第87話侯爵夫人の葬儀⑧

ソフィアの棺から離れたアレックとエミリーは、親族が待つ部屋へと向かっていた。

エミリーは前を歩くアレックの後ろから腕を組み、それに驚いたアレックはエミリーの手を振り払った。

「…何をしている…」

エミリーは自分の手を拒んだアレックに驚いたが、クスッと笑みを見せていた。

「ごめんなさい、いつもの癖なのは知っているでしょう?二人で一緒にいる時は腕を組んでいたから…前にも、お姉様がいた時私の手を振り払っていたのを思い出したわ」

「…なんの事だ?」

「覚えていない?仕事の合間をみて部屋の中で窓の外を眺めて、子供が出来たら一緒にお散歩の話を二人でしていた時、お姉様が部屋に入ってアレックはお姉様に驚いて腕を組んでいた手を振り払っていたわ。

お姉様は驚いた顔をしていたけれど、書類を机の上に置いて何も言わないで部屋を出て、私達は苦笑いをして笑っ……」

「やめろ!」

「え!?」

エミリーは突然声を上げたアレックに驚いていた。

「…妻が見ていた話をするな」

「…そんなに怒らなくてもいいでしょう?それに…いつまでお姉様を妻と呼んでいるの?お姉様とは離婚したのよ」

「…葬儀が終わるまで俺の妻はソフィアだ」

エミリーは自分に妻と呼んでくれないアレックに腹を立てていた。

「…今頃、お姉様に恋しくなったなんて言わないでよ、今までお姉様に見向きもしなかったのに…」

「……」

「私の事を愛していると言ってくれたのに酷いわ…」

グスッと涙目になりアレックを見上げるエミリーにアレックは険しい目をエミリーに向けていた。

「…君は、俺の事を愛しているのか?」

「え…」

「婚約者がいながら、俺を妻と離婚するようにと話を進めた…お腹の子も本当に俺の子なのかと君を疑うようになった」

アレックの笑みを見せない顔にエミリーは戸惑っていた。

「…夫婦なのにアレックとお姉様を見ているのが辛かったの…アレックは私を好きだと言ってくれたわ…だから、お姉様を自由にしてあげたの…」

「自由?」

「好きでもない人と一緒に生活するより、好きな人と幸せになりたいでしょう?だから、私お姉様にアレックと別れて次に再婚する時は好きな人と一緒になって欲しいと思っていたのに…それなのにお姉様は…」

姉の死を悲しむエミリーを見てアレックは何も言えなかった。

「…グスッ…私、アレックと喧嘩したくないの、私が悪いのは分かっているの…婚約者の事を黙っていてごめんなさい…貴方の事が好きだから、別れたくなかったから言えなかったの…」

エミリーはお腹に手を当て笑顔をアレックに見せていた。

「この子は本当に貴方の子供なの…貴方と初めて過ごした日、私は貴方が初めてだと言ったの覚えている?

私は、貴方とこの子と三人で暮らしたいの」

「……」

エミリーは、アレックの顔を確認するとアレックの胸に顔を埋め寄り添っていた。

「お前達何をしている!?」

「お、お父様!」

「挨拶に来ないと思い迎えに来てみれば」

「怒らないでよ」

エミリーの腕を掴み歩く父親はアレックの方へと顔を向けた。

「親族の前でお前達が浮気をした事を話をした。」

「!」

「え…!?どうして…そんな話をしたら皆から白い目で見られるわ」

「……他の者が先に知るより親族が先に知っていた方がいいだろう…いつかはお前達の噂話が広がる前に…」

「嫌よ…浮気なんて言われるの…アレックは離婚したのだから私達は浮気ではないわ」

「まだ、お前はそれを言うのか!」

「怒らないでよ!赤ちゃんが驚いて死んでしまうわ」

「お前は…」

父親とエミリーの口喧嘩を見ていたアレックは、後悔してもソフィアが帰って来る事はないと心の中で何度も口にしていた……






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