第4話振り向いてくれるのを願い

妹のエミリーが屋敷へ初めて来た日から、遊びに来るようになり時々屋敷に泊まるようになった。

そんなある日、アレックとエミリーが買い物から帰って来た。

「ありがとう!アレックお兄様、こんなに買ってくれて」

「屋敷へ泊まるには必要だろう?欲しいものが他にもあれば言ってくれ」

「きゃ~っ、嬉しい!大好き!!」

「おい、おい」

「……」

夫のアレックに抱きつくエミリーに笑みを見せる二人の様子を、離れで見ていた妻のソフィアが見ていたのに気づいたアレックは目を逸らし、まだ抱きついて離れないエミリーの腕を取り、ソフィアに目を向けた。

「…どうした?」

「…旦那様、エミリーに甘いのでは?」

「…何故そう思う」

「買いすぎではありませんか?エミリーは欲しいものがありましたら、我が儘を言いましても欲しがるのです。余り買いすぎにならないようにして欲しいのです」

「ひど~い、お姉様!私アレックお兄様に我が儘は言っていないわ!そうでしょう?」

潤んだ目をアレックに見せるエミリーに、一緒に買い物をして「あれも欲しいな~、これが良いな」と言っていたのを思い出したアレックは、我が儘には見えず自分に寄り添うエミリーが可愛く買ってあげたのだと…

じっと見るソフィアにアレックはため息を吐いた。

「はぁ、悪かった。君にも何か買ってやろう」

「え?」

「何が欲しいんだ?欲しいものがあったら一緒に買いに行こう」

「…旦那様と買い物ですか?」

頬を染めて笑みを見せる妻のソフィアを見てアレックは、ホッと息をはいて丸くおさまったと安堵していたた。

「お姉様とお買い物!?」

「ああ…」

エミリーはまだアレックの手を握ったまま離さず笑みを見せていた。

「私も一緒に行っても良い?」

「え…」

ソフィアは、エミリーがまた買い物について行くと話を聞いて気分は良くなかった…

「行ってもいいが、その時は妻の物しか買わないぞ」

「ええ~っ」

アレックと初めての買い物に行く喜びでソフィアは眠れずにいた。

アレックとの買い物に行く日、ソフィアは身仕度を終え玄関で夫のアレックが来るのを待った。

「お、奥様」

執事が慌てたようにソフィアの側に駆け寄った。

「どうしたの?」

「あ、あの…それが…旦那様からの言伝てが御座いまして…」

「旦那様の?」

「……奥様との外出は今度にして欲しいと申されて…」

「…何か急用でも?」

「それが……」

戸惑う執事を見てソフィアはエミリーの姿が見えない事に気がついた。

「…旦那様は、今何処にいるの?」

「…エ…エミリー様とお出掛けに…」

「……」

「旦那様が奥様をお待ちの時に、エミリー様が欲しい買い物があると申されて旦那様と…」

「……旦那様がお帰りになったら知らせて…」

ソフィアは、部屋に戻り実家から持って来たお気に入りの服を脱ぎ、ベッドの上に座り込みポタポタと涙が流れ落ちていた…

買い物から帰ったアレックとエミリーにソフィアは玄関で待っていた。

「お姉様、ただいま!アレックお兄様にまた買って貰ったの、お姉様にも後から見せてあげるわ」

「……」

何も話さないソフィアを約束を破ったアレックは気まずそうにしていた。

「アレックお兄様、早く見たいわ」

「え、あ、ああ…」

手を引っ張るエミリーにアレックは苦笑いを見せ、買い物袋をメイドに部屋に運ばせた。

夫婦での買い物の話しはいつの間にか無くなりソフィアは、少しずつ夫のアレックとの距離が離れて行くのを感じていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る