第29話振り向いてくれるのを願い(26)

アレックは部屋に入り机の上に束ねて重なった書類が無い事に気がついた。

「…確かに机の上に置いていたが…執事が代わりにしたのか?帰ってから仕事はしたくなかったんだ」

アレックは機嫌良く庭園に散歩をしていた。

「…一人で歩くのは慣れないな…エミリーが一緒だと退屈しないが…明日には帰ってくるだろう、それまでの辛抱だな…」

アレックはフッと振り向き顔を上げると妻のソフィアの部屋の窓を見た。

「夫の俺が帰って来たのに出迎えもなかったな…仕事も休み良い身分だ…何故俺は彼女を妻に選んだんだ?最初は父が亡くなり侯爵家を継ぐ事で色々と忙しかった。だから、俺は一緒に仕事が出来る妻になる女を捜して彼女を選んだが…毎日の様に顔色を伺ってそれが嫌になり彼女を突き放して来た。仕事は助かっているが…今は体調が悪いと理由を付けて休んでいる…エミリーの様に少しでも可愛い所があればと思っていたが…初めからエミリーを妻に迎えていたらと今になって後悔するとは…はあ~っ…」

首を横に振りため息を吐いたアレックは一人散歩道を歩いていた。

昼食の時間ソフィアは食卓に顔を出さなかった。

「…妻はどうした?」

「…ご自分のお部屋でお休みを…」

「はあ~っ、夫が帰って来て見送りも無しとは妻とは良い身分だな!俺がいない間仕事も休んで寝てばかりいただろう!!」

アレックはイライラとして食事を取っていた。

その様子をメイド達は見てヒソヒソと話していた。

「…旦那様、お言葉を返すようですが…奥様は先程までお仕事をしておりました」

「は!?」

アレックは驚いた顔で執事を見て食事の手を止めた。

「ま、待て、なら机の書類は執事のお前がしたのではないのか?」

「わたくしでは御座いません…旦那様のお仕事も奥様がお留守の時にお仕事をしていたのです。」

「な…!?し、しかし、妻は今体調不良だと聞いたが…」

「…奥様は、医師様からお体を休まれるようにと申されていましたが、お仕事が気になるようで…少しでも旦那様の負担を減らしますようにと申されて…」

「……」

アレックは茫然とした顔でソフィアがいつも座る席を見ていた。

「…それから…旦那様は、奥様がお出迎えに要らしていましたのをご存じなかったようですが…」

「え…」

「奥様は、旦那様が留守の間侯爵夫人として振る舞っておいででした…お帰りになりました時に奥様にお声をかけて頂きたかったのですが、エミリー様のご帰宅のお話を聞きまして奥様はご気分を悪くなさいました」

「つ、妻の妹を心配するのは当然ではないのか?」

「……」

じっと見る執事の目にアレックはビクッと体が固まった。

「…長年パルリス家を勤めて参りましたが、これから先のパルリス家をお考えでしたら、わたくしが言いたい事が分かると思います…」

「……」

「長々とお話を致しまして申し訳御座いません…」

執事はアレックに話し終えるとメイドと一緒に食事の部屋を出た。

「…あの、リチャードさん…さっきのお話は…」

「…旦那様が、奥様に悪かったと思うお気持ちがあればいいのですが…」

執事はアレックに、今のパルリス家を支えているのが妻のソフィアだと気づいて貰いたかった。






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