第30話振り向いてくれるのを願い(27)

アレックは一人食事の部屋にいた。

執事から言われ戸惑っていた…

「……俺は…妻に酷い事を…俺がいない間屋敷を支え体調が悪いのに仕事を…それなのに俺は…」

アレックは、仕入れ先に行く前までエミリーと過ごし妻のソフィアはどんな思いでいたのか…この時アレックは、ソフィアが嫁いでから一緒に過ごした事が無かった事に気がついた。

「…俺は、今頃になって…一年もの間妻に何も…」

アレックは、食卓の席を離れ部屋を出ると階段を上がり妻のソフィアの部屋の前に立っていた。

「……」

扉の前に手を向けては下ろし、アレックはソフィアと会う事を躊躇っていた。

(会って何を話せばいいんだ?体調が悪いのに仕事をした事を話すのか?出迎えに来てくれたのにいないと勘違いをした事を謝るのか?一年もの間一緒に過ごせなかった事を話すのか?…エミリーと関係を持ち後戻りが出来なくなったと謝罪をするのか?)

「……」

アレックは手を握りしめ苦痛な表情で声に出した。

「……すまない…俺は…すまない…すまない……」

ソフィアの部屋の前で何度も謝るアレックにベッドの上で座っているソフィアは涙を流していた…

アレックが自分に何を伝えたかったのか…ソフィアは分かってしまった。

アレックがソフィアの部屋から離れ暫くたった時、メイドが手紙を持ってきた。

「…お父様の字だわ…」

その手紙は実家からだった。ソフィアが涙を流して書いた時に実家に出した手紙の返事だった。

『帰ってもいいですか?』

ソフィアにはこの言葉だけが今でも残っていた。

父の手紙を読んでいたソフィアは驚いていたが、クスッと笑みを見せていた。

「…私にはもう…お父様、お母様、大変だけど…その時が来たら私の分まで…」

ソフィアは父の手紙を両手で握りしめ顔を隠し震えていた。

夕食の時、食事の部屋に来たアレックは食卓を見て驚いていた。

ソフィアが食卓の席に座っていた。

「お久しぶりです。旦那様…」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る