第56話振り向いてくれるのを願い(53)【遅すぎた夫婦(26)】

目を閉じたまま動かないソフィアをメイドが見て真っ青になった。

「メイド長、奥様が…奥様が…」

涙を流したメイドを見てメイド長は慌てて部屋を出た。

「旦那様!医師さまーっ!奥様が、奥様が…」

廊下で叫ぶメイド長にエミリーの部屋からアレックと医師が走りソフィアの部屋に入った。

部屋に入った医師とアレックは、目を閉じて息をしていないソフィアを見て言葉を失った。

医師はソフィアの側に行き診察を始めた…

「……つ…妻は……」

「……」

医師は首を横に振りソフィアが亡くなった事を告げた

「!お…奥様ーーーっ!!」

「わああぁぁ~~~奥様~~~っ!」

メイド長とメイド達は泣き崩れソフィアの死に悲しんでいた…

「……そ…そんな…ソフィア…何故……」

ふらふらと歩くアレックは、ベッドの上で死んでいるとは思わないソフィアの頬を震える手で触っていた。

「…温かい…本当に死んでしまったとは信じられない…」

ポタポタとアレックの目から涙が流れ落ち、初めてアレックはソフィアに涙を流した。

「…ソフィア…すまない…君を残しエミリーを…夫の俺が側にいなくてはならないのに…俺は…最後まで酷い夫だった……」

アレックはソフィアの頬を触り気がついた…さっきまで涙を流していた雫が指に流れ…それを見た時ギュッと手を握りしめ、ソフィアが自分を待っていたのだとアレックは涙を流し続けた…

「…アレック様…」

「…医師を連れて行かずにエミリーをソファーに寝かせていたら…妻は死なずにすんだかもしれないんだ…」

「…奥様は知っていたのかもしれません…助からない事を…」

「!…っ…それでも…」

アレックはソフィアの眠る側で顔を俯いていた。

「…アレック様、奥様を綺麗にいたしましょう…汚れたままでは旅立ちが出来ません…」

「……」

アレックは医師から言われソファーに座り、医師がメイド達に指示を出す姿をじっと見ていた。

「皆さん…辛いのは分かりますが奥様の体を綺麗にしてあげてください…」

「はい…」

「それから、奥様のお気に入りの服がありましたらその服を着せてあげてください」

ザワッ…とメイド達が戸惑うようにメイド長に相談していた。

(何故、服の事でメイド達は悩む姿を?…服が多い為悩んでいるのだろうか?)

「メイド長…奥様の服はどうしたら…」

「棚の中を見て…」

「はい…」

メイド達は棚から服を十着あるかないかくらいの服を取り出していた。

「…奥様の服はこれだけですか?」

「…はい、ご実家からお持ちの服が多いかと…」

「?」

医師は驚いた顔を見せ並べられた服を見ていた。

服の中には縫い合わせた部分の服が多く、医師は近くにいたメイド長に聞いていた。

「メイド長…あの、服を縫い合わせたのは?」

「奥様がご自分で縫われていました…」

「は?あ…失礼しました…物を大事にします方だと思いますが…出掛けます時は他に服があるのでは?」

「…いえ、奥様の服はこちらに並べましたのが全部になります…」

「は?あ…度々失礼しました…驚いてしまって…女性なら沢山服をお持ちだと思ったので…特に奥様は侯爵夫人ですから社交場に披露宴、お茶会など行かれます事が多いかと思ったので…」

しーん、とメイド長とメイド達は医師に応える事が出来ずにいた。

「え…あの…何かおかしな事でも言いましたでしょうか…」

「……奥様は…仕事以外に屋敷から出た事は御座いません……」

「は?!」

医師はメイド長から聞き、驚いて言葉にならない返事を繰り返していた。


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