第26話振り向いてくれるのを願い(23)

子供の頃から、エミリーは私の物を欲しがっていた。

『いいな~っ、おねえちゃまのお人形さんエミリーもほしい』

『え…でも、このお人形はおばあさまの…』

『欲しい!欲しい!おかあちゃま、エミリー、おねえちゃまのお人形さんが欲しいの!!』

『ソフィア、そのお人形エミリーにあげたら?人形なんていらないでしょう?』

『え…』

おばあさまの形見で貰った人形はエミリーに渡し…そして興味がなくなるとボロボロになって私の元へ帰って来た…私の物を欲しがるエミリーは、年を重ねても変わらず…夫であるアレック・パルリスまでも奪ってしまった……

「…奥様…」

「……」

まだ、意識がはっきりとしていない私に声をかけたのは医師様だった。

「…奥様、私が分かりますか?」

「……医師…様…」

ホッとした顔で笑みを見せる医師様が何故ここにいるのかわからなかった。

「気分はどうですか?」

「…大丈夫です…あの医師様、どうして屋敷に…」

医師は脈を測っていた手を離し、椅子に座った。

「メイドと会話の途中意識を失い倒れたのです」

「え!?」

「疲れからの疲労だと思います…それとお食事を取られていない日が続いていたと聞きました…それも倒れた原因にもなります」

「……」

「お仕事も大事ですが、一番にご自分のお体を大切にしてください。これから先、お子様をお産みになります時、体に負担がかかりますので…」

「……ありません…」

「え?」

「いえ…なんでもありません…有り難う御座います。医師様…」

笑みを見せるソフィアを見た医師は、無理に笑顔を見せているように見えていた。

「…何か、困った事に悩み事はありませんか?」

「あ…」

(医師様に話したい…旦那様が…でも…)

「…大丈夫です。有り難う御座います…」

ソフィアは手を握りしめ医師に何も言えなかった…

部屋にはメイド長とメイド達が入れ代わりソフィアの見舞いに来ていた。

医師は部屋を出るとメイド長を呼んだ。

「奥様に何か悩み事などありますか?精神的な事もあると思うのですが…口を閉ざされているようなのです何か知っていればと思い…」

「……」

メイド長も悩んでいたアレックの事を話していいものか…

「……ご夫婦の問題で奥様はお悩みだと…」

「夫婦の問題ですか!?……あ!」

医師は何かを思い出し「こればかりは…」と声に出していた。

「分かりました…アレック様にも近い内にお話したいと思います…それから、仕事は暫くおやすみをされた方がいいと思います…それからお食事はなるべく食べるようにお願いします」

「…分かりました…」

「アレック様はお部屋ですか?ご挨拶と奥様の事で知らせたい事があるので」

「あ!…旦那様は仕入れ先へ…」

「そうですか…また、お伺いします」

「…はい、有り難う御座いました…」

医師を見送ったメイド長はアレックの部屋に目を向けた…メイド長は医師に嘘を言ってしまった。

アレックは部屋の中で今もエミリーと一緒にいると…

「……旦那様は、奥様の事を何も思わないのですか…?私は残念でなりません……」

メイド長はアレックの部屋を見てソフィアの部屋へと向かった。




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