episode: 008『02 帚木アンダーナイト ~平安京で繰り広げられる恋のかけひき~』

 第8話 「恋の真髄 ~左馬くんの秘伝授業~」


「普段は夫婦仲があんまりよくなくて、ちょっと『うざいな』って思ってる奥さんでも、いざって時に『やっぱ、ナイスな奥さんだな』って気づくこともあるんだよね」


 左馬くんのこの意外とオトナな語り口に、光くんととうくんは「えっ、左馬くん、恋愛のプロだったの?」みたいな顔で驚いてた。でも、左馬くん自身も、結局これといったキメ台詞は見つからないみたいで、深~いため息をついちゃってた。


 左馬くんは、まるで恋愛相談所の先生みたいに、マジ顔で語り始めた。


「だからさ、もう『お嬢様だ』とか『庶民だ』とか、そんなの関係ないんだって。

 ルックスとかも、正直どうでもいいんだよね。

 極端な性格じゃなければ、真面目で素直な子を奥さんにすべきだと思うんだ。

 そういう子で、ちょっとでも教養があれば、多少の欠点があっても『まあいっか』って思えるんじゃない?

 安心できるところが多ければ、趣味とかは後から教えられるし」


 光くんととうくんは、「おや、左馬くん、急に大人な意見言い出したな」みたいな感じで驚いた顔してた。


「でもさ、上品ぶって、本当は文句言いたい時も知らんぷりして、表面上は『できる女』っぽく振る舞ってる子って、いざ本当にキツくなると、めっちゃ怖い呪いの言葉とか、切ない歌とか書いて、『私のこと忘れないでね』みたいな感じで置いていって、誰も知らない田舎とか海辺とかに消えちゃうんだよね」


 左馬くんは、まるでホラー映画の予告編を語るみたいに、ちょっと怖い顔で話を続けた。


「子供の頃さ、侍女たちが小説読んでるの聞いてて、そういう『悲劇のヒロイン』みたいな女の子に同情して、『なんて立派な態度なんだ!』って泣いちゃったりしてたな。

 でも今考えると、そういう女の子のやり方って、すごく軽いっていうか、わざとらしいんだよね」


 左馬くんは、昔の自分を恥ずかしがるみたいな表情してた。光くんととうくんは、「左馬くんって、そんなピュアだったの?」みたいな感じで、ちょっと意外そうに聞いてた。


 左馬くんは、まるで恋愛ドラマの脚本家みたいに熱く語り始めた。


「自分のこと大好きだった彼氏を置いて出て行っちゃって、ちょっとしたイヤなことがあっただけなのに、『もう愛されてないんだ』とか勘違いして家出しちゃったりさ。彼氏に無駄な心配かけて、『私のこと本当に愛してるの?』みたいに試そうとしてるうちに、もう戻れなくなっちゃうっていう。マジでイヤな展開。

『なんて立派な態度なんだ!』って周りにヨイショされると、調子に乗っちゃって、最悪の場合、尼さんにまでなっちゃったりするんだよ」


 光くんととうくんは、「おや、左馬くん、随分詳しいじゃないか」という顔で聞いてた。


「で、尼さんになった時は、『もう未練なんてないもん! 恋愛とはサヨナラよ!』みたいな感じで清々しい顔してんだけどさ。

 そこへ知り合いが訪ねてきて、『あぁ、なんて悲しい。こんなに若くて綺麗なのに、すっかり諦めちゃって...』なんて言うわけ。

 そして、本当は全然憎んでなかった元カレが、それを聞いて泣いたなんて噂が広まっちゃうと...。

 昔の侍女たちが、『ご主人様はあんなにあなたのこと思ってるのに、若いのに尼さんになっちゃうなんてもったいない!』なんて言い出すんだよね」


 左馬くんは、まるでドラマの展開を予想するみたいに話を続けた。


「そんなこと言われると、短く切った前髪に手をやって、『あぁ、やっぱり寂しい...』って気分になっちゃって、自然と昔のこと考えるようになって。

 我慢してても、一回泣いちゃうともう止まらなくなっちゃって。

『仏様の弟子になったくせに、こんなことじゃ仏様も怒るよね』って思うし。

 普通の人よりも、こういう未練がましいのって罪深くて、逆に地獄行きになっちゃうんじゃないかって...」


 光くんととうくんは、左馬くんの予想外の恋愛ドラマ知識に驚きつつ、興味深そうに聞き入ってた。


 左馬くんは、まるで恋愛マスターみたいに、しみじみとした表情で語り始めた。


「でもさ、結局離婚しないで、尼さんにもならずに、旦那さんに連れ戻されたとしても、『自分から家出した妻』っていう事実を旦那さんに忘れてもらうのは、超ムズいと思うんだよね。

