第52話振り向いてくれるのを願い(49)【遅すぎた夫婦(22)】

ソフィアは扉の前で目を閉じ妻だった自分に別れを告げた…

「……終わったのね……少しだけ二人に言いたい事を言えたかしら…二人が一緒に座りふざけて喧嘩をして羨ましかった…いつも見ていた光景なのにね…」

ソフィアは扉の前から離れ廊下を歩いていた。

「ま…待ってくれ!」

アレックが廊下を走りソフィアの側へ駆け寄った。

「!?だん…アレック様?」

「…お、俺と二人の時はいつも呼んでくれている名で言って欲しい…」

「…では、旦那様…」

「!」

アレックはソフィアから旦那様と言われホッとした顔で笑みを見せていた。

「……エミリーが部屋の中で待っていますよ…」

「ああ、今は一人がいいだろうと部屋を出て来たんだ…」

「そうですか…私に何か?」

「あ…や、屋敷を出るのを待って欲しいんだ…」

「…何故ですか?私がいたら気まずいのではありませんか?」

「いや…仕事の話もあるから…もし、君さえよかったらまた一緒に仕事をしたいと思って…」

「…『君と一緒だと息がつまる』『エミリーのように笑みを見せる事ができないのか』一緒に仕事をする旦那様は、いつも私に話していた言葉です」

「!!っ…あ…あれは…」

「旦那様は私が嫌いではありませんか?」

「!」

「ですから、妻の私が見ていても気にならなかったでしょう?」

「わ、悪かった…君の事は嫌いではないんだ…ただ、夫婦としてどう向き合えばいいのか…戸惑っていたんだ…今では君がいなくては…」

「…エミリーに仕事の話をしたのですか?」

「あ…ああ…だが仕事は出来ないと言われたんだ…子供を理由に断って、自分の変わりに人を雇うように言われた…」

「それで、私を…最後まで酷い人ですね…旦那様は…」

「え!?」

「また私を苦しめるのですか?夫婦となった貴方とエミリー…そして子供の姿を私に見せるのですか?」

「ち、違う…」

「何が違うのですか?離婚をしても私に屋敷にいて欲しいのはエミリーの代わりに仕事をする事でしょう?違いますか?旦那様はエミリーに甘いのです…いつもエミリーの機嫌を取るように…私はそんな旦那様が嫌いでした」

「!っ…」

「以前の旦那様は仕事が忙しくても屋敷内の事を気にして使用人達を気遣う所を見て来ました…私との会話は少なくても一緒に仕事をする旦那が私は好きでした…」

「……」

ソフィアは、今まで言えなかった事がアレックにもっと早く言っていたらと自分の弱さに後悔していた。

「…旦那様、庭師に聞きましたがエミリーの温室を造るそうですね!?」

「温室?いや、俺は庭師には頼んでいない…温室の話は無かった事になったが…何故温室の話が?」

「…エミリーが庭師に子供の為に温室を造るようにと話したようですが…」

「な!?エミリーが!?」

アレックはまた勝手に話を進めるエミリーに悩み不安な顔を見せていた。

「…知らなかったようですね…」

「はあ…まさかそんな話をまたするとは…」

「…あの子にははっきり言わないと駄目です…これから先のパルリス家を護るのでしたら…」

「…今のエミリーは何かあると子供を出して言うようになった…そうなると俺は何も言えなくなる…」

「その時は、私の父にエミリーの事を話してください」

「お義父さんに!?…しかし、俺は…」

「…今日か明日には旦那様と離婚をした事が分かるのです…父は屋敷へ来ると思いますから…父を頼るといいでしょう…」

ソフィアはアレックに話終えると笑みを見せていた。

「…俺は最後まで君に頼ってばかりだった…久しぶりに君の笑みを見て俺の帰りを待つ君を思い出した…」

「え…」

「…結婚したばかりの俺は父の跡を継ぎ忙しい毎日が続いていた…君が出迎えて笑顔を見せた時、俺は君に嫉妬していた…『疲れて帰って来た夫を見て何を笑っているんだ』と…酷い事を考えるようになった…それから俺は君を避け続けて来た…すまなかった…自分勝手に思い込み君を傷つけてしまった…」

「…だから、エミリーの元へ行ったのですか?」

「あ…」

「本当…酷い旦那様ですね…私が何もしないで屋敷の中にいたと思いですか?貴方と一緒に仕事をして他国からのお客様が多い事に気づき、知らない国の言葉で話すお客様に何度戸惑ったか…それから私は勉強を始めました…少しでも貴方の役にたてたらと…」

「す、すまない君が俺の事を考えてくれていたなんて…俺は…今では俺は君がいないと…」

「…エミリーを妻に迎えるのでしたら仕事を覚えるように話し合ってください…今のパルリス家は人を雇う余裕は無いと思いますから…それから、私の花は屋敷に植えなくてもいいです」

「え、花!?…あっ、今日庭師に頼んだ…どうして君の花を植えなくていいと…」

「…屋敷から出て行く私の花を植えましてもエミリーの花で邪魔なだけですから…花は両親が来ました時に渡してください…」

「…し、しかし…君のために…」

「最後に妻として言います…使用人達を大切にしてください!何かある度に辞めさせるような事はしないでください…彼等はパルリス家にいなくてはならない人達ですから…」

「…わ、わかった…」

「…私は…貴方の元へ嫁いで良かったと思います…パルリス家の使用人達は皆いい人達ばかりで楽しかった…旦那様が留守の時は皆と一緒にパイ料理を作りました…旦那様は嫌いだったでしょうけど…」

「あ…あの時は…」

アレックは初めて食べたパイ料理は好きだったがエミリーに合わせてしまい、ソフィアに傷つけてしまった事を後悔していた。

「私は、旦那様と一緒に仕事をしていた時が幸せでした…私にいつまでも残って欲しいと言われます旦那様に私は応える事はできません…これ以上私を苦しめないでください…私の事を少しでも想うのでしたら…」

「……」

「私は…遠い所へ行きます…二人の行く末を見る事が出来ない事が心残りですが…これから先エミリーと話し合う日々が続くと思います。大変だと思いますが決めますのは旦那様ですから…」

「?意味が分からないが…決めると言うのはどういう…」

「…これ以上私の口からは話せません…お話が長くなりました…こんなに長く旦那様とお話をしたのは初めてですね…」

「…君ともっと早く話せていたら…ぁ…!!」

ソフィアはアレックの前で涙を流し頭を下げた。

「……さようなら…旦那様……貴方が振り向いてくれるのを…ずっと待っていました……」

「!!あ…ソ……」

ソフィアは走るように廊下を去り、アレックはソフィアの後姿を見ているだけだった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る