第79話来世の約束

夜になり、いつもは屋敷内はメイド達の片付けで騒がしいが、今は啜り泣く声が屋敷内に聞こえていた。

「……奥様…奥様…」

メイド長は屋敷内を歩き周り、メイド達に料理人、庭師に馬番に使用人達の哀しむ姿を見てメイド長は廊下を歩いていた。

「メイド長…」

「リチャードさん…お疲れ様でした…」

「…旦那様は?」

「…お食事を取らずお部屋の方に…」

「そうですか…今は一人にしておきましょう」

アレックはソフィアの部屋から出たあと誰にも会おうとはしなかった。

執事はソフィアの部屋へと歩くと一人のメイドがソフィアの部屋から出て来た。

「奥様の部屋の中には誰がいるのです?」

「医師様が…でも、食事を取っていないのです」

「医師様が?」

執事は、ソフィアの部屋に入ると医師がベッドの側から離れず椅子に座りソフィアの寝顔をじっと見ていた。

「…医師様…」

「あ!お疲れ様でした…」

「お食事を取られてないと聞きました…」

「ははは…患者の人には食べるようにと言う医師が食べないとは…今だけは…医師としてではなく普通の男として側にいたいのを許して欲しいのです…」

「……医師様、分かりました…お食事は食したい時にお知らせください」

「有り難う御座います…」

「…明日、教会から棺が運ばれて来ます…奥様とお過ごしになる時間は今だけかと思います…明日から数日の間は、旦那様には辛い日々が待っていると思います…」

「そうですね…アレック様の蒔いた種はご自分で刈らなくてはなりません…奥様も思っていると思います…」

執事は医師と会話を終えソフィアの部屋を出た。

「…明日は貴女が眠る棺に入らなければなりません…お一人で寂しいと思いますが、私が逝くまで待っていてくれますか?」

医師はソフィアに声をかけ唇を重ねた…

夜も深まり屋敷内は静かになり医師もいつの間にか眠っていた。

月の明るさが窓から照らす明るさに眩しく、眠っていた医師は目を覚まし手を眉間に押さえていた。

「……今夜は、満月……え!?」

医師は顔を上げ窓を見るとソフィアが窓際に立っているのを見て茫然としていた。

ベッドの上にはソフィアが眠っているのを確認した医師は、もう一人のソフィアが窓から動かずじっと外を見る姿を見た医師は、ベッドの側を離れ窓際に立つソフィアの側へ歩いていた。

(…夢なのか?…奥様が…)

「……お、奥様…?」

「…私の部屋から庭園に続く道が見えるのです…この窓からいつも旦那様とエミリーが一緒に歩く姿を見ていました…見たくないのに見てしまうんです…」

「!!」

医師はソフィアの声だと分かると涙が溢れボタボタと流れ落ちていた。

「ふ…うぅっ…」

スッとソフィアの手が医師の手を触り、ソフィアは笑みを医師に向けていた。

「!…あ、温かい…」

「医師様…貴方にお礼が言いたくて女神様に時間をいただいたの…私の為に旦那様に話してくれて有り難う御座います…私の事を想ってくれて嬉しかった…」

「…お、奥様…」

「名前で呼んでください…アラン様…」

「!!…ソ、ソフィア様…私は貴女を救う事が出来なかった…あの時、貴女の手を離さなければ…」

「アラン様は何も間違ってはいません、だからご自分を責めないでください…」

医師はソフィアを抱き締め涙を流した。

「愛していました…医師としてではなく一人の男として貴女を愛していました…」

「…医師様…アラン様…来世で私を捜してください…そして貴方の妻にしてください…」

「っ…必ず見つけます…私が貴女の側へ…待っていてください…」

医師とソフィアは、来世で会う約束を誓い涙を流し口づけをした…

目を覚ました医師は泣いていた…夢でもソフィアに会えた事が嬉しかった。

「…奥様…」

ソフィアの顔を見た医師は、瞼から涙が流れ落ちるのを見て驚いた…震える手で涙が温かい事を知り医師は最後に自分に会いに来てくれた事に涙を流した。

「……必ず…貴女を見つけます…それまで待っていてください……ソフィア……」










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