第75話真実を知ったとき…⑲

「…アレック…今、私に邪魔って言ったの?」

「……」

エミリーは涙目になりアレックに声をかけた。

「側にいたいのにどうして邪魔だと言うの?」

「…今から治療をするんだ…君が隣にいると治療が出来ない…」

傷の手当てをすると聞いたエミリーはホッとした顔で笑みを見せ「ごめんなさい気がつかなくて、手当てが終わったら呼んでね」とアレックに話し姉の側にいる両親の元へ歩いて行った。

「……」

アレックはエミリーの顔を見る事も出来なかった。

「……顔の傷と痣が多いので治るのに時間がかかります…」

「…頼む…」

治療を始めた医師にアレックはじっと医師の顔を見ていた。

「…どうしました?」

「……医師は…妻の事をどう思っていたんだ?」

ピクッと医師の手が止まり顔が痣と傷だらけのアレックに顔を向けた。

「…何故私に奥様の話を?」

「…医師が妻に触れる姿を見た…」

医師はソフィアに口づけをした所を見たとアレックから聞いたが、戸惑う姿を見せず治療を続け話をした。

「……エミリー様と会話に夢中で奥様の方は見ていないと思っていました…アレック様が言いましたとおり私は奥様をお慕いしていました…私の気持ちを伝える前に奥様は遠くへ行ってしまいましたが…」

「……」

医師が妻のソフィアを好きだと知ったアレックは複雑な気持ちだった。

「…いつから…」

「奥様が体調不良が続きました時から…いえ、初めて奥様とお会いした時から私は奥様を慕っていたと思います…私は叶わぬ恋をしていましたから…」

「叶わぬ恋?」

医師はアレックの治療を続け会話を続けた。

「奥様は…アレック様を慕っていましたから…」

「!…妻は医師に私の事を?」

「…奥様からは聞いてはいません、夫婦ですからお互い愛していると思っていましたから…私は奥様の主治医になった事でも嬉しかった…彼女が幸せになってくれたらと…だが、貴方は奥様を捨て妹のエミリー様の元へ行ってしまった…」

「っ…」

「…何故、離婚の話をエミリー様が身籠る前に奥様に言わなかったのですか?」

「え…」

「エミリー様を妻にと考えていましたら、もっと早く奥様に話が出来たはずです…何故子供ができたからと…だから離婚して欲しいと突然言われましたら奥様は……」

「いっ!?医師…痛っ!…え…!?」

ギリッと腕に包帯を巻き握り締める医師の目には、一雫の涙がポタッとアレックの腕に流れ落ちていた。

「…医師…」

「……奥様は最後まで貴方を想い亡くなった…それなのに貴方は葬儀が終わりエミリー様と式を挙げると…奥様が眠るこの部屋で話をするとは…」

「!ま…痛っ…た、確かに私は…妻のこの部屋でエミリーと話していたが…今は…分からなくなった…エミリーに婚約者がいると聞いて…俺はエミリーから裏切られたんだ…」

「…それは奥様も同じです…貴方と妹から裏切られたのですから…」

「!!……っ…」

「…これからが忙しくなります…奥様の葬儀に親族の方々との話し合い…そして、エミリー様の婚約者の方とも話し合いがあるのです…その先はエミリー様とお子様との話し合いが待っています」

「…っ…く…」

アレックは医師の話を聞き頭をかかえていた…

その離れで娘のソフィアの死に悲しむ両親の側にはエミリーと執事が側にいた。

「…お姉様、本当に死んでしまったの?」

母親の後ろから覗き込むようにベッドの上で眠るソフィアをエミリーは声に出していた。

「…エミリー…お前は姉に申し訳なかったと思わないのか!?」

父親は険しい顔をエミリーに見せ、まだ怒りがおさまってはいなかった。

「ど、どうして私ばかりを責めるの?アレックがお姉様でなく私を受け入れてくれたのよ!結婚してからアレックはお姉様と供に過ごしていないと聞いたから私がお姉様の代わりになったのに…孫も出来てお父様とお母様が喜ぶと思っていたのに…」

「……今何を言った…」

「え…」

「結婚してから…ソフィアと過ごした事がないと言ったのか?」

「あ…!」

エミリーは母親の背に隠れるように震えていた。

「どうなんだ!」

「し、知らない、知らない、私はアレックから聞いただけだもの…」

「…アレック…あいつは…あの男はどこまで娘を…」

父親の怒りは、ソファーに座り医師の治療を受けているアレックの姿を見ていた…父親が今にも駆け出しそうになる姿を執事が声を出した。

「どうか怒りを静めてください…ソフィア様もご一緒なのです…お話しはソフィア様の葬儀が終わりました時にお話しください…」

「あ…申し訳ない…私とした事が…」

「…お気持ちは分かります…ですが、今はソフィア様のお側にいてください…」

執事は両親に頭を下げエミリーに声をかけた。

「…エミリー様、お静かに願います…」

「え?」

「エミリー様が、声を上げましたらソフィア様がおやすみになれませんので…」

「ええっ!?」

エミリーは真っ赤になって執事を睨むように見ていた。







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