 良くても悪くても一緒にいて、どんな時も許し合って暮らすのが、本当の夫婦なんじゃないかな。

 一度でもこういうことがあると、本当の夫婦愛ってもう戻ってこないんだよ」


 光くんは、ちょっと困ったような顔で言った。

「左馬くん、随分詳しいですね。何か、経験でもあったんですか?」


 左馬くんは、ちょっと赤面しながら慌てて否定した。

「いや、いや! 俺なんて...ただ、周りで見聞きしたことを話してるだけさ」


 とうくんは、からかうように言った。

「へぇ~、左馬くんって意外と恋愛小説好きなんじゃないですか?」


 左馬くんは、さらに赤面しながら言い訳を始めた。

「いやいや、そんなんじゃなくてさ...。ただ、こういう話って大事だと思うんだよ。だって、俺たちもいつかは結婚しなきゃいけないんだし」


 光くんは、ちょっと真面目な顔になって言った。

「確かに、左馬くんの言うとおりかもしれませんね。結婚って、そんな簡単なもんじゃないんだな」


 とうくんも、珍しく真剣な表情で頷いた。

「うん、やっぱり相手のことをよく知って、お互いを理解し合うことが大切なんだろうな」


 左馬くんは、まるで恋愛マスターみたいに話を続けた。

「でもさ、もし彼氏の気持ちが本当に冷めちゃってる時に家出したりするのは、超バカな行動だよね。

 たとえ愛情はなくなってても、『妻だから』って理由で一緒にいてくれてた彼氏から、『よっしゃ、ラッキー』って感じで離婚されちゃうかもしれないんだから」


「だからさ、なんでもクールに見てるのが一番いいんだよ。彼氏に他の女ができても、『知らんぷり』はしないで、でも相手の気持ちを傷つけない程度に『ちょっと嫌だな~』って感じを出せば、むしろ愛を取り戻せるチャンスになるかもしれないんだ。

 浮気癖だって、奥さん次第で直せるもんなんだよ」


 左馬くんは、ちょっと困ったような顔をして続けた。

「でもね、彼氏に自由すぎる女って、彼氏からしたら楽チンで、『いい奥さんだな~』って思われそうでいて、実はそれも微妙なんだよね。

『縛られない船は浮気しちゃう』って言うでしょ?」

 とうくんは、なるほどって感じでうなずいてた。


 今度はとうくんが、まるで恋愛相談所の先生みたいに話し始めた。

「今付き合ってる人のこと、めっちゃ好きなのに『この子、本当に俺のこと好きなのかな...』って疑うのは良くないよね。

 自分の愛情が深ければ、相手の気持ちが揺らいでても、ちゃんと向き合って直していけるはずだと思うんだ。

 でも、どうかな? 正直、他に方法なんてあるのかな。

 長い目で見守るしかないんじゃない?」

 とうくんはそう言いながら、自分の妹と光くんの関係を思い浮かべてた。でも、光くんは目を閉じたまま黙ってて、とうくんはちょっとモヤモヤした気分になってた。


 左馬くんは、まるで「俺こそが恋愛マスター」みたいな得意げな顔してた。

 とうくんは、左馬くんにもっと話してほしくて、「うんうん」って感じでしきりにうなずいてた。


 左馬くんは、ちょっと話を変えて言った。

「ちょっと別の角度から考えてみようぜ。

 例えば、家具職人がいろんなものを作るじゃん? 一時的な飾りとか、決まった形がないものだと、オシャレな形のやつを見て『おっ、これイケてる!』って思うわけ。で、次から次へと新しいのが欲しくなっちゃう。

 でも、本当に必要な道具をちゃんと作れるのは、やっぱりプロ中のプロじゃないとダメなんだよね。


 で、絵師の話でも同じことが言えるんだ。宮廷の絵師がいっぱいいて、みんなで絵を描くときに、どれがいいのか悪いのかパッと見じゃわかんないよね。

 架空の蓬莱山とか、荒海の巨大魚とか、中国の伝説の怖い獣とかを描く人は、めっちゃ誇張して人を驚かせるわけ。実際見た人はいないから、それでOKってことになっちゃう。


 でもさ、普通の山とか、川の流れとか、俺たちがよく見る綺麗な家とかを、リアルに面白く描くのは難しいんだよ。近くにある低い山を描いたり、木をいっぱい描いて静かな感じを出したり、人が住んでる屋敷の中をそのまま描いたりする時に、上手い下手がはっきりわかるんだよね。


 字だって同じことが言えるんだ。深みがなくて、ただ線を長く引いたりする技巧だけの字は、最初は『おっ』って思うかもしれない。でも、真面目に丁寧に書いた地味な字と比べてみると、二回目に見た時には技巧だけの字より良く見えるもんなんだ。


 ちょっとしたことでもこうなんだから、人間関係なんてもっとそうだよね。だから俺は、技巧だけで面白く見せようとする人には、永遠の愛なんて持てないって決めてるんだ。

 俺のこと、女好きな奴だと思うかもしれないけど、昔のことを少し話すよ」


 左馬くんは、話に熱が入ってきて、身を乗り出した。

 光くんも目を覚まして、興味深そうに聞き始めた。

 とうくんは、左馬くんの意見を尊重するような態度で、頬杖をついて真剣に聞いていた。


 まるでお坊さんが過去と未来の道理について説法してるみたいな雰囲気になってきて、ちょっとおかしな感じもしたけど、この機会に、みんなが恋愛の秘密を話し始めることになった。


(つづく)

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