第77話真実を知ったとき…(21)

「……」

アレックはソフィアの手紙をまだ読んでいなかった。

「…俺はこれからどうすればいいんだ…っ…情けない…妻の妹と浮気をして子供にも恵まれたが…その子供が俺の子なのかも分からない…エミリーの事だ婚約者とも寝ているだろう…」

肩を落とし時々痛む体を支え下を向いた時足元に紙が落ちていた。

「……ソフィア…」

拾い上げた紙は妻だったソフィアとの離婚が成立した紙だった。

「…俺は…君に何もしてあげる事が出来なかった…君が遠い所へ行き二度と会わないと言った時、俺は君を捜し出す自信があった…エミリーの事だ必ず君を捜すようにと言ってくると思い君を連れ戻す自信はあった…だが…」

クシャッと紙を握り締め手は震えていた。

「…君を喪って何もかも分かってしまった…側にいて欲しいのはエミリーではなく…君が側にいて欲しいと…今頃気づいたんだ…『酷い旦那様ですね』…と、言われても構わない…君の声が聞きたい…」

アレックは手に持っていた離婚の紙を離し、ソファーから立ち上がるとズキッと足の痛みでそのまま床に倒れ込んだ。

ガタッ!ドサッ!

「つ!」

床の上に倒れたアレックは、震えながら顔を上げベッドの上に眠るソフィアの側へ行こうとしたが、意識が朦朧となりそのまま床の上で気を失った。

「…」

「……さま…」

「旦那様…起きてください、そのままでは風邪を引きます」

「……ぁ…」

アレックはいつもの自分の部屋の中にいた。机の上でうたた寝をしていたアレックは目が覚めると目の前には、両手に書類を持ちいつもの仕事で着る服を着て自分の側にソフィアが立っていた。

「旦那様、魘されていましたが大丈夫ですか?」

いつもの聞き慣れた声に安堵したアレックは、今までの出来事は夢だったのか…と息を吐いていた。

「…君か…酷い夢を見ていた…」

「夢ですか?」

「ああ…君が…」

「私がどうしたのですか?」

じっといつも見る視線にアレックは不思議と嫌だとは思わなかった。

「いや…なんでもない、休憩はまだだろう?俺と一緒に散歩でもしないか?」

「え!?私とですか?」

「ああ」

アレックはソフィアの手を掴み散歩へ誘っていた。

「…旦那様、誘います相手が違います…」

「えっ」

「貴方は、いつもエミリーを誘っていました」

「そ…それは…」

「私はいっも待っていました…貴方がエミリーの所ではなく、私の所へ来る日をずっと待っていました…でも、貴方は私が死んだ後でもエミリーに愛を囁き結婚の約束を私の目の前で誓っていた…」

「え!?…死ん…」

アレックは驚き、ソフィアの手を離そうとしたが離れずアレックの顔は真っ青になり戸惑っていた。

「わ…悪かった…俺が、悪かった…エミリーの事も知って後悔した…君を失なって自分が愚かだったと後悔した…俺はこの先どう生きれば…」

「…私達は初めから結婚するべきではありませんでした…」

「!!」

アレックは心の中でソフィアに聞かれた事を知り涙を流した。

「…ま…ち、違うんだ…あれは…」

「それでも私は、貴方の側を離れる事が出来なかった…」

「ソ…」

ヌルッと掴んでいたソフィアの手から赤い血が流れ落ちアレックは驚いた。

「うわあああああ~~~っ!!」

ビクッと体が動きアレックは目を覚ました。

「…う…ううっ…」

床に体を俯せになり涙を流すアレックは、夢の中で妻と一緒に仕事をする夢がソフィアが見せた最後の姿だった…そして二度とアレックの夢の中にはソフィアの姿を見せる事はなかった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る