episode: 003『01 美しすぎる皇子、誕生! ~桐壺の君は運命の子~』

 そうこうしているうちに、若宮もすやすや寝ちゃった。

「若宮が起きるのを待って、会って、様子を詳しく天皇様に報告したいんですけど...天皇様、私の帰りを首を長くして待ってるだろうし、そしたらめっちゃ遅くなっちゃいますよね」

 って言って、命婦は「もう帰らなきゃ」って感じだった。


「子を亡くした母親の心の闇が、ほんの少しでも晴れるくらいの話がしたいから、次は公務じゃなくて、リラックスした気分でふらっと寄ってよ。

 昔は嬉しいことでよく来てくれたのに、こんな悲しいお使いで迎えることになるなんて...何なの、これ。

 マジで、運命が私に長生きさせるのがツラい」


「娘のこと言うとさ、生まれた時から親をワクワクさせる子だったんだよね。お父さんの大納言も、死ぬ間際まで『この子を宮中に入れるって約束は絶対守れよ』って何度も言ってたの。でも、強いバックもない娘を宮仕えさせたら、逆に不幸になるんじゃないかって思ったりもしてさ。結局、遺言守りたくて天皇様に差し上げたんだけど...

 天皇様にめっちゃ可愛がってもらって、そのおかげでみすぼらしさも隠せたんだろうけど、周りの嫉妬が積もり積もって重荷になって。自然死とは思えないような死に方しちゃって...天皇様の深すぎる愛情が逆に恨めしく思えちゃうくらい。母親バカの私が言うのもなんだけどさ」


 こんな話を全部言い終わらないうちに、未亡人は涙でむせび泣いちゃって。気づいたらめっちゃ夜遅くなってた。


「天皇様もそんなこと言ってるんですよ。

『自分の気持ちなのに、穏やかじゃないくらい愛しちゃったのも、前世からの約束で長く一緒にいられない二人だってことを無意識に感じてたんだ。

 俺たち、恨めしい因縁で結ばれてたんだな。即位してから誰も傷つけないようにしてきたって自信あったのに、あの人のせいで女性たちの恨みを買っちゃって。結局、一番大切なものを失って、悲しみに暮れて以前よりバカになってる気がする。俺たちの前世の約束ってどんなだったんだろう』

 って言って、ずっと沈んだ様子なんです」


 もう二人とも話し出したらキリがない感じ。

 命婦は泣きながら、

「もうめっちゃ遅いし、報告は今晩中にしたいんで」

 って言って、帰る準備を始めた。


 月が沈みそうな夜空がめっちゃ澄んでて、涼しい風が吹いてて、虫の声が人の悲しみを誘うみたいで...帰りたくない気分になっちゃう。


「鈴虫が声の限り鳴いてても、長い夜、飽きもせず涙が降り注ぐな」

 車に乗ろうとしながら、命婦はこんな歌をつぶやいた。


「虫の声が激しく鳴り響く草むらに、露が置くように雲の上の人が来てくれた。

 でも逆に、あなたの訪問が恨めしいくらいです」

 って、未亡人は女房に言わせたの。


 今回は凝った贈り物をする場面じゃないから、「これ、亡くなった人の形見ね」って感じで、唐衣からぎぬのセットに、髪を結うための道具が入った箱をつけて送ったの。


 若い女房たちも更衣の死を悲しんでるけど、宮中暮らしに慣れてるから寂しさMAX。優しい天皇様のことを思い出して、「若宮、早く宮殿に戻ってきなよ」って促すんだけど...

