はどんなギタリストなのだろう。

 隼の手を見る。弦を繊細に揺らして鳴らしている。弦を押さえる指は慎重で、丁寧にミュートしており雑音を鳴らさない。

 何より、一緒にやっていると落ち着く。

 きっと隼さんは凄いギタリストなのだと由宇は思った。だからこんなに安心できる。

 音楽と共に生まれなかったのに音楽と共にいたいと思う人達は、本当に音楽を愛している人達だった。

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