第64話真実を知ったとき…⑧

「……旦那様、役所から離婚が成立致しました書類をお持ちいたしました…後程ご確認をお願い致します…」

「……」

アレックはいつもなら「ご苦労」と声に出すが、今のアレックにはその言葉だけでも胸が苦しく、今は執事の顔を見る事もできず下を向くだけだった。

「……」

執事は腰を下ろしアレックと同じ目線で封筒を床の上に置いた。

「…何故…最後まで奥様に向き合おうとせずに奥様の声を聞かなかったのですか?」

「……」

「奥様は何度も貴方に声をかけ振り向いてくれるのを待っておりました…お食事の時もお仕事の時も奥様は貴方を待ち続けておりました…それなのに貴方は…」

執事の目から涙が流れ落ち、アレックを待つソフィアの姿を思い出していた…

「…奥様は貴方の元になんの為に嫁がれて来たのですか?仕事の後始末ですか?貴方とエミリー様の毎日過ごされます日々を奥様に見せる為ですか?」

「……っ」

アレックは、使用人でもある執事から言われても言い返す事も出来ない自分に、今まで妻にして来た事に後悔していた…

「…旦那様…エミリー様が妊娠をいたしましたと聞きまして、旦那様はどう思いましたか?」

「え…それは…」

「お二人とも喜んでいました。私は、奥様の妹だから喜んでいると思いましたが…まさか、ご自分のお子様で喜んでいるとは知りませんでした…」

「っ…」

医師は息を吐き、まさかエミリーが身籠っているのがアレックの子だとは知らずにいた。

「…旦那様のお子様と分かりましたら父親として喜ぶのは当然だと思います…奥様は?」

「え!?」

「旦那様から、妹でありますエミリー様が奥様の夫であります旦那様の子を身籠ったと聞き奥様はどんなお気持ちだったと思いますか?旦那様から離婚を言い渡されました奥様をお考えになりましたか?」

「……妻には…離婚の話をした後、二人で話をしたんだ…私は…妻には離婚をしても屋敷に残って欲しいと頼んだ…エミリーも離婚をした後でも妻に屋敷に残って欲しいと言っていた…」

執事と医師そしてメイド達は、アレックとエミリーが離婚をした後でもソフィアを屋敷に残って欲しいと話をする事に疑問に思った。

「…普通でしたら、離婚をしました夫婦は別々に暮らしますが…何故奥様を引き止めるのですか?」

医師は首を傾げアレックに問いかけた。

「…私は、この半年間仕事を妻に任せてばかりいた…取り引き先でも妻の名前を出す者も多く店は妻無しでは無理だと…一人で仕事をして思い知ったんだ。

エミリーにも仕事を覚えて欲しいと頼んだが子供がいるからと断られ人を雇うように言われた…私は妻に一緒に仕事をして欲しいと頼んだが…酷い人と妻に言われ断られてしまった…エミリーは子供が生まれたら妻に子育てを頼むつもりだったが…妻は…」

アレックの話を聞いていた執事と医師は険しい顔でアレックを見て、メイド達は驚くばかりだった。

「アレック様とエミリー様…お二人は奥様の事を何もお考えになっていない事が分かりました…奥様が言われますように酷い方達だ…」

「な!?」

「旦那様はお仕事が大変だと申されますが、奥様は旦那様の事をお考えになり辛くても言えない事は旦那様が一番にお分かりだと思っておりました…エミリー様を妻にと思いでしたら、突き放してでもお仕事を覚えになるのが当然かと思います…奥様にしてきましたように……」

「……」

アレックは何故、医師と執事から自分とエミリーの事で言われなくてはならないのかと手を握りしめ、言い返せない自分に悔やんでいた。

メイド達は執事達の話を聞き不安な顔をしていた。

「…エミリー様が…奥様に?なる…?!」

「私、嫌よ!あの人の下で働くのは…辞めて行った皆のようにありもしない嘘を言われるなんて…」

「どうしょう…」

「ねぇ、この事を皆に話した方が…」

不安と怒りの声が、ソフィアの部屋で話し合いが続いていると、廊下から声が聞こえノックも無しでエミリーが勢いよく扉を開け声を上げた。

バン!

「アレック、お姉様は!?」

呼び捨てでアレックを呼ぶエミリーに執事と医師とメイド達は驚き、アレックは周りが見るエミリーに対しての視線に不安を感じ、いつもエミリーに注意をしていたソフィアに貶すような言葉で傷つけ、その後エミリーに注意する事を止めてしまったソフィアに、今になって申し訳なかったと悔やむアレックだった。



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