第80話侯爵夫人の葬儀
ソフィアがパルリス家に嫁いで一年、夫のアレックとの子を身籠る事なくこの世を去る事になった。
「奥様~~っ!奥様~~っ!!」
「わあ~~んっ!」
「うう…ヒック…ううっ…」
メイド達と使用人達が、最後の別れにソフィアの部屋に集まり別れを惜しんでいた。
その頃、アレックは一人食事の部屋にいた。
「……」
一人で食事をするのは、ソフィアが嫁いで来る前の久しぶりの一人での食卓だった。
「……妻と一緒に食事をしたのは…ああ…エミリーが帰って来る前に妻がこの食卓で俺を待っていたんだ…彼女に叱りを受けながら食事をした…この時から決めていたのか?…それとも、もっと前から…」
アレックはいつもソフィアが座る席をじっと見ていた。
「…君はその席で座っているのか?今日は店は休みだ…暫くは店は開けないつもりだ…久しぶりに親族に会う…君と結婚式を挙げて以来だろうか…」
「……」
一人のメイドが食事の部屋を覗いていた…
「どうしました?」
「ひゃっ!」
驚いたメイドは、両手で口を押さえ声をかけた医師にホッと息を吐いた。
「…医師様…」
「驚かせてすみません、食事を頂きたいと思いまして…中にはアレック様が?」
「あ、はい…でも、おかしいんです…」
「おかしい?」
「はい…メイド長から食事の部屋にいます旦那様の様子を見てくるようにと言われ、部屋に入ろうとしたのですが…旦那様が一人でお話をしているみたいで…」
「……分かりました。何も心配する事はないとメイド長に話してください、それから、食事をお願いしてもいいでしょうか?」
「はい、分かりました」
メイドは医師から聞き安心した様子で医師の側を離れた。
「はあ…」
医師は息を吐いて食事の部屋へと入った。
「アレック様、私もご一緒しても宜しいでしょうか?」
「……」
医師が部屋の中に入りピタッとアレックは話すのを止めた。
医師はアレックが座る席から離れ、メイド達が医師に料理を持ち静かな食卓になった。
「お体の痛みはどうですか?」
「…昨日よりは痛みは余り無い…」
「そうですか、教会に行く前に診察をしましょう」
「…ああ…」
「アレック様、昨夜はすみませんでした…本来でしたら貴方が奥様の側にいなくてはならないのですが…」
「……」
「…それから、顔の痣と傷は隠す事は出来ませんが…」
「…構わない…妻の受けた傷に比べたら…」
食事の手を止めたアレックはソフィアの席へ顔を向けていた。
「…なるべくお側にいるようにします…気分が悪くなりましたらすぐに知らせてください」
「…分かった…」
医師とアレックはソフィアの話をする事なく、教会へ行く時間が近づき棺が屋敷から運び出された。
屋敷の外では、使用人達の見送りで列びソフィアとの最後の別れに哀しみ馬車は教会へと向かった。
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