第78話真実を知ったとき…(22)

「えっ!?エミリー様に婚約者が!?」

「はい…私も聞いて驚きました…」

医師はメイド長にエミリーに婚約者がいる事を話をした。

「…だから奥様は旦那様に手紙を渡すようにと言われたのですね…手紙にはエミリー様の事が書かれていると…」

「…この事をアレック様に早く知らせていれば奥様も…」

医師は、話の途中両手を握り締めソフィアが死ななくても良かったのではと思い悔やんでいた。

「…奥様の決心は変わらなかったと思います…」

「……」

医師とメイド長はソフィアの部屋かれ離れて話していた時、一人のメイドが側に駆け寄っていた。

「あ、あの、メイド長…奥様の部屋から物音が…旦那様がいると聞いたのですが、部屋に入っていいのか分からなくて…」

「物音?!」

医師はアレックの今の状態を思い出しソフィアの部屋へと急いだ。

「アレック様、私です!」

医師は部屋に入ると床に倒れ震えているアレックに驚き駆け寄った。

「アレック様!?大丈夫ですか?」

「うぅ…妻は…亡くなってからも…私の事を…それなのに…私は…」

「…アレック様…貴方が奥様にしてきた事は許されない事ですが…最後まで奥様は貴方の事を慕い続けていました…その事を忘れずに…」

「……医師…すまないが、私を妻の所へ…」

アレックは医師に体を支えてもらいベッドの側へと歩いた。

「……ソフィア…」

アレックは震えた手で冷たくなった妻の頬を触った。

「…あの時が、最後の君との会話だったとは思いもしなかった…君との約束どおりカーテンも絨毯も以前のように戻す事を約束するよ…使用人達も辞めさせないと約束するよ…エミリーは…婚約者と話をしてそれから決める…全てが決まった時は君に報告するよ…」

たんたんと話を終えたアレックは医師に話をした。

「……妻に…最後に触れてくれてありがとう…私には妻に触れる資格はない……妻は…医師が初めて触れた相手なんだ…」

「え?」

アレックはソフィアの頬を触った手を離し、ベッドの上で両手を握り締め医師に打ち明けた。

「あの…アレック様、どういう事でしょうか?私が奥様に触れたのが初めてとは…」

「…結婚してから私と妻との生活にすれ違いが続き、今日まで妻に触れた事は無かった…私は、妻に白いまま旅立たせてしまった…」

「…白いまま…」

医師は、まさかと思い目を見開いて俯くアレックを見ていた。

「……まさか…貴方は、奥様と結婚してから一度も…」

「……」

ガシッと医師はアレックの腕を掴んだが殴りたくても医師は我慢していた…ソフィアの側でアレックを殴る事が出来なかった。

「…貴方と長年側にいて、貴方を憎いと思う日が来るとは思いませんでした…貴方は奥様の女性としての幸せを奪ってしまった」

「……」

「私が奥様の初めてを喜ぶとでも思ったのですか?」

「……っ」

アレックは医師に言われ何も言えずにいた。

「…今夜、奥様の側には貴方はいない方がいいでしょう」

「え!?しかし、パルリス家で亡くなった者は愛する者が側にいなくては…」

「貴方がその言葉を出すとは…奥様…いえ、ソフィア様とアレック様は離婚をしたのですから、ソフィア様の側には私がいます。貴方は、明日の為に体を休めてください」

「っ…」

医師はアレックの腕を離しメイド長を部屋の中に呼んだ。

「アレック様を部屋に連れて行ってください、二人使用人の男性を呼んで部屋までお願いします」

「分かりました…」

「…部屋まで私一人で大丈夫だ…」

「え…」

メイド長はアレックが誰も呼ぶなと言われアレックはソフィアの顔を見た後、ふらふらとしながら部屋を出た。

「…メイド長、アレック様をお願いします…」

「は、はい」

医師はメイド長にアレックを頼み後を追うようにメイド長は部屋を出た。

医師はベッドの上で眠るソフィアの重ねた手を触り涙を流した。

「……奥様…」

医師はソフィアに何も言えず、冷たくなった手を重ねソフィアの寝顔を見ているだけだった。






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