第70話真実を知ったとき…⑭
「どうしたの?アレック」
「え!?あ…いや…」
(な…なんだ今のは?医師が妻に…いや、見間違いだ…その様に見えただけで確認をしていただけだ…)
アレックは、医師がソフィアに口づけをしたように見えたのが気になり気分が良くなかった…
「アレック、その封筒はお姉様との離婚届け!?」
「ああ…執事から離婚が成立した書類が入っている」
アレックは、封筒から紙を取り出し離婚が成立した知らせをエミリーに見せていた。
「お姉様の姓がルモアに戻っている…これでアレックと結婚出来るのね」
「……そうだな…」
「何?浮かない顔をしてるけど」
「あ…いや…つ、ソフィアが亡くなったばかりだから…」
アレックはソフィアが眠るベッドへと顔を向けた。
「私もお姉様に会えないのは凄く寂しいわ…でも、悲しんでいたらこの子に悪いわ」
エミリーはアレックの手を取り自分のお腹を触らせていた。
「…ああ、そうだな…悲しんでいたらこの子に悪いな…」
「ふふ…」
アレックは、妻に悪いと思いながらも今はエミリーとお腹の子と一緒に暮らす事を考える事にした。
コンコン!
「…旦那様、奥様のご両親がお見えになりました」
「…そうか、分かった」
「え!?お父様とお母様が!?」
エミリーは真っ青な顔になり震え始めた。
「どうしたんだ?顔が真っ青だが…」
「…へ、部屋の中に入れないで!」
「え?だが…」
エミリーは、アレックの腕を握りしめ両親を部屋に入れないように頼んだ。
「ど、どうして私に何も言わずにお父様に知らせるの!?」
「何をそんなに拒んで…子供の事は俺もお義父さん達に謝る…だから、君は心配しなくていい…」
「……アレック、私を愛している?」
「え…」
「何があっても私とお腹の子を見捨てないでくれる?」
目に涙を溜めているエミリーを見てアレックはエミリーを抱き締めた。
「ああ、愛しているよ…葬儀が終わったら俺達の結婚式を挙げよう…」
「本当?約束よ!」
「ああ…約束する…」
アレックは目を閉じ妻だったソフィアに謝った。
(…すまない…お腹の子の為なんだ…初めから俺達は結婚するべきではなかった…)
カチャ!
執事は扉を開け両親を部屋の中に通していた。
「エミリー!」
母親はエミリーの姿を見て駆け寄り涙を流してエミリーを抱き締めた。
「エミリー…会いたかったわ…」
「…お、お母様…うう…わああぁ~~っ…」
エミリーは母親の胸の中で泣き叫び、アレックはソファーから離れ親子で泣く姿を見ていた。
「…侯爵…」
「あ…お義父さん…」
父親はアレックの側に行き手を握り締めていた。
「娘が世話になって申し訳なかった、我が儘な娘で迷惑だっただろう…」
「…いえ…エミリーさんが来て屋敷が明るくなって毎日が楽しく過ごしていました…」
「そう言ってくれると有り難い……ソフィアだが…亡くなったと聞いたんだが…まだ信じられないでいる…この目で確か……」
父親はアレックと話の途中ベッドの側で医師が頭を下げているのに気づき、ベッドの上には仰向けで眠っている娘のソフィアに気がついた。
「……ソフィア?…」
「あ…」
父親は、アレックの手を離しふらふらと歩くとベッドの上で眠るソフィアに一年ぶりに再会した。
「……ソ…」
父親は冷たくなった娘の頬を触り震えていた…
「な…何故、こんな事に…手紙には『帰ってもいいですか?』の短い手紙だったが…私は妹のエミリーを実家に帰ると思っていた……なにがあったのだ…」
娘の重ねた手の上に父親は手を置き、震えながら涙を流していた…
「…お悔やみを申し上げます…ソフィア様を助ける事ができず…申し訳御座いません…」
医師は父親の前で頭を下げ、ソフィアを助ける事も最後を見届ける事も出来なかった事を謝っていた…
「…貴方は…」
「私は医師のアランと申します…奥様の主治医を任されていました…」
「主治医…では、娘は重い病に!?」
「……自害を…」
「な?…じ、自害…?な、何故娘が自ら……」
父親はソフィアの重ねた左の手首の包帯に気がつくと真っ青な顔になり体が傾いた。
「だ、大丈夫ですか!?」
医師は駆け寄り父親の体を支えていた。
「あ…だ、大丈夫です…娘は…何かご存じでは…」
「……お話は、アレック様にお聞きください…」
「…アレック…」
父親は医師とソフィアの側を離れ、険しい顔でアレックに近づき胸ぐらを掴み上げた。
「…侯爵…娘に…何をした…」
「え…お、お義父さ……」
「娘に何をしたと聞いているーっつ!!」
「ぁ……」
父親の怒りがビリビリと伝わったアレックは、ガタガタと震え、父親がこんなに怒るとは思ってもいなかった…
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