第6話振り向いてくれるのを願い③

エミリーが、屋敷に来てから料理人達を困らせていた。嫌いな料理があると旦那様に話し、そして旦那様は料理人達に注意をする所を見た事もあった。

「奥様が料理をお作りになるなんて知りませんでした」

私は旦那様の元へ嫁いでから半年になり、実家の料理が恋しくて…母と一緒に作ったパイ生地で包んだ料理を厨房を借りて作った。

「ごめんなさい、忙しい時に厨房を借りて…」

「いえ、いえ、今日の食卓の一品としてお出しすることができまして助かります」

「奥様、美味しいです!旦那様も喜ばれます」

「ありがとう」

料理長が近くに来てエミリーの話をしていた。

「…エミリー様もこの料理が好きですか?」

「ええ、実家ではいつも食していたから…ごめんなさい、またあの子がいろいろと言っているのでしょう?」

エミリーは、好き嫌いが多いから料理を作る人達には申し訳ない気分だった…

「奥様が謝ることはありません、ではこの料理を食卓へお出しいたします」

「ええ…」

食卓へ並べたパイ料理を見て旦那様は初めて見る料理に驚いていた様子だった。

「…初めて見る料理だが…」

「はい、奥様の手料理で御座います」

「妻の!?」

旦那様が驚いた顔で私を見て少し恥ずかしいと思った私は下を向いてしまった。

「…君は、料理を作っていたのか?」

「はい…母と一緒に作っていました…このパイの中には細かく刻んだ肉と野菜を混ぜワインで仕上げた実家の料理です…旦那様に食して欲しいと思いましてお作りしました…」

「……」

旦那様は一口くちの中に入れ笑顔が見えたのにエミリーの一言で変わってしまった……

「え~~っ、ここに来てお母様の料理を食べるなんて、私このパイ料理嫌いなのに」

「え?エミリー、両親の前では美味しいと言って喜んでいたじゃないの…」

「あの時は、洋服を買って貰いたかったからお母様に『美味しい』と言ったの、私あまり好きではないからパイ料理」

「……」

「…確かに、この料理は口に合わないな…」

「え!?」

(さっき、旦那様口に入れた時笑みを見せて…)

「ですよね!アレックお兄様は、私が食べる料理に合わせてくれるから安心してここの料理を食べる事ができるから嬉しい」

「そうか、料理長に話して暫くエミリーの好きな料理を作って貰おう」

「本当!?嬉しい」

「……」

「お姉様、パイ料理は作らなくていいから」

「君の料理を残してすまないが、君は料理は作らなくていい…侯爵夫人が料理をすると噂になると困るんだ」

「……」

旦那様とエミリーのお皿には、私が作ったパイ料理がそのまま残り、料理人達が私を心配したのか二人が残したパイ料理を皆で食べてくれた…

「旦那様もあんまりです…ぐすっ…こんなに美味しい料理を…エミリー様の一言で食しないなんて…ぐすっ…」

「…奥様、旦那様がお留守の時にパイ料理を一緒に作りましょう…」

「……ありがとう…みんな……」

私は涙を溜めて料理人達の慰める声が嬉しかった…そして、私が作ったパイ料理は二度と旦那様が食することはなかった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る