 未亡人は「不幸な私が一緒に行ったら、また世間の批判の的になっちゃうし。かといって、若宮と別れるのも耐えられないし...」って悩んじゃって。

 結局、若宮の宮中入りはなかなか実現しそうにない感じ。


 宮殿に戻った命婦は、まだ夜なのに寝室に入らない天皇様を見て、「かわいそう...」って思っちゃった。


 天皇様は、中庭の秋の花が満開なのを楽しんでるフリして、ちょっと変わった女房4、5人を側に置いておしゃべりしてた。


 最近、天皇様がよく読んでるのは、玄宗皇帝と楊貴妃のラブストーリーを白楽天が書いた「長恨歌」。亭子院がそれを絵にして、伊勢や貫之に和歌を詠ませた巻物なんだって。

 他にも、日本や中国の文学で、愛する人と別れた悲しみを歌ったものばっかり読んでる。まじで落ち込んでる...。


 天皇様は命婦に、大納言の家の様子を細かく聞いてた。

 命婦は、周りに聞こえないように小声で、「マジで胸にグッときました」って報告した。


 天皇様は未亡人からの返事を読んだ。

「こんなもったいないお言葉、どう受け止めていいか分かりません。

 こんなありがたいお言葉をいただいても、バカな私にはただ悲しい悲しいとしか思えません。

 荒い風を防いでくれた木陰が枯れてから、小萩の上はずっと心細いです」

 みたいな、ちょっと微妙な歌も書いてあったけど、悲しみで頭が回ってないんだろうなって、天皇様は大目に見てた。


 天皇様は「ある程度は悲しみを抑えなきゃ...」って思ってるけど、それがめっちゃ難しいみたい。

 桐壺の更衣が初めて宮殿に来た頃のことまで思い出しちゃって、ますます深い悲しみに落ちていくの。


 天皇様は「あの頃は、ちょっと離れてるだけでもツラかったのに...今こうして一人で生きてるなんて、自分って偽物みたいだな」って思っちゃったみたい。


「亡くなった大納言の遺言を頑張って実行した未亡人への恩返しは、更衣をもっと高い位にすることだよな。そうしたいって思ってたのに...全部夢になっちゃった」

 って言って、未亡人のことをめっちゃ気の毒に思ってた。


「でも、あの人がいなくても、若宮が天皇になる日が来れば、亡くなった人に皇后の位をあげられるんだよな。

 未亡人は、そこまで生きていたいって思ってるんだろうな」

 なんて言ってた。


 命婦は、贈られたものを天皇様の前に並べた。

 天皇様は「これが中国の幻術師が、あの世の楊貴妃に会って手に入れた玉の簪だったらなぁ...」なんて、ちょっと夢見がちなことを考えちゃった。


「せめて夢の中でも会えたらいいのに。そうすれば、あの人の魂がどこにいるか分かるのに...」

 って感じの歌を詠んじゃった。


 絵に描かれた楊貴妃って、どんな超絶画家が描いても限界があるよね。そんなに突出した美人には見えない。


 楊貴妃は、太液池の蓮の花や未央宮の柳みたいな雰囲気だったんだろうね。中国の派手な服装も似合ってたんだろうけど...

 更衣の柔らかな美しさ、艶やかな姿と比べたら、もう花の色や鳥の声じゃ例えられないくらい最高のものだったんだって。


 二人はいつも「天国では一緒に飛ぶ鳥になって、地上では絡み合う木の枝になる」って永遠の愛を誓ってたんだけど...運命は一人を早々にあの世に連れてっちゃった。


 天皇様が秋風や虫の声を聞いて悲しんでる時に、弘徽殿の女御は長いこと夜の宿直にも来ないで、今夜の月が明るい中、夜遅くまで音楽の合奏をさせてるの。

 天皇様は「マジかよ...」って感じで不愉快そう。


 天皇様の気持ちをよく分かってる宮殿の役人や女官たちも、みんな弘徽殿の音楽に「うざっ」って思ってた。


 負けず嫌いな性格の人で、更衣の死なんて気にしてませんよ~ってわざとアピールしてるみたい。


 月も沈んじゃった。

「雲の上(宮殿)も涙でぐしゃぐしゃな秋の月。草むらの家(更衣の実家)はどんな風に見えてるんだろう」

 って感じの歌を天皇様は詠んじゃった。


 天皇様は、命婦が報告した更衣の家のことをずっと想像しながら起きてたんだって。

 右近衛府の役人が宿直の名前を言い始めたから、もう午前2時くらいだったんじゃない?


 周りの目を気にして寝室に入っても、全然ぐっすり眠れなかったみたい。


 朝起きても、夜明けまで話し込んだ昔のことばっかり思い出して。

 更衣がいた時も、いなくなった今も、朝の仕事をサボっちゃう感じ。


 食欲もゼロ。

 簡単な朝ごはんは形だけ食べるけど、天皇様用の豪華な朝食は全然手をつけない。


 給仕する役人たちも、この状況にため息しかでない。

 側近の人たち、男女関係なく「マジでヤバい...」って感じ。


「前世からの深い縁なんだろうな」って。

 更衣がいた頃は、世間の批判も後宮の恨みも全然聞こえなかったし、更衣のことになると冷静な判断ができなくなっちゃってた。

 で、更衣が死んだ後はこんな感じで悲しみに沈んで、仕事も何もしない。

「国のためによくないよ」って、中国の歴史の例まで出して言う人もいたんだって。


 何ヶ月か経って、第二皇子(更衣の子)が宮中に入ってきた。

 もともと赤ちゃんの頃から天使みたいな顔だったけど、今はもっと輝いて見えるんだって!


(つづく)

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