第82話侯爵夫人の葬儀③
ソフィアの葬儀は葬儀場の教会で静かに行われた。
棺の中で白い花に囲まれて眠るソフィアは、今にも目を覚まして目の前にいる家族に『おはよう』と声を出しそうだった。
「……ソフィア…お前を嫁がせなければこんな事には…」
「…ソフィア、ソフィア…貴女の好きな花よ…目を覚まして……」
「…お姉様…私…お姉様がいないと…」
ソフィアの家族は、棺の前でそれぞれの思いを声に出し別れを惜しんでいた。
「……」
その様子をアレックは見て、そして妻だったソフィアに顔を向けていた。
医師は、離れで見ていると葬儀に来ていた貴族達の話し声が聞こえた。
突然の侯爵夫人の死に葬儀に参列していた貴族達はヒソヒソと話をしていた。
「まだ、二十歳でこれからという時に夫人に何があったのだ?」
「私も知らないんだ、急な知らせに驚いている」
「夫人は病で亡くなったと聞いたが、最近まで店で働く姿を見かけたが亡くなるとは思わなかった…」
「その店だが、数ヵ月前から侯爵の姿がなく夫人が店にいる姿を見るようになったが侯爵は何をしていたんだ?」
「他国に行く姿を見た事があったが…側には着飾った女性がいたな…夫人かと思ったが髪の色が違っていた」
「何!?女性?」
隣に座る貴族の男が驚き声を上げた。
「声が高い…もしかしたら夫人の代わりに屋敷の使用人か店の者かもしれないだろう?今まで女に見向きもしなかった真面目と言われた侯爵だからな…」
「私は、社交場で開かれた披露宴に侯爵が彼女を連れていたのを見た」
「夫人ではないのか?」
「いや、ああ…ほらっ、棺の側で侯爵と夫人の両親と一緒にいる彼女だよ。確か…夫人の妹だと聞いた。夫人の代わりに披露宴に来ていたが、侯爵の側で笑みを見せていたのを思い出した…なんの為に彼女を連れていたのか…他国の者と会話をするわけでもなくただ笑みを見せているだけで、侯爵が会話に戸惑う姿が珍しく見ていたものだ。」
貴族の男達は話を聞きアレックとエミリーの姿を見て疑う者もいた。
「まさか、その日夫人を店で働かせ…侯爵はその妹を連れて披露宴に…!?」
「先程、他国へ行く時夫人ではなく別の女性を連れていたと言うのは…もしや、彼女ではないのか?」
一人の貴族がエミリーに指先を向けていた。
「…言われてみれば…背格好に横顔…髪の色も似ているような…」
!!
「まさか、侯爵が…浮気では…?」
「いやいや、まさか~っ」
「では、夫人の死は?」
「だが…」
ソフィアの死に疑問を抱く貴族の男達の話を聞いていた医師は、自分に聞かれる前にと男達から離れる事にした。
参列の貴族達にはソフィアの死は病気で亡くなったと知らせていた。
ソフィアには静かに逝って欲しいと医師が願っての行いだった。
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